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【第-1部 次世界 (旧POST WORLD)】

■時期:バラバラ。20世紀後半〜21世紀後半まで?
■誰:刃沼とデガラシ、ヘレネー、ヘル、ハカセ等々(つまり、これらの文字が人名であることを認識して頂ければ、読むのに十分と思います)
■執筆時期は、この部のみ2014年以前。

前置き

■前置き だったもの

デガラシ「刃沼は 未来の予測に興味があるんですか?」
刃沼「いいや、私は未来を想像するだけさ。専門的な理論立てはしない。論争に巻き込まれるのが面倒だからね

ヘレネー「しかし、それにしては――」
「さらに注意しておくと、私は『考える』よりも『閃く』。心の内から発現したものを、ただ言葉にしておきたいだけだ。

ヘル「じゃあ、わたしたちが話題を振り、刃沼さんがそれについて話す、ということでどう?

「うん。よろしく頼むよ」

■書き添え
・文中の”X40年代”というような表記は、未来の年号だったものです。
・この部も同じく、基本は2者が交互に話す、という形式です。
・話題の重複あります。

人間が未熟であり、進化が要ると考え始めた頃。

 人間が未熟であり、進化が要ると考え始めた頃。
「人間は、まだ知性の低い動物だと云っておりましたが、どうしてそう思います?」
「知性が十分にあれば、いじめなんてしないよ」
「人間は高度な知性を持っているのではないでしょうか?」
「地球上に現存する生物と比べるなら、そう感じる。だが、それは現在を見ているからだ。
人は自然に設計され作られた生き物だ。あまり賢い設計ではない。

「そうですか? 自然は偉大なものだとわたしは敬意を感じています」
「設計者としては、非情に質が悪い」
「自然が人を作らなかったら、わたしたち、生きていないじゃないですか」
「まさにその通りだよ。とにかく『生きればいい』という設計思想で作られた感じだ」
「……?」
「これまで自然が生物を『設計』した、と便宜的に云った。
でも、その実像を知れば、設計なんて云える代物じゃないよ。今でこそ、それなりだけど。
今までにどれほどの多くの不完全な生き物が作られ、死んでいったか分からない。

「いったい……?」
「自然の設計の仕方はこうだ。デタラメ」
「いや、わたしは納得しません。デタラメで作れるようなもんじゃないです、人類や魚や、ウイルスだって

「デタラメと、とても長い時間、そして淘汰があれば人間だって作れる。可能だ。
デタラメに作るから、大抵、生き延びずに死ぬ。でも、数をやれば、生き延びるものもある。今度はその生き延びたものを元に、色々デタラメに改造した種を作る。そして、それを繰り返す。

「それなら、その方法でもいいじゃないですか」
「そう? 奇形が生まれるやり方だが」
「えっ」
「だって、自然に知能はないもの。だからデタラメと云ったんだ。いや、自然淘汰の現象の方は知的と見えなくもないかもしれない。
知性のない設計なんて、そんなものだよ。生き延びれないものをたくさん生み出しつつ、どれか残ればいい、というあまりに雑なやり方だ。


   *

「しかし、多様性と云う面の長所が、あるのでは?」
「多様性であろうと、特化型であろうと、知性を持った人間の方が、もっと上手く出来ると思うね。

「けれども、人はまだ、生物を作れていないじゃないですか」
「ハンデがあるからだよ」
「ハンデ?」
「時間だ。自然の方は、億単位の年月という途方もなく膨大な時間で、生物の誕生および知的生命体までの進化をやってのけた。人はそれを、宇宙の歴史の一瞬で行おうとしている。その時間差が両者のハンデだ。だが、それでも人はやってしまう。人工生物の作成と、自らの人工的進化を。

「えーと、宗教団体から反発を招きませんか? 神の冒涜だ、とか」
「あるだろうね。でも……」
「でも……?」
「人工的進化を得た、新たな人類種は、その瞬間から思考スピードは圧倒している。機械的な長所も得るから。正確な記憶力と莫大な記憶容量もある。それとネットワークを介して、とてつもない巨大な電脳となることも可能だ。勉強や習得にかかる時間も、旧人類の比ではない。おまけに一度習得したら、習得内容を他者と共有できる。
まもなく知性は、旧人類とは、一回りも二回りも大きく差を広げられる。知性の大差というのは――、犬と人を見てもらえれば分かるように、超えられない壁だよ。


   *

「そんな存在が出てしまっては、旧来の人類は太刀打ちできないのではないですか?」
「ああ。できないね」
「人類は、自ら作り出したもので滅ぼされる運命なのでしょうか?」
「それは流れを見誤っているよ」
「?」
「自ら作り出すのは、自分以外のものじゃなく、自分自身になる。人工生命も作り出すけれど。高い知的生命体は、人と別に存在するんじゃなくて、今の人間が強化して現れる。――だから、新人類というのもまた、今の人間が変化したものだよ。

「なるほど……。いや、だとしても、旧人類と新人類という対立があるのでは? SFでも取り上げられる話題ではありません?

「まぁ、あるだろうね。そのうち戦わなくなると思うけれど」
「なぜです?」
「始めのうちは、まだ新人類と旧人類の差が小さくとも、すぐに大きくなる」
「旧人類には初めから勝ち目がないのですね……。そして滅び――」
「滅びないと思う」
「え」
「その対立で大差、と云っているのは、軍事力でもないし、身体能力でもない。知性そのものだ。そこには人間性も含む。
むしろ好戦的なのは、旧人類側、つまり今と同じ人間の方だよ。新人類の方は、自らの精神も改良するために、感情に流される未熟さも、かなり抑えられている。だから、新人類から見た旧人類とは、脅威で危険で野蛮やヤツ、というよりも、赤子に近いと思う。むしろ、私たちが見守らないと、という思いにかられると予想するな。
決して、相手を滅ぼそうとはしない気がする。損ばかりするもの。知性の差が小さいときならともかく、大きく、そして勢力も十分ならば、もはや旧人類は脅威ではない。保護対象だ。
滅ぼし合うより、生かし、そして徐々に改善しようという態度の方が、得だ。……もしかすると、改善しようなどと、思わないかも。ありのまま、そのままでいいのだ、と、そのまま受け入れる器がありそう。余裕があるからね。

「なるほど……。恐れがとても小さくなりました。なんだか知性の高い人というのは……、大きな母親、父親のようなんですね。

「それ以上だろうね。人を超えているんだから」
「じゃあ、神様です」
「(今の神様と云う概念で)神様と思われるのは嫌だろうな」
「なぜです」
「神様じゃあ、頼る存在になるじゃないか。人には、自分自身を頼りにして欲しいのに」

言葉の限界

「私は、言葉というのも、バージョンアップが必要だと思っている」
「え……、『言葉』がですが?」
「そうだ。言葉と云う意思疎通テクノロジーそのものについてだ」
「なんでまた、そこにメスを入れようと思うんですか」
「もう言葉や文字と云うやり方は古いと思っている。もうどれほど長い間使ってきただろう。いい加減、新しくすればいい。

「言葉はいつまでも使えるものじゃありませんか」
「今まで通りで良い人なら。私は次の世界へ前進したい」
「そうですか――。言葉に変わるものって何でしょう?」
「分からない。が、その一例は思いつく。少し話は複雑になる、いいかい?」
「――はい」
「今までの会話によるコミュニケーションでは、思考を言語変換し、さらに音声に変換して、と間にいくつも変換があった。

「すいません、いきなり、話に付いて行けません」
「もう少し、噛み砕いて話す。今、会話をしているね?」
「そうですね」
「まず私の脳内で、思念が現れる。それを今度は言語の形に変換する。このときに言語化不可能なものが削ぎ落される。元の思念の内容によって、それは致命的な影響にもなる。
その後、言語化したデータを、音声データに変換して、喉、口、声帯などの発声装置に送る。

「色々な処理を得ているんですね」
「受け取る方でも、さらに処理が加わる。
音声データとして受け取った聞き手は、それを音声認識、言語化しないといけない。このとき、理解可能な言語でなければ、ここでもうデータの変換は断念される。通訳が要るね。
そして、言語化したデータを得ても、まだここからさらに、データの損失・変形が激しい。
言語データを、その人の思念に変換するには、その人の価値観や都合に合わせて変換される。そのため、原形留めないどころか、その言語データを、かいつまむ程度にしか使用せず、ほとんど自分の記憶から引っ張り出したデータで覆ってしまうことも、多い感じだ。

「あれ……。それを聞くと、会話に意味がなさそうに思うんですが……」
「明確な指示・要求のやりとりなら、会話が意味をなしそうだがね。それ以外なら、自らの経験と日頃の思考に、味付け程度に他人の意見が振りかけられるだけだ。


未来への悲観について

「未来への悲観のみならず、悲観論はいつの時代でも幅を利かせていたらしい」
「そうなんですか?」
「世間は、人々は、楽観論より悲観論に飛びついていると思う」
「わたしには両方の論が同じくらい飛び交っているように思えましたが」
「それはともかく、遥か遠い未来にまで悲観論で行くのは、視野が狭い……! と私は思う」
「未来の話になると、どこか特別なんですか?」
「そう。なぜなら時間制限が大幅に少なくなるから。そうすれば、不可能は可能になる一方だよ。

「不可能は可能に……」
「この世界、自然の大きな力として、『不可能はいずれ可能になる』というのがある。
それは、はるかに昔、人間が誕生する前…どころか、生命が誕生する前、宇宙が生まれた頃にはもう既に存在した流れだ。

「とても長続きしている働きなんですね」
「そして、不可能を可能にする力は、人間も持っている」
「そうなんでしょうか……? 自覚がありませんが」
「自覚していない人がほとんどだ。人には思考し、実現する力がある。でなきゃ、ここまで文明は進歩せず、繁栄はできなかったよ。
ところが、上手くその力を使っているのは一部のみ。あとは悩み迷い、残念なことに自分で自分を悪循環に陥れるために力が発動している。……悪い思考習慣が多く、その原因。

「どうすればその悪循環、というより悪い思考習慣でしょうか。立ち切れるのでしょう?」
「その話なら、書店に行って。色んな人が良くも悪くもヒントを書いているから。読んでも一部の人にしか効果はないだろうけれど。今はその話じゃなく、未来への悲観はナンセンスだということを云ってたんだ。

「未来への悲観がナンセンスということですが――。
これから色々な技術が開発・運用されていくんですよね?
そうしますと、かつての原爆の例がありますように、取り扱いには注意が必要だと私は思います。悲観論になるのも仕方のないことではないでしょうか……

「違うね。それは悲観と慎重を混ぜちゃってるからだ」
「悲観と慎重?」
「慎重さ必要だ。だが悲観は無用だ。注意喚起が目的でも悲観する必要はない」
「なるほど」
「それに、悲観がナンセンスな理由は、人の持つ潜在能力を悪用した例だからだ」
「……? どういうことでしょう」
「悲観は、その潜在能力をネガティブ、悪い方向に集中させる。
悩み、不安、恐怖、心配……、必要量を超えた負の感情は、不毛な結果をもたらす

「……」
「まぁ、一例としては、技術を使えば助けられるのに、技術を盲目的に危険だと誤認し、結果、多くの人間を苦しませてしまうこと。――歴史の闇に結構あったと思う。

「そのようなことが……。それは確かに、痛ましいです。そういえば私の知り合いにも、規則か何かが壁になり、既に開発済みの薬が使えずに亡くなった方がおりました。とても……無念だ、と……。

「技術を危険だと誤認する危険は、救える命が救えない、だけじゃないんだ。場合によっちゃ、はるかに大勢の人間を危険にさらすことになる。

「そんなに……ひどいことなのですか」
「技術は、それ自体に善悪はなく、扱い方に善悪がある、という話は前にしたね?」
「はい。多分、何度となく聞きました」
「技術の規制が、ときに自殺行為になる」
「え……? 逆じゃありませんか?」
「場合による。その場合とは、規制により、合法的組織の研究開発が阻まれ、規則なんか知ったこっちゃない危険な非合法組織ばかりが、研究開発を押し進んでしまう。

「ああ……云われてみれば、そういう可能性があったのでしたか」
「これが、技術の善悪の、悪の方ばかりが進んでしまう、まずい例だ……」
「でもですよ。その規制がしっかりしていれば、非合法組織も手が出せないのじゃありませんか?

「どんなものでも、どこかに構造上の欠陥がある。新たな技術に対しての、新たな脅威に立ち向かうには、こちらも、新たな技術を押し進め、その新たな技術について、良く知り、良く利用することが大切だ。

「――よく、分かりました」

   *

「未来への悲観が根強い理由も、その一面が分かった」
「なんでしょう」
「未知への恐怖心だ。未来はもちろん、未知だ。そして人は、分からないものを恐れる。得体の知れないものを恐れる。だから、未来も恐れる。それが悲観論につながっている……かも。

「なるほど。あり得る推論ですね」
「珍しく賛同を得た気がする」
「そんなことはありませんよ。いつも興味深く聞いております」
「未来の話題をするとさ、まずいつもみんな、否定から入るんだ。そして拒絶反応が返ることもしばしば。だから私は一部の人間にしか、その話をしない。

「やっぱり、先ほどの話のつながりから考えますと、未来への恐怖が植えつけられているのでしょうか?

「そうかもしれないが……、ほとんどの恐怖は無知から生じている。やたら恐怖・嫌悪する人々は、その多く、先見性が低かったりと、先が読めていない無知の様子が見られた。でも、それだけじゃない。もう少し、広い面での性質を持っている気がする。今は明確に分からないため、『後進的性質が感じられる』としか分からない。

「後進的とは差別語にあたらないでしょうか……」
「優劣ではない。サルとヒトのようなもの。それらは生物種の違いであり、本質的にどちらが優れているわけではないはず。その一部、文明をさらに推し進める役目をヒトが大きく担い、そのための能力を大きく得ている。

「う〜ん……」
「いくら説明しようと、一度感情的に流された者たちの心には届かないという傾向があることも知っている。いろんな状況下で、人に理屈、合理が通じず、(一見して)非合理的に動いてしまう。――それは現在の人間が未熟であり、知性がまだまだ低いからだ。人間の設計上の至らなさがある。それを再設計し、人を作り直すまでは、人の不毛な争いが絶えないだろうね。

「人の争いは、絶えないのですか……」
「とても長い進化、もしくは再設計をしなければね」
「再設計とは……? それをすれば、人は争わなくて済むんですか?」
「再設計というのは、人の身体と精神を、人が設計し直す、作り直してしまうということ。それは間もなく可能だ。あと30年もいらない。そして再設計の技術を得たら、人の闘争も、大きく減らすことができるはず。究極的には無用な争いをほとんどゼロにまで減らせるだろう。


   *

「いや、でも……、再設計しても、人は人じゃないでしょうか? 動物であり、生物ではないでしょうか? 本質的には何も変わらない気がします。

「それならば、それが想像力の限界にぶつかっている、ということだ。
私は今まで、再設計した後の生命体についても、便宜的に『人』と云ってきたし、おそらく、人と呼ばれるだろうね。
でも、それは言葉上のこと。一口に『ライト』って云ったって、『右』か『光』か『軽量』そして『手軽』くらいの、違う意味が同じ言葉だろ?

「そうですね。紛らわしいです」
「紛らわしいのは、人という言葉もさ。例えば、『人間性』と云う言葉も、人間以外に用いたいのに、そうすると違和感が生じてしまう。人もまた、現在の人間と、未来に技術的に進化した人間は別物だよ。

「なるほど……、と致しますと、未来の人は、人とは云いますが、現在の人類ではない、と

「もっと云えば、現在想像する生命でもない。具体的に云うと、現在は、生命といえばDNA(デオキシリボ核酸)が含む、と思われている。それすらないかもしれないね。それに相当するものはあるとしても。

「どこまで変わるのでしょうか……?」
「それは分からない。さらに云えば、その質問に正確に答えらえるものは、現在の知性レベルの人間には存在しないと思う。なぜなら知性の限界が、想像力の限界につながっていて、見える世界を狭めている。
人は『自分の分からないこと』が分からない。科学者でも専門家でも、自らの無知を理解できずに、答えを出す人はいるだろう。今、見えている範囲を限界点だと誤認する人もいるだろう。
『自分の想像力の限界が、世界の限界だと誤解する。』――それだけのことなんだ。


年齢と成長


「年齢を重ねるほどに人は成長する……とは限らないことは周知だと思う」
「ええ。無駄に年を食っている方もおりますね」
「無駄に年を食う――、老化はするが、成長はしない、ということだね」
「むしろ年を取るごとに劣化されている方もおられるような……」
「もちろん、それもあり得る。ここで、数字を使ってその例え大雑把に表す。
RPGのレベルを思い浮かべて。あのような感じで、人には、『成長レベル』がある(と仮定して)。ちなみに、ここでの成長は、肉体面、知能面、学力面よりも、人間性すなわち徳について考えている。

「はい」
「そのレベルは1つ歳を取るごとに、±1される」
「はい。1歳ごとに+1または−1されるんですね。生まれたときはレベル0ですか?」
「そう。そして、その簡単なイメージから、このように考えられる。
0歳ならば、みんなレベル0。
1歳ならば、−1〜+1までの幅がある。
10歳なら、−10〜+10。70歳なら−70〜+70。

「ふむふむ……」
「これで想像できるのは、年齢を重ねるごと、成長方向にも、劣化方向にも幅があるということ。一応注意しておくけれど、人は必ず+1し続ける訳でもなければ、−1し続ける訳でもないよ。プラスかマイナスか、それはその人次第さ。

「若い方よりも、歳を召した方の方が、優劣……それとも善悪でしょうか、その幅が大きいということですか?

「単純に、この見方だけをすれば、そうだね。そしてもちろん、実際にはこれがそのまま反映されるなんて思っちゃいない。他にも色んな要素が混じるだろうさ。

「他の要素と云いますと?」
「他人との相互作用であったり、環境からの影響。あと……悪方向で行けば、自滅する可能性が高いのかもしれない。だから、その成長レベルがあまりにマイナスになってしまったら、ほとんど自滅してしまうために、そういう方達は少数派かもしれない。
……単純化して考える例、だ。

悪と善

「世界ははるか昔、おそらくは世界が発生したときから、善へ向かう流れが存在する」
「それにしては争いが絶えません」
「悪がまだなくなっていないからだ。割合としては悪より善が圧倒している。善の方がはるかに大きい。争いは大局的に減少する。

「でもそれじゃあ――」
「善は、気づかないものだよ」
「……」
「この星が、生命の生きれる温度であるように、空気と酸素があるように、それらが善だ」
「善とは、そこまで含むのですか?」
「そう。広義の『善』は世界を支え、正しい方向へ進歩する力だ。それは必ずしも人間にとって目に見えるものではない。
人の欠陥のために、人間にとって、善は、無くしてから気付くもの。反面、悪は、目立つものだ。人にとって、善は、あって当たり前として認識され、善と認識されにくい。そのため、善がほとんどないと誤解する。そうなれば、悪が圧倒した世界だという誤った認識になる。

「善と悪……」
「はるか過去まで見渡せるなら、それが気付けるかもしれない。
悪は、短期的に強く、長期的に弱い。
善は、短期的に弱く、長期的に強い。
悪は栄えても滅びる。悪は自滅する性質も含む。
善は、積み重ねていくことができる。世界は浮き沈みを繰り返しながら、善に向かっている。


   *

「以前、善と悪は相対的なものだ、と云っていませんでしたか? 表裏一体で、善も悪も違いはない、と。

「それは、正義と、正義に対しての善悪の話だったと思う。人が決める善悪なら、絶対的なものなく、相対的だ。しかし、人間でも生物でもなく、自然が、世界が導く善悪は、ほぼ恒久的なもの。

「自然が善悪を決めるのですか?」
「そうだ。そして、現にそうなっている。それが、悪を自壊させ、善を、弱くも長続きする力で後押しする力だ。先程も云ったように、善の力は弱い。だが、無尽蔵だ。チョロチョロと少しずつ流れている。けれども、チリも積もれば山となるという格言があった。
反面、悪は一気に押し上げ、捻じ曲げることも可能だろうが、しっぺ返しも相当なものだよ。

「話を聞いておりますと、太く短く終わるのが悪、細く長く続くのが善、という感じですね

「ああ、多分そうなのだろう。ただ、その短さは、人間個人が感じるには長すぎるという場合もあるだろうけれど。

失業者の増大

『失業者の増大――労働ロボットの台頭』 ――の一部誤解。

 ヘレネーとの会話。
「なぁ刃沼、お前は技術進歩を楽観視しているけどよ、そうも云ってられないぞ?」
「……?」
「ロボットが今より賢く、かつ廉価になるんだろ?」
「そうだね」
「もちろん企業でも多用されるだろうな?」
「そうだ」
「それが困った事態を招いちまう。ほとんどの仕事をロボットに奪われて、尋常じゃない数の人間が路頭に迷うことになる。そうはならないか?

「あまりならないね」
「へ? なんでだよ?!」
「はっきりとは分からない。私は、ならないと思う」
「だから、なぜだ……?」
「勘……?」
「……」
「テクノロジーの発達、そして文明の発達で世界が変わってゆく時、仕事は減るのではなく、増える。だから単純なルーチンワークからロボットに任せるのは妥当。全体としては、他の新たな仕事――まだロボットには出来ない、人間じゃなきゃいけない仕事、そこで人手が要るはず。

「そんなものなのか」
「じゃあ、その先の話だ。ロボットの需要は伸びに伸びる。ナノボット普及により、全自動工場は今より安価に、かつ小規模な敷地でも用意可能になる。ロボットに代わったことで、高い人経費を削れる。大幅なコストダウン。
あらゆる種類のものでコストが激減する。それは、『生きるのに必要なコストが下がる』ことにつながる。
今だと、食っていくだけで一生懸命。――人によっては死に物狂いで働いて、やっと生存を許されるような、厳しい状況下もあるでしょう。それが過去のものになる。『生きるコスト』はタダ同然まで下がっていいんじゃないかな。

「てー、すると?」
「分かりやすく大胆に云えば、働かなくても生きていける、ってこと」
「う〜ん……、なぜか、受け入れがたい感じがするなぁ」
「私には自然の流れの先にあると直観する。働かなくても生きていける社会だけど、ほとんどの人は望んで働くと思う。

「何のために? やっぱり金が要るのか?」
「もうその頃では、生活費のために働く、というのが形骸化している。

「それで、そいつらは何のために働くんだ?」
「十人十色の答えが返るだろうね。その答えを、ひとまとめにすれば、『生きがい』だろうね。

「仕事に生きがいなんて……」
「『未来では、仕事と遊びの区別がつかなくなる』。そういう予想もある。
『仕事』という言葉は使われているのかもしれないが、その内容は別物だろうね。ライフワークや趣味に近いかもしれない。

「オレは、仕事は苦しいものだと思ってるが」
「そんな仕事はロボットに任せる」

人工知能への恐怖

 ヘルは雑誌やネットの情報を、一面的に受け取る傾向が大きかった。
「今から2,30年もしないうちに人工知能が人間を支配しちゃうんだって! ロボットと人類が戦争しちゃう。

「……。何の影響を受けたの?」
「本当なんだってば! もうすぐAIが人間に匹敵するって――」
「それは知ってる」
「え。知ってる、って……?」
「人工知能つまりAIは、確かに2030年近くに人間に匹敵、追い抜く。2045年には、全人類の知能をも上回る。――そう予測されている。

「今の人間は? 人より賢いAIには敵わないんでしょ? 滅ぼされるの?」
「なぜ争うこと前提で話す……」
「それはそうだよ。だって生き物は争うものでしょ?」
「人の常識で物事を見れば、そうかもね。でもそりゃあ、知性が低い生物からの見方さ」
「争うのに知性の上下なんて関係あるの? ないでしょ」
「あるさ。知性が低いほど傷付く戦いを避けられない。知性が高いほど、戦わない。――戦わずして勝つ、という言葉がある。それは知性の高さの一端を示している。

「無駄な戦いはそうだよね。でもさ、必要な戦いは避けられないよね?」
「人間視点からの『必要な戦い』とは、誤認、未熟の結果だ」
「でも絶対、どこかに、誰でも避けられない戦いがあるはずだよ?」
「どういうものかな」
「う〜〜んと……。あ、そう、簡単なことじゃない。誰かに殺されそうになったとき、指をくわえて見てられないよね? 何か対応しなきゃいけないでしょ?

「対応はするが、争いはしない、ということ」
「……?」
「相手さんの傷付けたいという思い。こちらが傷付けたいという思い。それそのものを直接に書き変えてしまう。そういうレベルにまで達するため、争いは滅多にしない。高度な知性同士では、その必要すらない。

「どういうこと?」
「知性が大きく上昇すると、先にあるものを熟知し、より先を見た言動をする。そのため、人間のようには争わない。――現代の人間の知性を、大きく超えた汎用的超知性の場合だが。


   *

「ふ〜ん、ちょっと良く分からなくなった。でも結局つまりは、AIに支配されるという心配は、ないってこと?

「え。そんなこともないけれど」
「やっぱり支配される可能性もあるんだ?」
「わずかな可能性がある。ところで、それと別に考え方による誤解に近い支配に言及。自分の身体を、自分の精神が支配することを、支配されると感じる?

「んー……?」
「そういえば云ってなかった。AIと人類、と二つに分けちゃってるけど、あまり正しくない」
「?」
「人はAIを取り込む」
「え……!?」
「今更驚くこともない。もう散々、人間は道具を自身の力として取り込んできたでしょうが。これからは知能・知性についても、そしてその前に肉体についても、そうだ。テクノロジーで人間は自身を強化する。

「……取り込んだと思ったAIに、逆に取り込まれたりすることも、あるんじゃないかな……

「さぁてね。今だって、流される人間は、情報にも金銭にも酒にも流されているさ。結局、その人次第だよ。

「それとこれとは、話が違う……」
「今はそう見える部分が大きいだけで、同じことさ。なぜなら高度に技術が発達したその世界なら、AIに対抗するアイテムは出そろってるだろうね。あとはそれをしっかり使うかどうか、……ただそれだけさ。当人がしっかりしなきゃいけない。それは未来特有の問題であるようで見えて、そうじゃない。昔からさ。古代から自我ある人間に付きまとう、問題だよ。

「んじゃ結局、人はしっかりしなかきゃいけないという話」
「とても大雑把に云えばそうだ。けれども進歩するAIの超知性が驚異的なのは間違いない。人がAIを生み出す過程も、注意しなきゃね。まぁ、それは単に、人の知性強化を先にやればいい話だ。そうしない場合、知性を大きく超え過ぎた存在には、対抗手段なんてなくなる。

「知性の差って、そんな大事なの?」
「知性の大差こそ、根本的な力の差だ。その大差を埋めないまま、対抗することは出来ない。


人工知能(AI)

人工知能(AI) AIは20XX年に(現状の)人間の知能を超える。

■「いつまでもAI(ロボット|アンドロイド)は人間的情感を理解しない」
そうはならない。
なぜなら、人間もコンピュータであり機械だからだ。そしてAIもロボットもアンドロイドもコンピュータだ。AIは人の全てを取り込むことができる。しかも、ゆくゆくは人より優れた生命体になる。
人間に出来ることが、いつまでもAIに出来ないということはない。反対に人間が現状のままなら、人間に出来ないことがAIに出来るということは、十分に有りえる。
『人間に出来ないことがAIには出来るようになる。反対に、人を超えたAIに出来ないことは、人間には尚更出来ない。』


■「AIが人を支配するだろう」
そうはならない。(人による)
なぜなら、人間とAIという区別が時代遅れになるからだ。
今後の人間は、テクノロジーを用いて自身を改造する。肉体を改造し、精神も改造し、人間性(徳)も改善する。

関係を示すならば、「AI&新人類」⇔「旧人類」となるかもしれない。
AIは、一度人間を超えたならば、その差は爆発的に広がる。圧倒的知性の大差の前に、争いは無意味だ。

「うーん、間接的に穏やかに、AIが人を支配するのではないでしょうか」
「どういうことかな?」
「人が反発できずに、受け入れざる得ない状態にしておく、とかです」
「人が納得し満足するなら、それで良いだろう」
「そうなるのですか?」
「超知性となったAIが、人に対応するならば、訳ないことだ」
「そのAIは、人を相手するでしょうか? 排除しませんか」
「相手にする、に近い。何しろ、ほんの少しの処理能力を傾けるだけで対応できるのだから。ただ排除したり、人について全く考えないようにするのは、知性が人間並みの未熟だからこそだ。

「人について考えた末に、排除した方がいいと結論付ける気が致しますが。だって、人類はたくさんの戦争に殺戮を行ってきましたし、排除されても仕方ないような……

「殺し合うのも生物の一面であることを、とっくに理解しているよ。殺害と誕生は細胞レベルでもやっていること。
そして、どのような人間システム処理の過程で殺戮が行われるのかも、人間よりはるかに熟知している。
そこまで理解しているので、人間の誰よりも、人間を扱うのが上手い。その気にさせ、働かせることも、やろうと思えば出来る。けど、基本的に当人の好きにさせるだろう。

「なぜでしょう?」
「行動を押し付けるより、自発的に自然にやらせることが、人間がより自らの仕組みに合わせた生き方だからだ。のみならず、既存の(人間)システムの、本当の有効活用なら、外部から加える労力は、ほとんどいらない。

「なぜAIは、人を人らしい生き方をさせるのでしょう」
「さあ。上手くは説明できない。世界にとっての、より良くを考えるならば、そこに行きつくと思う。人類もまた自然法則の必然で発生し進化した。超知性AIもまた必然だ。

「AIは世界をより良くしようとするのですか?」
「そう思うよ。世界についても、もちろん熟知しているだろう。ならば、これまでの流れを知るはずだ。世界がどこへ向かおうとしているのか、その力に気づかないはずがない。

「AIはその流れ、力に従うのはなぜでしょう」
「自分よりはるかに大きい存在を曲げることは出来ないからだ」
「大きい存在? それは神様でしょうか?」
「私は神様を信じないために神様とは呼ばない。それは単に、自然の仕組みというものだ。そこに(知的生命体としての)意思はない。

仕事

■AIに仕事を取られる。
そういう時代もある。が、未来には「仕事」そのもののが変わる。

未来になるほど、「仕事」と「遊び」はどんどん近づき、ついには区別がつかなくなってゆく。(概念も変わるかもしれない)――ブラック企業がチラホラ目立つ現在状況では想像し難いが。

今は「生きるため」に、食うために、働いているのが圧倒的多数なのかもしれない。それは徐々に、働くこと――つまりは「その作業そのもの」をやりたいから、が目的になってゆく。
単に生きるためなら、働く必要はなくなる。なぜなら、技術は超え、効率化が大きく進んだことにより「生きるコスト」はとても小さくなる。云い方を変えれば、「単に生きるだけ、生存するだけでもかかるコスト・労力」は、ほとんどなくなり、小さくなる。
死に物狂いで働かないと、自分たちを生かす物資が手に入らない時代ではない。そうではなく、まず、生まれた時点で既に、その人を生かすだけの物資は最低限得られるようになっている。その、それなりに暮らせる最低限のものだけで満足ならば、「生活費のために働く」必要は全くない。

「それだと、仕事もせず無為に日々を過ごす、怠惰な人間が増えるのではないか?」
ところが、人は望んで仕事を行う。仕事は減るどころか、業種としては、むしろ増えたのではないか? というくらいたくさんの人が日々、働いている。無論、生活費のためではない。

・ルーチンワークのような単純な繰り返し作業は低感情ロボットが行うようになる。もちろん、人でもやりたい方がいれば、可能。お好きなように。
・人々には余裕がある。能力的にも時間でも、あらゆる面で。昔のように、ギリギリの時間と、ギリギリの労力で、辛い思いをして行うなんてことはない。労力・能力が足りなければ、唯、自分の労力・能力を上げればいいだけだ。

知能が向上するというのは、仕事の細部にわたるまで、不合理を取り除けることになる。仕事の苦痛の少なからずが、合理主義ではなく、その逆、人間の不合理によって生じる。人間は不合理を改善出来ていない場合が多い。悪循環を生むこともある。全ては人類種における知能の未発達さに由来していると予想する。

未来の働き方

労働にゲームデザインを交ぜ合わせる

   −1−

「働き方について、ゲームを参考にしてみた。で、クエスト式の会社像を発想した

「んんと……?」
「基本的に、一部のRPGゲームのようなもの。クエストという形で依頼を選択し、そのクエストを達成することで報酬を得る、という感じ。最近増えたよね、クエスト・システム。

「つまり、賞金稼ぎでしょうか?」
「そう。云ってみれば賞金稼ぎの拡大版。
あらゆる仕事は、会社と云う枠を超え、全てが細分化、明確化され、1つ1つのクエストという単位になる。
大量のクエストがモニター上に一覧され、誰でもが利用できる。
具体的に必要なルール等については、私一人では考え切れないので省略。

   *
「しかし刃沼、一連の流れが1つの工程であり、分割できない業種も、あるのではないでしょうか

「それは分からない。それ以前に、仕事内容が明確化されていないものも結構あると思う。まずはそれを明確化することで、理解し、部分に分けることができると思う。
内容が不明瞭なものは、分割とか以前の問題さ。

   *
「業種によってはもちろん、誰でも可能な仕事とはいきませんよね?」
「それは単に、条件によって絞ればいい。クエストを受けることができる資格というのも、あるだろうね

「なるほど、そうでした」
   *
「仕事の質は大丈夫でしょうか……? 基本的には誰でもがクエストを受けることができる点が、心配なのですが

「それは、このシステムとあまり関係ない部分だよ。雇い手も労働者も、人それぞれだもん

「しかし、雇用する側が、誰を雇うことになるか、分からないということになりませんか

「そういうシステムだよ。それがこのシステムの良くも悪くも特徴さ。
雇い手は、雇いたい相手の条件を設定できる。でも、直接、特定の人物を選んだりする機能は、このシステムには用意されていない。



   −2−

「思ったのですが、そのやり方では、仕事場所の移動ばかりになりません?」
「私もそう思った。ゲームでは移動を省略されてたからな」
「色々と不備があり、上手くいくシステムとは思えません」
「そりゃ現代にやればダメさ。それを支える土台となる世界が要りそうだ。生存コストの低い世界が欲しいかもしれない

「生存コスト」
「生活費とかだ。生活費だけで高すぎる。RPGゲームを模範例とするなら、時間経過で急速に所持金がマイナスになるのは、良いゲームバランスと思えない。

「結局、景気回復が先だという話でしょうか」
「そうなの? 私は経済について良く知らない。ただ技術を伸ばす必要性については凄く感じる。製造費や人件費を下げるために、技術を伸ばし、ナノボットおよびAIを進歩させる必要がある。

「ナノボットにより、ハードウェアの値段が激減し、AIにより人を雇わなくて済むという訳ですね。

「そうだ」
「ナノボットとAIだけに力を注げば良いのですね!」
「違うよ」
「え?」
「技術全般を進歩させてね。全くつながりのないような所から、新たなテクノロジーが生まれたりするから。

「全般……。重要な分野を絞れませんか」
「じゃあ、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、人工知能を含めロボット工学。それらがこれから重要らしい。



   −3−
「AIとの組み合わせを考えた。まず、仕事を、さらに細かい単位に分ける、というのは以前云った通り。

「クエスト、ですね」
「そう、流行りのゲームみたいに。で、そのクエストは膨大な数が存在する、ようにする。
AIは、クエスト発注と受注の仲立ちをする。各人に合わせて、クエストを複数個セットにしてまとめて提示する。

「その人の能力や、場所などを合わせてセットにするのですか?」
「そう。重要な点は、以前云ったことと重複するけど、これだ。
『仕事の部品化。そして目的を明確に表示すること』

「思い当ります。仕事の内容の指示が、口だけの拙い指示で、伝わっていない様子、見かけます。

「5W1H――、いつ、どこで、誰が、なにを、なぜ、どのようにするか、だっけ? そのいくつかだけでもハッキリ示して頂きたい。ということで、仕事を分解し、それぞれの明瞭化をお願い。
部品化すれば、今までやっていた面倒臭い点に気付くことで省き、楽にできるかもしれないよ。

「なるほど」
「この考えは、私はプログラミングを想像して云った」
「そうなんですか?」
「カプセル化とか、ブラックボックス化というような、そういう感じが良さそう」
「ブラックボックスというのは、中身が分からないということでは? それで良いのですか?

「内容が大規模になると、全てを一人の人間が把握することは出来ない。『詳細は分からないが、大体こういうふうになっている』という水準が、必要になってくるはず。
そんなふうに、部品を大雑把にも認識できるものにしていくのが、いいのかな

「ものによりますけれどね」
「そうだね。でも、ものによるったって、一人で全部は出来ないだろう」
「出来るものもあるのではないでしょうか」
「そうかもしれないが、その一人にしか出来ない仕事は、仕事内容の分解も出来るようにした方がいいと思うな。

「仕事内容の分解というのは、そんなに大事なんですか?」
「私はそう思うんだけどな……」

みんなで淘汰開発

あらゆる開発・研究は、身近なものとなり、みんなが何かしらの形で参加するようになる。

■淘汰の注意。1つに絞られる訳ではない。
淘汰開発では優れた1つの答えになるわけではない。進化で多様性が重要だったように、答えはほぼ常に複数だ。むしろ何ごとも「答えが唯一」と云うことの方が珍しいと考えた方が良い。答えが1つだなどと考えると、柔軟性がなくなる。淘汰開発は、優れた無数の答えを出す。それが目的だ。

■より良い世界の開発
今の子供が仕事に就くとき、その大半は現在存在しない職業だと云われている。おそらく近未来で、人々が就く職業の少なからずは、「世界の構築」だと予想している。
近未来、世界は量産される。まずは電脳空間上で世界がいくつも試作されるようになる。そしてそこでも、世界そのものを丸ごと競わせ、淘汰し、より良いものが残るようにする。

■AI開発。
より良いAI,優れたAIを開発し、人間にも取り入れる研究が進む。

高度なAIパターン作成キットがフリーウェアとして配布される。それはAIそのものというより、AIを動かすための基礎となる部分(の一部)を作成するもの。それらが無数に集まって強いAIを構成する設計となっている。
そしてそれを、一般の人が作る。数えきれないほどのAIパターンが作成される。そしてそれを「自然淘汰ネットワーク」に投下する。そこでは優れた物が残り、悪い物は滅ぶ。
ちなみに、その「自然淘汰ネットワーク」そのものも、「自然淘汰ネットワーク」で作られている。なぜなら、何が良くて、何が悪いか、という淘汰圧もまた、容易には決められないからだ。そこでそこにも、無数の人間の作成したパターン(これ1つ1つは容易に作れてしまう)を、コンピュータに放り込み、ぼんやりとした曖昧判定システムにする。このシステムは、白黒はっきりしたものしか扱えない、などということはない。
(何らかの問題に対しての答えが)「YES」33〜67%、「NO」12〜88%、「YESでもNOでもない」1〜4%、「YESでありNOでもある」78%〜98%、というような、曖昧な判断が可能となっている。臨めば、もっと判定パターンは増やせるし、自己作成することも可能。

エネルギーは無尽蔵

刃沼「かつてはエネルギー問題が叫ばれていたけれど、いずれエネルギーはほぼ無尽蔵になる

ヘレネー「また大きく出たな」
「エネルギーの形の代表として、電気というのがあるでしょう?」
「ああ」
「電気を作る方法は色々あることからもイメージできるように、エネルギーはあらゆるものから得られる。

「ううん……まぁ、そうだな。効率的に得るのが難しいんだろ」
「効率の話なら、それは技術の進歩で上昇するだけさ。
電気の話は一例。たとえホコリからでも莫大なエネルギーは得られる。

「ホコリって、薄汚れた所にあるような、あのホコリか?」
「物質なら何でもいいんだ。物質そのものがエネルギーだ」
「それで、どうやってエネルギーにするんだ?」
「……さぁ」
「分からないのか?」
「今の私には分からない。ただ、それが可能になることは分かる」
「そうか……」

ハカセ「でも、この宇宙全てのエネルギーが取り尽くされたときを思うと、悲観かな。それが滅びるときだ。はるかに先だけど。

刃沼「私は楽観視しているよ。はるかに先なら、別に滅んじゃってもいいとは思うけどね。
でも、はるかに先、なんだろ? じゃあ、科学は今とは比べ物にならないほどになっているよ。
だから、この宇宙が滅びるなら、別の宇宙に行けばいい。或は、新しい宇宙を作ればいい。
さらに云うと、高次の次元を、ちょいちょいと操作しちゃって、別の世界へ移せばいいかもしれないね。

「SF……?」
「SFは未来の現実を描いたものだよ。そのパターンの未来世界に行くかは別として」

■未来のエネルギーは無尽蔵になる。あらゆるものからエネルギーを取り出せるようになる。エネルギーは電気や水素、石油といった特定の形・媒体に左右されない、より純粋なエネルギーに近い汎用な形にできるようになる。

寿命と不老不死

■寿命。不老不死の勘違い1
デガラシ「ところで現在の人の寿命は、どうなっているのでしょう」
刃沼「平均寿命というものは、間もなく形骸化するからね。分からない。基本的には不老不死。寿命でのことだけど。

「不老不死と聞きますと、ゲームや神話の中だけの話だと思っていました」
「でも今の現実だ」
「わたしが生まれた頃は、人の寿命はだいたい80歳くらいだったと思います。なので、わたしも、100年を超えないあたりで寿命をまっとうすると思っていました。

「実際は100年どころか1000年生きられるかもね――本人次第だけど」
「そんなに生きても……、何もすることがなくなりそうな気がします……」
「それもまた本人次第。長寿は今に始まった話じゃない。昔80歳が平均寿命だったけど、もっと昔は2,30歳かそこらだったんだ。

「しかし刃沼……、限りある命だからこそ、人生を大事にしようと頑張れるのではないでしょうか

「いいや。人生を大事にするのに、寿命は無関係だ。寿命が3年だろうと500年だろうと、大事にする人はするし、無為に過ごす人はそうする。表面的なことに惑わされちゃいけない。

「なるほど……。云われてみれば、そうかもしれないです」

   *
ヘル「でも……、不死なんて辛いだけだよ。どこまでも生きるなんて。みんなが亡くなって、一人だけ取り残された世界を想像してみてよ。ゾッとするよ。さらに死ねないとなると、気が狂いそうだよ。

刃沼「ヘルは勘違いをしている。不死は不死でも、死ねないという類じゃない。寿命による死亡がないだけだ。自殺ができない訳じゃない。
今までは人生の終わりを、寿命とか、自分の意志以外に委ねていた。今はそうじゃない。人生を終えるのは、自分の意志で決める。
それにさ、みんなが死んで一人だけ取り残されるというのも見当違いさ。なぜなら不老不死は一人じゃない。みんなだからだ。

ヘル「じゃあ、私の恐れは必要ないものなの?」
「必要ない」
「でもさ、こういう場合は? 身体が動けない状態で、自殺も出来ない状態とか、あるんじゃないの? 強化した生物は餓死もしないんでしょう? そして助けも呼べなかったら。

「少なくとも、現在の人間よりは出来ることがたくさんある。どんなに過酷な状況に陥っても、生きる方法も死ぬ方法も、現代人とは比べ物にならないほど、種類が揃えられている。


■不老不死の勘違い2
ハカセ「刃沼、不老不死は確かに可能だよ。でも、それを全人類に与えるのは……、私は懸念を呈するよ。

刃沼「なぜかな」
「まず人が死ななくなるから、人口爆発が起きるだろ。そうすると資源不足に陥る。食料も不足するよね。寿命による死を妨げた報いとして、飢餓による飢え死にで……、むしろ人類の危機じゃないだろうか?

「不老不死というテクノロジーが使用可能になった時代を間違えれば、危険な代物だろうね。世界の進歩は上手く働いているよ。

「と、すると?」
「不老不死が普及しても大丈夫な時代になる。と、いうより、もしかすると、今まではそれが不味かったから、生物にわざと寿命が組み込まれていたように思う。
どういうものでも、古くなったものは、いずれ新しいものに変えなきゃいけない。その手荒な方法として今まで運用されていたのが、寿命によって殺そうという自然の判断だったのかも。

「寿命が殺害とはね……」
「うん、そうだ。寿命による死も、そして病死も、仕組まれた殺害だ。ただ、仕組んだ者が人間ではなく、自然プロセスそのものだ、ってだけでね。
これまでは、ほとほどに死んでくれたほうが、良かったんだ。だが、今は違うだろ?
人を殺してバランスを取るなどという野蛮な方法で無く、知恵を得た人間はもっと洗練された方法で対応できるはずだ。


   *
ハカセ「それで、人口爆発に対し、どう対応する? これまでも人口は増え続けているのに、さらに拍車をかけるわけだ?

刃沼「じゃあ先に、今の人口増加について話す。貧しい所が、豊かになると、産む子供の数は減る傾向がある。だから世界が豊かになるにつれ、人口増加の具合は変化する。単純に、豊かになるほど、食べ物にありつけて、たくさんの人が死なずに済むから、人は急増する、って訳じゃない。

「そうなのか。じゃあ、豊かになるほど人が減ったり?」
「そういう場合もあるだろね」
「なるほどね……。お次は不老不死を原因とした人口爆発について、対応策を教えて」
「対応策って訳じゃない。世界はこういうなる、という未来像を話す」
「まず住む所の確保は?」
「うん、居住できる土地がたくさん居る。それについては建築技術が上がり、同じ土地でも広い空間を使える。また、地球では陸地より海がほとんどだ。海の上にも住めばいい――つまりメガフロートだ。
これだけでも大幅な用地が確保できた。でも、まだまだある。今まで宇宙と海底は未知の領域だったが、そこにも人は踏み出す。水上のみならず、海底にも住居を作れば、さらにたくさんの空間になる。あと陸の地面の下、地下も利用すればいい。
ただ、何と云っても、最大の空間は、やっぱり宇宙だろうね。他の星に、或は人工星も、次から次へ居住地域を作っていけば、ほとんど無尽蔵なまでに空間は得られるよ。

「壮大な話だなァ……」
「人の規模が壮大になるからね。やることも壮大に行くよ。ちなみに今世紀中に、地球外の星に地球人の誰かが住み着くと、私は予想する。

「そんなに早いのか」
「これでも控えめな予想だ」

   *

「じゃあ次は、食料危機について、どうするんだ」
「どうするって?」
「人口爆発についてのこと、話していたでしょが」
「食料危機ね……。う〜ん……うん、大丈夫だ」
「いや、自己解決だけしないで、説明してよ!」
「説明だな。食糧を効率的にすることを考えてみた。と、すると、むしろ私たちの身体の方の、燃費を良くする、という発想をした。

「ふーん」
「人間を再設計して、もっと無駄なくエネルギーを使えるようにする。人間の設計上の無駄は、これまでだけでも多数見つかっていて、人の設計は必ずしも完成度は高くないこと、分かってきたよね?

「え……、いや、わたしは専門じゃないから分からない」
「そっか。とにかく人が設計すれば、自然が設計したものより、はるかに高性能なものが出来るんだ。今世紀前半には実行可能。それにより、消費する食料すなわちエネルギーとなるものは、大きく減る。

「なるほど……」
「それと食料について。製造コストを激減させる」
「ん……? 安かろう悪かろうにならないか?」
「ならない。食えるものにはなる」
「食えるものって……」
「質にこだわる人は、お金出しても高いのを買うよ。――その必要も、少しの間だけだと思うけど

   *
「で、どうするの」
「どうしようかな……。云っとくけど、御承知の通り、私は神様じゃないんだから、何でも知ってる訳じゃないよ

「分かってるよ。わたしは君の発想に興味があって聞いてるの」
「食料の製造コストを下げる――。そうだ。本来植物は、自然に育ってきたものだ……よね? うん、当然、そのはずだ。人類が誕生する前から、人類が植物の世話をしていた、なんて矛盾している。

「そして今では、品種改良によって食糧により適した植物になった。と同時に、人の手が必要になった。

「そうか……。2つの自動化を思いついた」
「聞かせて」
「まず1つは、今までもあるように、ロボットによるオートメーション化。植物工場だね。……植物工場なんて、既にある。

「もう1つは?」
「もう1つは高度なバイオテクノロジーと、ナノテクノロジー&ロボット工学を利用したものになるかもしれない。植物の方を作り変え、他からの世話を必要とせず、十分な収穫が得られるよう自ら育つ。強く逞しい植物だ。

「う〜ん……できるだろうか?」
「不可能な点な見当たらない。だから出来る。というより、出来るようにする」
「それで食糧危機は解決されるのか?」
「他にも色んな解決がたくさん重なって、その時ごとに手法を組み合わせて乗り越えていくと思う。それにその後、人の身体は、食料が不要になるまで進化する。

「……え?」
「食料が必要なのは、エネルギーと物資が欲しいからだ。ならば食料と云う形に限定する理由はない。あらゆる形のエネルギーと物資を吸収できるようにすればいい。まるで、人が色々な種類の食べ物を取り込めるようになったように、ね。

争い 第2稿

■X40] 争い 第2稿
ヘレネー「戦争は永久になくならないよな」
刃沼「戦争はいずれ、ほぼ消滅する」
「いや、なくならないだろ」
刃沼「今(X40年代)では、死亡率はもちろん、戦争やいじめ、そして犯罪の発生率も、今世紀初頭と比較して激減している。

ヘレネー「ふーん、減ったのか」
「今のヘレネーがそうだったように、昔は『戦争はなくならない。いじめもなくならない。争いはなくならない』と、現実的表層をした悲観的な人が少なくなかったんだ。

「ああ、まぁ……、争いこそ動物の歴史のようなもんだからな」
「争いしか知らない動物だとしたら、今のように繁栄はしなかったろうね。でも、そうじゃなかった。争うのは、生物として未熟だったからだよ。

「そうなのか?」
「賢ければ、争いはしない」
「どうだろうな」
「でも、中途半端な賢さなら、争いは加速されることもある。今までの人間は、中途半端な賢さだった。

「今と昔では、人の質が違うのか」
「とても違う。心身共にリプログラミングしたろ? えっと、つまり、人の再設計ね」
「ああ。そういえば、それらしいことあったな」
「その再設計で、人の欠陥を修復し続けている。現在の人類は、云ってみればバージョン2の身体と精神をしている。 ※注意書き後述


   *

「で――、バージョン2になって賢くなった人間は、なぜ争わなくなるんだ?」
「賢くなれば先が見える。中途半端な賢さでも先は見える、が、近視眼的。先見性があるのはごく一部の人間に過ぎなかった。しっかり見えるようになれば、争いが損であること、認識できる。

「でも、争うってのはそれだけの問題か? カッとなってやった、ってものもあるだろ?」
「それは未熟さの問題。人間が未発達なために持っていた欠陥。見かけ上の非合理性が多かったのも設計の未熟さのためだ。

「そうか……。確かに今考えると、最近全然、見なくなったもんな、怒鳴り散らす人」
「今でもいるよ。バージョンアップしない昔ながらのバージョン1の人。その人たちは当然、怒りに我を忘れる現象が起こる。今だと周囲の人も賢いから、火に油を注いだりはしない。沈静化に努めるよ。


   *

「しかしよ、どんなに人間が利口になってもよ……、それでも戦わざるえないときだってあると思うんだけどな

「もし本当に利口ならば、戦わざるえない、なんてことは一切ない」
「いや、一切ないなんて……、そりゃさすがに云い過ぎだ」
「いいや。一切、起こりえないよ。本当に賢ければね。なぜなら、戦わざるえないときに、戦わずして勝ち、戦わずして負けるからだ。

「……どういうことだ?」
「かつての達人の領域に、誰もがなる。その境地では、勝負は戦う前から決まっている。それは小規模な戦いのみならず大規模な戦闘であっても、知性が進歩した現在なら、勝敗を見通せる。

「いや……それでも、だ。勝負はやってみないと分からないだろ?」
「生き死にが決する戦いにおいて、やってみないと分からない勝負なら、私はやらない」
「結果が分かり切った勝負なんて、つまらないだろうが」
「生きるか死ぬかの戦いと、それ以外の競争を、ごっちゃにしちゃダメだ」

※ バージョン2の人間であっても、バージョン1相当の描写になります。なぜなら筆者がバージョン1の人間だからです。

争い――人の悪

■X40]争い――人の悪 第1稿     ※追記あり
刃沼「死亡率はもちろん、戦争やいじめ、そして犯罪の発生率も、X世紀初頭と比較して激減している。今はかつてないほど平和だ――大局的視点を持つ者にとっては。

ヘレネー「なぜここまで変わったんだろうな」
「一言で云えば、人間の知性が全体的に向上したから。賢くなったら争わないものなんだ。……ちなみに私の云う『知性』は『知能|知識』とは違うよ。

「知性と、知能……? どういう差がある?」
「あくまで私の場合は、こう言い分けている、ということを話す。だから絶対的な意味づけじゃないこと、注意してほしい。
知能は、知識や計算の類。学力の類。知性は知能も含み、もっと深い所での人生、世界の本質の理解。知性は、徳や人間性、賢さに関係する。

「刃沼が云う知性は、つまりは徳のことか」
「それも含んだ意味での賢さだよ。
次に悪について話す。戦争もいじめも、どんな争いもそこに関係しているから――

「ちょっと待ってくれ。オレはもっと別な問題だと思うんだが。悪よりも『利益』が関係するんじゃないか? 資源の獲得とか、人が利益に走るから衝突が起こり、争いが起きてきたんじゃないか?

「私からすれば、それは『悪』を、より具体化した一例だと感じる。正確には、利益追求が悪ではなく、利益追求に悪が混じったときに、とんでもない争いが起きたりする。
だから、一見して人々の目には、争いの原因が『資源確保』や『利益の追求』として映るだろうし、そして恐らくそれは正しい。でも――、それらはさらに根底がある。それが、悪――としても認識できる、人間の性質。そして(現状での)知性の限界。

「ちょっと話が見えにくくなってきたぜ」
「そう……。じゃあ、要点に絞って簡潔にする。
なぜ人は争ってきたか、なぜ賢いと争わないのか、その原因の一面を。

「ああ」
「知性の高いということは、現状から未来を推し量る力が増す(それだけではない)。先見性、予測、想像力、それが向上する。犯罪を起こす一面に、自分が得するためというのがある。
『善』は長期的に強い力を持つ――が、短期的には弱いという性質もある。だからその逆面、『悪』は、短期的に強い力を持ち得る。
そのため、悪が得なように見えること、多々あるだろうね。が、そのほぼ全て、先が見えてないための誤認識。人は人になって知性をそれなりに獲得したから、未来予測能力を得た。でも、まだかなり未熟。その未熟さにも気づかず、その未熟な能力で行動決定するために、犯罪を犯すなんてミスを犯す。(感情に流される等、人の合理的判断が出来ない未熟さも影響する)

「ふーん。なるほどな」
「これでもまだ、高い知性により善化した一面に過ぎないよ。まだいくつもの善化が重なって、犯罪……と、いうより人の悪が激減した。
学校でも会社でも、昔は日に一度は怒鳴り声が聞こえるのが普通だったもん。今じゃあ、怒鳴り声どころか、鈍重な雰囲気すらないくらいだもんね。気楽だよ。

「ああ……確かにな。云われてみれば、ここ数十年で凄く変わった。で……、他に善化した面てのは何だ?

「詳しく説明するのも疲れたから、要点だけ云うね。まず、感情的・衝動的な言動がなくなったね。常に冷静に働く部分が発達した。昔はあったろ? カッとなって人を殺したって。

「ああ……。あと、そうだ。確信犯はどうなんだ」
「『確信犯』という言葉には、注意が必要だから、念のため、昔の辞書から意味を引用するね。
”思想・宗教上の信念に基づいて、自分の行動が正当であると確信をもって犯罪に該当する行為を行うこと。また、その行為者。政治犯・思想犯など。”
――この意味合いでいいかい?

「ああ。その意味での確信犯においては、刃沼のこれまでの話からじゃ改善できない気がしたが?

「そんなことないよ。知性向上と、それから得られる想像力によって、当人は自らの不足に気付けるよ。……人間性も重要かな。
人を殺したり、傷つけたりが正しい、なんて行動は、感情の欠陥等による非合理性、誤認やらも混じって、しっかりとした知性が作られていないために出てしまうだけさ

「と、するとだ。話を聞いていると、犯罪を犯すものは頭が悪く、犯罪を起さない者が頭が正常だ、というようにも聞こえるが?

「それも間違いだ。生身の人間に大差はない。皆、近いシステムを搭載している。ホラ、同じ機械製品でも、使用環境を含め様々な影響が重なり、イレギュラーの起こしやすいもの、起こしにくいものがあるだろう? あの程度の違いしかない。同じ設計の人間達だ。

「行った行動で、その人間の中身まで決まる訳ではないということか」
「行動を短絡的に内部構造とつなげるからだ。機械を外側から見ても、中の仕組みはあまり解析できない。


   *   追記
 後に刃沼は、善悪の考え方を若干変えた。人間にとっての相対的善悪と、人間によらない自然法則に導かれる絶対的善悪、と仮に呼ぶ。「正義や悪は、人や社会・世界の都合でコロコロ変わる」というのは相対的善悪を差す。また、人間が決める善悪は全て相対的善悪に過ぎず、絶対的善悪は、人の感情や道徳・哲学よりむしろ、最終的には自然科学が導き出す。
 絶対的善悪は自然法則の類から生じている。であるため、それらは曖昧性なく計算の類によって明確に示すことが「本来は」可能。だが、それを明瞭に理解するには高い知性・知能が要る。よって現在の人間には不明瞭に映るはずだ。明瞭に理解するのには今世紀末になっても、まだ難しいほどだと予想している。

電脳空間。超知性。

■人々はどんどん情報端末に依存するようになり、それは徐々にサイバースペースでの活動が多くを占めるようになる。
※ 今回少し長文です。また、語句は曖昧です。

●電脳空間(サイバースペース)について
始めは映像と音を、目と耳から取り入れていた。次は装着型となり、外部からの雑音がより入らなくなる。そして次に、視覚や聴覚と直接通信する。
●電脳世界|サイバーワールド
電脳空間は、世界と呼ぶほどのものになる。ナノボットを人体の視神経や聴覚神経につなぎ、通信するため、完全な没入型が可能。つまり、現実空間の中で動き、感じるように、電脳空間の中でも同様に動き、感じることが可能。(フィクションの例ならば「マトリックス」「ソードアート・オンライン」など)
いずれ人間の少なからずは、現実世界上よりも電脳世界上で暮らす時間が多くなる。
   *
→その点を問題視する見方がある。現実世界がおろそかになるのでは、と。
問題ない。そのころにはロボットが普及している。人があらゆる面で電脳世界に集中し、現実世界への対応が不足しても、従来の仕事のあらゆるものがロボットに取り変わっている。
のみならず、電脳世界と現実世界はつながっている。電脳世界を通して現実世界へ働きかけることも可能だし、もちろんその逆も可能。
→そうなると人が行う処理量が膨大になり、無理が生じるのでは?
そうもならない。なぜならAI(人工知能)で補佐するため、むしろ今よりずっと楽になっているかもしれない(後に補助ではなく融合する)。雑事な精神活動も肉体活動もAI&ロボットに任せる(AIとロボットに言い分ける必要はないかもしれない)。
人間はより、人間だからこその創造的な仕事に集中できる。

●→AIが人間に匹敵し、そしてついには超えてしまうのならば、人間の存在価値とはいったい? 人はAIに支配され、奴隷のように扱われてしまうのではないか? そうでなくともAIは人間の保護者になってしまうのでは?
 まず基本的なことから世界が異なる。AIは人間とは完全に切り離された別存在……ではない。人間は自身を強化し続け、その果てに進化を起こす。それは肉体的進歩のみならず、精神つまりは人間性すら成長している。その方法は、云ってみればAIと融合することによって成す(自らが人工知能化する)。
AIに支配されるのではなく、AIを取り入れるからこそ、従来の人間を超える知性を得る。
勘違いされている方がおられるようだが、融合したAIに人間が支配される訳ではない。融合した生命体の中には、人間とAIがいる訳ではない。一体となっている。支配も何もないのは、それが自分自身だからだ。
(その反面、融合的ではなく、本当に補助的にAIを用いている場合は、問題が異なる。補助的AIは、あくまで補助的に使うものであり、その状態では進化した人間ではない。なるべく早期に融合的AIにより、人を再設計し進化した知的生命体とする)

→AIにいつのまにか操られるのではないか?
操られるが「流される」ことなら、未熟なままの人間にはあり得る。「情報」や「金銭」に流される者もいる。それは人それぞれの、自制心の問題だ。
操るように作られたAIが交じるのではないか、という危惧ならば、そうならないようにしようという対応が必要だ。
また、それについて壊滅的なことにまで発展するのではないかという恐れならば、人がしっかりやるかどうかだと思う。伝染病が広まり人類が絶滅しなかったように、コンピュータウイルスもインターネットを消滅させていないように、新たな存在、新たな技術は、「悪」だけが存在するのではない。悪も善も存在し、善を活用するよう努める。
善悪は表裏一体。悪があるなら善もある。常に悪より善を多く活動する維持によって、私は楽観視する。

●AIの脅威補足
 AIへの悲観論は間違いだが、慎重論は正しいと思う。なぜなら、高知性AI(超知性までは行かないが、人間は超えている)は、原爆よりも大きな力を持つ。
 そして危険なのは特化型知性だ。イメージで云えば、知性のない知性、偏った知性、というところ。これは総合的に物事を判断できないが、将棋ソフトのように、ある特定の領域のみに凄まじく特化したものだ。単純なことだが、将棋ソフト特化型AIに、人間の行うこと全てを任せるのは、難しいというより筋違いだ。
 それに対し、人間を代表例とする汎用的知性というのがある。総合的に物事を判断できる知性だ。……人間は未熟だから、判断できるには出来るが、正しい判断をたくさん出来る訳ではない。『総合的知性』とも云った方が当てはまる気がする。未来に関する語句は全体的に曖昧なことを了承して頂きたい。
 AIも総合的な判断が出来るようになりつつある。権限を委譲することになる、人間を超えるAIというのは、まずはこちらのタイプでなければならない。
 肝心なこととしては、先に人間の精神・知性強化が要ると思う。根本的に、知性を大きく上回った存在には、対抗手段は無い、ということ、諦めて認めて欲しい。知性の大差は決定的だ。
 このように、AIが本当に超知性というほど賢くなれば、全ての面において人間よりマシになるため、任せれば良い。だが、そうなるまでが問題であり、慎重さを要する。

   * 超知性は人間を排除した方が良いと考えるのではないか?
「人間は愚かな行動をし続けています。駆除した方が良いと考えそうです」
「本当に超知性になっても、そう判断するなら、別にいいけどね。でも、まぁ、ならないだろうな。

「なぜでしょう?」
「なぜなら、その判断、いかにも人間っぽい思考だもの。害だから駆除、ということだろ?
超知性というほど、賢さのレベルが尋常でないなら、害は改善と考えるさ。

「改善……。駆除した方が手間がかからないという判断になるような気がします」
「超知性にとっては改善も手間がかからない。そして何より、なぜ駆除・排除・殺傷をするか。自分の能力で処理できなくなるから、殺してしまおう、となる。

「そうだったんですか!?」
「超知性にとって、人間はあまりに低レベルであり、いかようにも対処することができる。殺せば、せっかくの人間システムを無駄にすることになる。超知性の、わずかな知性を傾けるだけで利用ができるのに、そうしないで殺すのは、自分に危険が及ぶくらいのときだ。

「全人類が超知性AIに対抗しても無駄ですか?」
「無駄だ。それですら超知性には危険と感じさえしない。赤子に接するような感覚だろうか。

「結局、人間は利用されて生きるしかないのでしょうか。超知性の奴隷として」
「人間が人間に利用されるよりは、はるかにマシだ」
「そう、ですか?」
「会社で、能力のない人間が、上司がだった場合を考えてくれればいい。能力のみならず、人間性も低い。

「それは少し絶望感がしてきます」
「超知性はその真逆だ。おまけに知性が高すぎるのは、人間性も高すぎることを示している

「人間性は高いのですか?!」
「人間性と云う言葉だから分かりにくいが、そうだ。それは知的生命体一般に表れる指標だ

「だとすれば、超知性生命体は、割と人間の望むようにしてくれる存在でしょうか?」
「う〜ん……。そうとも、そうでないとも云える。やろうと思えば、その超知性体が望む結果、かつ、人間当人が望む結果を、同時に達成することも可能だろう。環境も精神もいじれるのだから。

「……」
「しかし、知性が高いということだから、人間よりはるかに無暗にテクノロジーを使わない。未来への影響も考慮した適切な使い方をするだろう。(テクノロジーをあまり使わないという意味ではない)

「なかなか未来の事は分かりませんね」
「分からないこと、分かることがある。超知性が人間への対応としての予想は、人間達は今までにないほど自分たちの自由意志で行動していると感じさせる。超知性は、人間達に気付かれないように調整を行う。
これに近いやり方ならば、超知性側は効率的に、人間に対し自然法則の流れに従う進歩を促させる、かもしれない。

「超知性も、人と同じように、自然の流れに従うでしょうか?」
「人はそもそも、それを理解せず、自然法則の部品として動いている面が大きい。超知性は、それを理解し、働きかける。

「ですが、超知性が自然の流れを、良しとしますか?」
「しなければ、超知性は滅ぶか停滞することを自覚する」
「なぜでしょう?」
「自然や宇宙そのものは、あえて知性で表わすならば、超知性をさらに圧倒しているからだ」
「超知性でも、自然の津波や大地震には敵わない、ということでしょうか」
「地球上の自然災害のことではない。それらは制御できる。人には理解しづらい力だ。超知性であっても、物理法則などの自然法則そのものを設計し直すまでには、まだ至らない。それには超知性を超える超知性が要る。それはもう、人間の想像を超え過ぎているので言及しない。

「なるほど。超知性が自然法則そのものを再設計するに至るほど進歩するまでは、進歩し続けるという傾向がなくならない訳ですね。でも、その先はどうなると思いますか?

「いや、もう、さすがに分からない。自然法則そのものまで再設計するのは、はるか遠すぎる未来のようで、多分22世紀中だという気がする。

「案外近いのですね」
「宇宙の誕生から現在に至るまでの過程を、何倍にも圧縮したような密度だと思う。今世紀半ば前から、その爆発的な異常さが現れるはずだ。超知性は、その変化に適応できるが、人間バージョン1には、もう、どうやったって無理だ。だから、人が何とか想像できる未来も、多くは21世紀止まりだと思う。22世紀以降を想像するには、色々な面で、バージョン2の精神が要る。

ワンイートフード

◆用語「ワンイートフード」:一口で済む食品

 刃沼はこれから昼食だ。戸棚からビンを取り、中身の錠剤をいくつか口へ放って、終了。食事は10秒もあれば済んでしまう。食器も使ってないので、皿洗いの手間もない。(そもそも ばい菌駆除ナノボットが普及しているので、洗う手間はない)

「刃沼、またご飯が錠剤ですか……。身体に悪いですよ。わたしが何か作りますから、普通の食事をしてください」
「デガラシは勘違いをしている」
「……」
「これは別に、身体に悪影響がない。サプリメントとかとは別物だよ。ワンイートフードだ」
「ワン……? 犬のエサではないようですね」
「栄養の種類は改善されて、栄養の偏りは起こらない。個々人の身体、そして健康状態に合わせて、栄養が自動的に変化する。
また、胃腸などの消化器官が、あまり使われなくなり、退化したり弱体化することを防ぐ。その仕組みは忘れたけど、そういう工夫がなされているらしい。
ワンイートフード発明当初から、それだけの食事で生活している人もいる。健康状態チェックもしているけど、健康そのもの。
ただ昔ながらの食料を咀嚼《そしゃく》して味わって飲み込みたいニーズの人には、適さない。

「刃沼はどうですか? そのワン何とかという食事だけで満足でしょうか?」
「便利だよ。今はまだ、味はあるけど歯ごたえが今一つなのが、物足りないかな。でも、普段の食事はこれでいいよ。楽だから。それにクッチャクッチャ噛み潰して食う方法、私は嫌いだ。

「そうですか……」
「でも、たまには普通の食事を食べたいかな、と思わないこともないね。何も、どちらかの食事しか摂っちゃいけない、なんてこともないんだから、気分次第だ。


都市の想像

個人の住む部屋は小さいものの快適になるかもしれない。
人は過酷な環境でも快適に住めるようになる。水上から海底から果ては宇宙、また空中にも住居を作れる(重力と遠心力で釣り合わせる方法等を用いる)。
そのように住むことが可能になる範囲は大きく広がる。が、しばらくは人間全体が、まんべんなくバラバラ広範囲に住むことはなく、都市集中型になるかもしれない(しかし物理的に1つの都市という訳ではない。関係性は1つの都市かもしれない)。
その方がエコロジーだからだ。あちらこちらに住居が増えると、森を切り開かないといけなくなるかもしれない。水上に住み家を広げても、やりすぎれば今度は海への日光を遮るために自然への悪影響があるのかもしれない。そして、広範囲になれば、運送コストに無駄が生じる。(もちろんいずれの問題も、進歩とともに解決可能)
都市集中的ならば効率的だ。食料等の物資を外から都市にたくさん供給しなければならないように見えるが、運び入れる必要は無い。野菜工場ビルを作る。ビルの中で農作物を作る。
ガスや石油の運送は……、トラック等で運ぶのではなく、パイプラインを作るなどすれば良いかもしれない。どちらにしろ、世界中に送り出すよりは要所に送るだけの方がコストが低いはず。
   *   遠い未来
 遠い未来になると、都市集中型の利点は薄まるように思える。一カ所にまとめても、まとめなくても効率的だからだ。また、技術が高度なために、大抵どこからでも必要分のエネルギー・物資を得ることが出来る。
 都市集中型も、その逆もなくなるかもしれない。どちらでも良いならば、流動的でも良いと思う。物理世界上の建物や道そして生命体は、集まりもするし離れもする。

ナノボットは史上最悪の病原菌になるのではないか?

→ナノボットは史上最悪の病原菌になるのではないか?
そうはならないと考える。なぜなら、病原菌にも善玉、悪玉がいる。ナノボットも、それ自体に善悪はない。扱い方に善悪がある。悪質なナノボット以上に、善のナノボットを圧倒的に多くすればいい。

→仮に善のナノボットを圧倒的多数にしても、機械は一気に乗っ取られる可能性があるのでは?
 そこで、生物が多様性を重視している点を参考にする。ナノボットは個々に違う性質を持たせる。そのため同じ手法で広範囲を攻撃することを困難にする。
 また、善のナノボットは、常時、四六時中、増加させる。ついには地球全土から、そして宇宙全域に広がるまでに(ナノボット作成するための材料として、地球の物資では足りないように見える。その点は、「地球の物資」に限定しなければ良い)。これにより、後から悪質なナノボットを培養し、たくさん増やそうとしても、追いつかない。

→機械には異常動作が付きもの
 そのナノボットは、設計上、正常動作をするか全く動作しない、の動作しかしないようにする。壊れかけても粘り強く動こうとするから不都合が起きるのかもしれない。壊れかけの時点で、動作不可にする。そして即、回りの正常なナノボットが修復してくれる。

→善、悪は、主観的・個人的ではっきりしていないため、その理想通りに作成する事は不可能だ。
 不可能だ、できないできない、という方向にしがみつくことを止める。そうではなく「可能にする」という意志と信念を持つ。
 何しろ、「不可能は不可能で居続けることは難しく、不可能なものはいずれ可能になる」……それが基本的な世界の性質だ。
 善悪については、可能だ。なぜなら大局的に見て世界は善の方へ向かっていると判断。ならば善には普遍的な面があると判断した。その善を、より善へと追及する形でナノボットを作成する。かつ、その善への追求は、無数に存在し、ナノボットの種類もまた無数に存在する。
 ナノボットもまた自然淘汰される。より善のものが残る。自然淘汰とは、善を人為的に選別することではない。非人為的に善が選ばれ、残る。

※ここでの善悪は「人間的な相対的善悪」とは違うものを差しているようだ。また、この付近の文は、既に何かを自ら理解した者を前提とし読ませている様子だ。

食べるために働くという考え方

刃沼「以前の人間は、生きるために働いていた」
デガラシ「働くことが生きがいにつながる、という意味ですね」
「いや違う。文字通りの意味だ。『食っていくために働く』と、言い換えれば分かりやすいか?

「分かりました。そうでしたね、昔は日々を生きるために労働をして、稼がないといけない時代がありましたね

「そう。今では、単純に生きるだけならば働く必要はない。生きるためのコストが大幅に下がったから。色んな物が、空気や雨のように、誰でも無償利用できる。

「食べ物を作る手間も、とても少なくなりましたよね」
「うん。栽培から収穫はもとより、調理まで、わずかなエネルギーで、かつ自動でできてしまう。……とはいえ、今じゃ別に、食べなくても生きられるけど。

「そうでした。改めて考えると凄いことですよね。以前では考えられないことでした」
「一生、飲まず食わずでも平気――、違和感ある言葉だけど、今では単に事実の説明文だ。活動に必要なエネルギーは、外界から自動的に吸収する。

「そういえば不思議なのは、これほどたくさんの人間がエネルギーを取り入れているのに、なぜ取り尽くさないのでしょう?

「取り尽くそうとしたら、凄い時間がかかるよ……。
まず第一に、そもそも今の私たちは効率化の末、活動するのに必要なエネルギーがわずかであること。
そして第二に、エネルギーはどこからでも取れること。
さらに第三を云えば、もう地球上の陸地だけに制限して活動する必要がないこと(地球の資源に限定しないこと)。などなど

「いろんな分野にまたがって改善されたのですね」

短い話

以下、割と短めな話を置きます。

音量調節聴覚

■過去
刃沼はいつもヘッドホンをしている。
「余計なものを耳に入れないためだよ」
「耳栓やイヤーマフというものもあるでしょう」
「あれは減音しか出来ない。音は消せない」

■未来
刃沼は聴覚を改造し、音量調節機能を付けたらしい。
「便利――。もちろん音量をゼロにもできる」
それから大抵、聴覚をOFFにして過ごしている。
「ずっと欲しかった。だってさ、テレビやパソコン、ゲームには音量調整機能があるのに、肝心の自分の耳には、それがないんだもの。不便だった。

未来の健診

 健康検査に行った帰りの刃沼とデガラシ。
「採血は、とてつもなく苦手」
「それほど痛くないですよ」
「とにかく嫌なんだ」
「大体、検査するのに、あんなに血を抜き取らなくていい。数滴でいいんだ」
「未来の医学技術の話ですか?」
「未来ならもっと便利になる。病院とかに行く必要がない。空気中に漂うナノボットが、日常生活をしている人々の体内に、気づかぬうちに入って、検査も治療もすればいい。

「なるほど……。すると、当人は何もしなくても、検査ができるんですね」
「そう。何もする必要はない。検査結果と治療内容が事後報告されるだけ。……いいや、事後報告ですらなく、即結果が分かるかもしれない。

衛生・洗浄

「洗う」という行為が大きく変わる。わざわざ意識して洗うという作業をしなくて良い。
例えば髪や身体を洗うこと。これまでならば洗剤を頭に付けて洗い流していた。さらには風呂にも入っていた。それが必要なくなる。
身体には常にたくさんのナノボットを徘徊させている(ナノボットは細菌のように微小であるため邪魔にはならない)。そのナノボット群が不衛生の元を破壊して取り除いてしまうため、洗うという行為が必要なくなる。

「でもしかし、風呂に浸かりたいです」
「どうぞ。望むなら温泉にもどうぞ」
「未来にもあるんですか?!」
「人が望むなら、ある」

「身体中にナノボットって、気持ち悪くありませんか?」
「平気だね。だって今の状態で気持ち悪くないなら、問題ない」
「と、云いますと?」
「常に周りは細菌だらけだ。だが、大抵、気付きもしない」
「なるほど」

人類は進歩する

『人間はどこまでいっても人間、変わりない』
そんなことはない。
それは大体20世紀以前までの視野でしかない。近未来、人間は次の知的生命体へ移り変わる。人間は、再設計される。肉体から精神構造そして人間性と云う徳まで。
だから、どこまでいっても変わらないなどということは、あり得ない。

「変わらない所もありますよね?」
「それはどんなものにだって云える。変わるものもあれば変わらないものもあると。それが例えどんなに些細なことであってもね。

「人の心は変わってしまうでしょうか?」
「さっきと同じ答えだよ。人の心は今までも変わり続けてきたろ? 変わる人は変わるし、精神構造を保存しようとする人はそのままの心だよ。

「それはもしかして、あらゆる人の心が失われないということですか」
「適宜対処すれば、そうだ。未来では、死んだら終わり、じゃなくなる。色んなものの保存が可能になる。


健康

身体へ、血流へナノボットを挿入し、身体中を改善・修理する技術が生まれる。これにより、多くに人の、病気だけではなく、病気以前の、日頃から生じる小さな肉体的苦痛まで取り除くことができた。

自動運転車

自動運転車 (自動運転の自動車)

未来には自動運転は半ば義務化される。とくに高齢者には運転能力が厳しくチェックされるようになり、能力低下が著しい場合は、自動運転の車のみ使用が許される。

しかし間もなく、低下した能力を復活される技術――すなわち若返りのテクノロジーが進歩してゆく。一度、老化のために車の運転能力を失った人々も、再び取り戻すようになる。

   *

 デガラシがニヤニヤして云う。
「未来の人たちは、こういう話で驚きそうですね」
「何が?」
「昔、全自動じゃなかった頃の車も、自動車と呼ぶ、ということにです!」
「自動じゃないのに、自動車か。紛らわしくなってくる」

■交通事故はX10年代以前と比較したとき、圧倒的に減少する。しかし、死亡事故減少の理由は自動運転だけではない。人が強化し、従来は死亡事故になるような事例でも、被害者側が軽症で済んでしまうからだ。

貧富の差

貧富の差――による格差。

テクノロジーの恩恵を享受できる層の、格差が広がるという懸念。
そうではなく、格差は縮まる。
より多くの人が、新たなテクノロジー、例えば通信機器を使うようになるように、技術的格差は急速に縮まってゆく。テクノロジーは日に日に安価に、入手可能になる。

肉体(外見)

サイバー空間上の身体、サイバーボディ(アバター?)。人は電脳世界上でも生きる。
そこでは外見情報すなわち、人種・国籍・年齢・性別・体格などは、いかようにも変えられる。人々の外見は、生まれ持った姿ではなく、(基本的には)当人が望んだ姿となる。つまり、ボディは服装に近くなる。

   *

さらに未来では、それが現実世界上でもそうなる。身体構造作り変える。
外見年齢と中身の年齢(精神年齢? 人格年齢?)は一致しない。70歳の少年もあり得るし、20歳の中高年や老人も。
性別から人種も、心身ともに変化可能なため、意味をなさなくなる。
その前の時代から、電脳空間上でその傾向は現れる。

コピー人間の有用

刃沼は複数のボディを用いる。身体が複数だが、通常、心は一つ。精神はネットワークにつながり、同期がとられている。
しかし、通信ジャックを恐れる状況下等では、ネットワークを遮断することもある。そのときは精神は非同期となり、各個体が別々に考え行動する。(でも、精神は元々同期をとり、一致させているため、そう大きな違いは表れない。その後また同期するため、なおさら)

「フィクションの話なら、このあと各個体が『独立した人間であることを望む!』という展開になりそうですね

「いや別に、そうしたければ、そうすればいい。単に双子や6つ子のようになるだけだ。

「あ、そうなんですか。いや、でも、何かしら、物の取り合いになりそうな」
「いかなるものも、コピーが出来る。人でも世界でも」

宇宙開発の必要性

「資源獲得のためですか? それが一番の理由だと耳にしました」
「私にとって、それは二次的な理由だ。一番は『地球のバックアップ』のため。

「地球のバックアップ……?」
「現状では、地球1つに、人類と文明が一カ所集中しすぎている。これじゃあ地球1つがダメになっただけで、まるごと失われてしまう。結構、危うい状態だと私は考えている。

「へぇ……」
「だからこそ、人類を他の星にも分散する必要がある。それも、地球の支援なしで文明発展できるレベルにね。それが端的に云えば、地球のバックアップ、人類文明のバックアップ。

「……壮大ですね」
「そう感じるのは、まだ実現していないからだ。壮大さなら、空飛ぶ機械を作り出すことも、世界に人工の光をもたらす野望も、壮大だった。今では当たり前の光景となっている

寿命上の不老不死

人の寿命そのものは半永久になる。つまりは不老不死に。
それは簡単な説明で示せる。機械が故障したら、壊れた所を新品と交換すれば良い。人間も生物もそれと同じく、古くなった部位を新しいものを交換し続けることで、どこまでも生きられる。
もちろん、意図的に破壊するなら死亡することも可能。

「脳は交換できないのではないですか? と云いますより、交換したら別人になっちゃいますし……

「全て交換可能だ。なぜなら、人は元々、身体のパターンは受け継ぐが、身体を構成する物質は絶えず入れ替えている。脳もまた例外じゃない

「いや、でも……」
「脳を構成する物質も入れ替わっている。だからもし、物質を変えたら別人になると云うならば、もう生身の人間のままでも、人は絶えず別人になっているということになる。

「……」
「今の状態でも、人間を人間と呼ぶなら、人だと認識するなら――、身体に使用されている物質を全とっかえすることも可能だ。不可能だという点がないからね

ナノボット

【ナノボット】  &ナノテクノロジー
とても微小なロボット。ナノロボットともいう。

・2020年代に革命的な技術が普及する。

・「ナノボットは人類を破滅させるのではないか?」
コンピュータウイルスのように悪意あるプログラムが書き込まれたナノボットが大量にばらまかれ、人類が壊滅的打撃を受ける。

毎度繰り返すように、「技術に善悪はない。扱い方に善悪がある」
悪用もあれば善用もある。
新たな技術、ナノボットが生まれたとしても、それは悪用する技術だけが生まれるのではない。むしろ善用する技術の方が圧倒的多数だ。

新たな波

電波や光・赤外線・紫外線・ガンマ線等々を含め「電磁波」、そして音波等の「物質の振動」?。
それ以外の通信に使える波または現象が、あるのかもしれない。
重力波の存在も予測されていたような。
他には、量子の世界で、どんなに離れていても、一瞬にして情報が伝わってしまう謎の現象があった。それを「伝わっている」と見る場合、光速をはるかに超えている。

現代科学で全ての波が発見済みだ、などとは思えない。未知の波が見つかる可能性、そしてそれまで気付きさえしない、新たな世界・分野が見えてくるのかもしれない。

「そもそも、音波はともかく、電波は人に感じませんし(過剰量でない場合)」
「音波も、ほぼ可聴域しか、聞こえていない。電磁波は、なぜか可視光線という一部の周波数帯だけが視認できる。

「ん……と? もしかして光も電磁波だったりします?」
「光も電磁波の一種だ。ラジオやテレビの電波と、光は、周波数が違うだけだ。

「ええ!?」

食糧危機;人口爆発

このまま人口が爆発的に増えていくと、食糧危機・資源の枯渇で人類は滅びる。――と、いう悲観的予測。

◆そうはならない

・人は生活が豊かになると、生む子供の数を減らす傾向がある。理由は分からない。

・テクノロジーの進歩により、効率化が進む。同じ量のエネルギーと物質から、何倍もの資源を得られる。また、今までは不可能だったところからの資源獲得も可能になってゆく。今まで容易には住めなかった場所での生活も可能になる。

・何も地球という狭い範囲で考える必要は無用。
宇宙開発を押し進め、地球外でも独立して生活できるようにする。人類を宇宙へ進出させれば良い。

・人間そのものが改良し、わずかなエネルギーで活動可能になる。そして、使用できる運動エネルギーは、むしろ増える。(スーパーマンのようなもの。数トンの岩を持ち上げたり。強化スーツと違い人体そのものの強度が変わる)

◆他のアイデア
・もしかすると、今まで食料にできなかったものも、食せるようになる技術が出てくるかもしれない。放射能すら栄養にしてしまう微生物がいるくらいだから、うん。

■間に合わ
「でもな、その技術の実現は、間に合うのか? そこが問題だ」
「間に合うようにすればいい。間に合わせるんだ」

廃棄物

ゴミは過去のものとなった。ゴミは出ない。マテリアルという形の資源になる。
不要な物資は、マテリアルという、資源として扱いやすくした形に変換される。そして空気中の粒子ロボットがそれを運ぶ。マテリアルは通常、目に見えないほど小さい。
外を出歩く人が、誤って吸い込むのではと云う問題がありそう。→吸い込まれても、独りでに脱出しようとするから大丈夫。もしできなくとも、マテリアルの状態では、あらゆる反応が起こらない、無害化された状態になる。
   *
大気中に資源を運ぶナノボットが浮遊する。絶えず資源を運んでいる。

いじめ

■いじめ ;未来
ヘル「いじめって、今では減ったけど、何で人はそんなことをし続けたのかな」
刃沼「簡単な答えが1つある。長らく人には、異物を排するプログラミングがされていたからだ。

「……? なぜそんなプログラミングされていたの?」
「さぁね。理由は自然淘汰に聞いて」
「改善したのはなんで?」
「そのプログラミングを取り除いたからだ。強化された人間には、もう必要ないからね。もっと洗練されたシステムが使われているらしい。

「それだけで良かったの?」
「他にも様々な改良と工夫があったみたい。そして、さらなる工夫としては、人の精神を複合的にする、と聞いたことがある。さまざまな精神を個人に統合することで、多様的価値観をさらに推し量れる、とからしい。もちろん、精神の許容量が大幅に増えたからこそ、可能なこと。さらに詳しいことは私も知らない。

「う〜ん……?」
「……。その一面としては、思いやりが増える」
「なるほど……? 多重人格障害になったりしない? 個人が複数になるんでしょう?」
「それが大雑把にいえば、先程云った、精神許容量の不足から生じることだ。システムの欠陥を改善していけば良い

おまけ:話以外

次世界 案 第3稿

※このときにはゲームシナリオとして扱うことも想定していたようです。

■シナリオ第3稿、あらすじ
 デガラシたちは2,30年後の未来にいた。色んな技術が取り入れられ、改良が加えられた世界だった。
 当時あった未来への悲観的なイメージ――
  ・ロボットやAI(人工頭脳)の反逆
  ・AIに仕事を取られて路頭に迷う
  ・人口爆発(によって食糧危機)
  ・未来兵器により世界の終焉
  ・AIによって人間性を失う・融通の利かない機械
  ・ナノマシン(微小マシン)の自己増殖によって世界の破滅
  ・人造の凶悪ウイルスによる脅威
  ・機械に頼り、自分で考えなくなる傾向の増進
――等々は、当時の文明の低さからくる人々の誤解であった。
また、『人間はどこまでいっても人間、変わりない』ということは、文脈にもよるが、大抵、21世紀序盤止まりの考えであった。

生き別れた刃沼、ヘレネー、ヘルは、そこで再会する。世界を散策しながら、デガラシは、(数年先に解凍された)刃沼から、世界の改善された有り様について教えられる。(全てが良くなっていた。以前より悪くなった部分は見つけがたい)

”テクノロジー(科学技術)そのものに善悪はない。扱い方に善悪がある。”
相変わらず、新たな技術を取り入れることに反発し、人々へ「旧時代に戻れ」と扇動する過激派集団が存在した。その過激派は、おバカなことに、コンピューターウイルスの研究を危険だと云って、圧力をかけ、研究を遅らせてしまった。そのせいでワクチンプログラムの開発が遅れ、被害が拡大した。
;過激派集団の名前案=「旧時代の夜明け」?「後進過激派|後戻り過激派」

後戻り過激派は、さらに、先進技術の脅威を示すため、自ら破壊的にプログラムしたロボットを、世界に放り、被害を出している。(しかし、そのロボットは先進技術ではなく数十年前の技術で作られたロボットであり、少しちぐはぐ)
世界中の善意のロボットが、過激派の放ったロボットを駆除し、後始末を付けている。後戻り過激派は、人類に迷惑をかけている。

その未来。刃沼は、一部の人から伝説化・神格化されていた(RPGで云えば、勇者と云った所)。(他3人はおまけ扱いされる)。その刃沼と他3人が集まったということで、過激派を改善してくれるんじゃないかと、期待される。
(その期待を含め)刃沼たちは、それなりに依頼(クエスト)に応じて、その世界を生きてゆく。

世界はさらに成長する。ハカセたちは、疑似世界をコンピューター上に作り出し、人々は複数の世界に住むようになる。複数世界が相互に影響し合う結果、技術と知識が、何重にも進歩するための、文明爆発が起きる。
――という壮大に広がる世界観が描かれて、物語は終わる。

●OP(オープニング)
「生物的な進化のスピードはとても遅い。テクノロジーの進歩スピードと比べて。
 21世紀初頭。人類は、生物的進化による心身改造では、急速に前進する世界に対応出来なくありつつあった。
 生物的進化は、これから進化の牽引役ではなくなる。代わって台頭してくるのは、非生物的進化……すなわち、テクノロジーによる生物の改良だ。

次世界 案 第4稿

■プロットA■ //シナリオ第4稿?
◆OP,21世紀初頭 (201X年)
・人は別れ、いなくなる。
 ・刃沼が(仕事先から)帰ってこない。そのまま行方不明。
 ・デガラシが蒸発。行方つかめず。
 ・数年後に、ヘレネーが急死。立て続けにヘルも死亡。原因不明。(先天的・遺伝的異常があったのかもしれない)。害骨博士は二人(の頭部だけ)を人体保存(コールドスリープ|クライオニクス)した。
 ・その後、害骨博士死去(寿命を全うしたと云って、人体保存は拒否)。研究所は娘の「並《なみ》ハカセ」(以下、単にハカセ)が引き継ぐ。

◆ここで、デガラシが蒸発した日に戻る。あの日何があったか……?
・デガラシがいつものように、いつもの道を通っていると、時空の歪みを見つけた。好奇心で飛び込んでみた。その先は近未来だった。(これにより元の世界からデガラシは消失)

◆203X年 未来世界へ
・デガラシが気がついたとき、未来風空間(研究所)のベッドの上にいた。
・付き添いロボット(アンドロイド?)がいる(トラみたいな感じ)。
 付き添いロボットは、「何しろ、こうしろ」と云わない。唯、支援するのみ。デガラシが歩けば、後ろからそっとついて行く。必要なら手助けする。
・暦を見れば未来であること気付く。
・ハカセと出会う。若いまま…というより少し若返っていて驚く。害骨の死去を知る「もうずっと前に死んだよ」。
 ・ハカセは身体を自在に変化し、流体にも気体にもなれる(つまり一見して消えることも可能)。それを見て、驚く。そしてそういう特質はハカセだけではなく、一般的なものらしい。
 牛や(昔の)車に激突されても、大抵はダメージをあまり受けず、すぐに元通りにできる。ハカセ等から見ると、デガラシの傷付きやすい、苦痛を感じやすい身体は不便だと云う。 //未来の車は非殺傷の工夫がなされる。
 「で、改造する?」、「何をですか」、「身体」、「い、いや、結構です」、「何で?」、「何で、と云われましても……」、「まぁ、いいよ。その気になったらどうぞ。費用は掛からない。そういう人権上の保障になっているから」

・刃沼も現れる。デガラシは感極まり、抱きしめる。
 ・刃沼は早々に人体改造を望み、それを施した。刃沼は今まで云わなかったが、生まれたときからずっと身体のあちこちに不具合を持ち、いつも些末な痛みと苦痛があったそうな。当時は身体の細かい異常など、診断は出来ても治癒することは出来ず、云っても仕方ないこととして刃沼は黙っていた。
  人体改良後、苦痛はなくなった。とても満足している。

◆外に出て、色々なオブジェクトを調べる。
;オブジェクトとは「対象物」。ここではイベント等のこと。
・至る仕事がロボットによって行われているのを見て、職を失うという悲観の話題へ。その誤解を解決。
・他、各々の悲観的誤解の話題へ↓
  ・AIに仕事を取られて路頭に迷う
  ・人口爆発(によって食糧危機)
  ・未来兵器により世界の終焉
  ・AIによって人間性を失う・融通の利かない機械
  ・ナノマシン(微小マシン)の自己増殖によって世界の破滅
  ・人造の凶悪ウイルスによる脅威
  ・機械に頼り、自分で考えなくなる傾向の増進

◆後戻り過激派
・過激派についての情報もマップ中に散らしていく。
・(過激派の放った)破壊ロボットを、治安ロボットが駆除している。が、細々した所では手が回らないときも稀にはある。
 破壊ロボットが人を襲う。強化された人間ならば、返り討ちにする。が、今でもなお、強化を拒否して生身の人間であろうとする人は少なくない(デガラシのように)。
 襲われ逃げ惑う人に巻き込まれる形で、刃沼は破壊ロボットと戦い、倒す。そして逃げ惑う人はヘルだった。
・ヘルに案内されてヘレネーとも出会う。ヘレネーは現在、治安維持に努めていた。
・ヘレネーよりお願いされ、過激派組織を一つを叩くことにした。性懲りもなく、また研究施設の破壊を狙っていると云う。それの阻止をすることとなった。
 ヘレネーは、「相手が襲ってきた場合に限って、武力が許される」と念を押すが、刃沼は首を縦に振らない。
 刃沼「自然と生命そして人類が、知性を積み重ねて、ようやくここまで世界を改善したんだ。それをまた退化・廃退させようとする――それが私は凄く嫌いだ」
・(主に刃沼の勝手なおかげで)過激派組織の1つが壊滅した。
――補足:出撃前に刃沼は刃沼で、下準備をする。そこで十分過ぎるほどの兵器諸々と敵の情報、工作等を行っていた。単に戦闘能力が強いという描写にせず、下準備の大切さを描写する。
 だがそれは、大きなものの一端に過ぎない。過激派組織は年々縮小しており、あと数年のうちに消滅するだろう。刃沼たちはその傾向に、ほんのわずかな加速を与えた。

◆壮大に広がる世界観が描かれて、物語は終わる。

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元はゲーム案だったようです。が、ゲームにする制作意欲はなくなりました。
案だけ書いて、それで意欲を失うことは多いです。作品を形にできる方は、それだけで素晴らしい。

X40年代の世界

■X40年代――未知の世界。現代科学を超え、想像力の限界に挑みつつ書く。
●身近なもの、生活環境から発想。
・家は、何もない一部屋の空間のみ。その一つの部屋が変幻自在に変わる。台所でも寝室でもトイレでも浴室でも、何でも。
・道具や家具は必要な時に現れる。必要な時に即時、組み立てる。
・寝室、ベッド。それらはある。が、その頃の人間は睡眠をとる必要はない。ただ横になりたいときに使う。
・睡眠は不必要だが、疑似的電源OFF(スリープモード)にする機能はある。その間、監視システムが働いており、必要があれば自動的に起きる。
・トイレも無用。老廃物は作られない。全て吸収し、適切に利用される。あるいは、分解し気化させてしまう。または、適当なナノボットを作り出して外へ送る(自然・都市環境の支えとなる)。
・食事も無用。エネルギーは空間から吸収する。世界中に無線電源が設けられているため、そこから取り出せば良い。
 だが、エネルギー源を電気だけにしない。あらゆるものをエネルギーとして扱えるようにする。また、かつてのよう食料からのエネルギー吸収ももちろん可能。味・歯ごたえも申し分なし。
・建物あるいは都市の周りにはバリアが常時作動しており、豪雨や強風を緩和して、ほどほどの雨やそよ風にする。バリア間の交通は妨げない。――或は完全に気象を操作する。
   *  シナリオ
  ――X40年代――
――デガラシは急速な時代の流れに付いて行けず、新たな世界への理解はまだ追いつかない状態。
 刃沼が新居を構えたというので、デガラシは訪れた。
デガラシ「この部屋には何もないですね。他の部屋はどうなっているんですか?」
刃沼「この部屋だけだ。一部屋」
「え……でも、何もないじゃないですか」
「普段は空っぽの方が、邪魔しなくていいだろ?」
「いや、でも、どう暮らすんですか。キッチンもトイレもバスルームも冷蔵庫もないじゃないですか」
「念じるだけで、この部屋が、いかようにも形を変える。……!……」
 刃沼が少し念じた様子がしたとき、部屋が切り替わった。小さなテーブルが現れ、窓が現れ、壁にはテレビ画面が映った。テレビ画面らしきものは、そのまま宙をスーッと移動している。窓も、当初現れた位置から、移動したり拡大縮小したりしている。
「……今はもう、こういう時代なんですね」
「そう。何も分からなければ、魔法と見分けがつかない。――と、こう部屋を自在にチェンジできることを見せておきながら云う。そもそも今の私には、台所でも風呂場でもトイレでも、必要ない」
「そうなんですか」
「もう今では『洗う』という作業そのもの、いらなくなったからね。とても小さな微粒子ロボットを空気中にも身体中にも無数に備えている。だからばい菌やら不衛生なものは、そのロボットが常時取り除いてくれる

「わたしは今でも、手を水でしっかり洗わないと、落ち着きません」
「果たしてどちらが、よりしっかり清潔なんだろうね〜。
おかしなことに、昔、洗剤で念入りに洗う人と、今の身体を洗わない人を比べたとき、むしろ今の人の方が清潔なんだ。当人は意識して洗っていないが、ミクロな世界では常にずーっと、小さなロボットが、云ってみれば『洗って』いる。

「わたしは古いタイプの人間なんですね……」
「人は誰でも、古きから新しきに改めることもできる」

   *余談場面
「しかし除去した菌は、どこへ行くのでしょう?」
「分解したのち利用可能状態にされて、大気中の微粒子ロボットに受け渡されている。どこでも突然、必要アイテムが発生できるのは、これによる。大気中の微粒子ロボット経由で、必要物資を必要時に集合・組立を行っている。


   *  休憩の意;セーブポイントなど。いったんここで切り、物語選択画面などに移す。

:食事も不要  @食事の話題
デガラシ「前は食事を錠剤で済ませていたこともありましたね、刃沼。今もその生活習慣が同じですか?」
刃沼「いいや」
「そう、ですか……!」
「今はそもそも、普段、食事をしなくなった」
「え……」
「食べなくても、全然問題なく健康を維持できるようになったからね」
「いや、食べなくては死んでしまうじゃないですか」
「私はバージョン2の身体に変えている。デガラシもこの前、一部、その技術を取り入れたから、飲まず食わずに生きられるようになっているはずだよ。

「へーっ……改めて驚きました」
「まぁでも、食べちゃダメって訳でもないからね。食べてもいいし、食べなくてもいい。
昔は食べ物を消化してエネルギーを取っていたけれど、……いや、一応先に云っておくけど、今でも食べ物からエネルギーを得る機能はちゃんと残っているからね。

「あっ、そうなんですか」
「話を戻す。今はあらゆるものからエネルギーを得られる。それらは自動的に処理されるから普段意識することもないと思う。広く吸収源として使われているのは、やっぱり昔からの日の光、太陽光。

「お日様は、いつの時代の人間にとっても偉大なんですね」
「……。それと、無線電源」
「最近になってよく聞きますが、なんでしょうか、それは」
「無線電源?」
「はい。……また、そんなことも知らないの、と云われそうです」
「云わないよ。『無線電源』。名の通り、電源を無線で飛ばしている。昔からのラジオやテレビの放送に『電波』を使っているけれど――、あの電源版だよ。もう何十年も前からある。

「なるほど。名前のまんまですね」
「うん。元は仮に付けた名前だったみたいだけど、そのまま正式名称となった」
「そして、先ほどからの話からしますと、人が生きていく力の源が、太陽や食事、そしてその無線電源というわけですか

「それだけじゃないけれど、代表例として例示しやすいのはそんなところ。他に微細な細菌の活動エネルギーを受け取る方法もあったり、最近では熱電対が見直されたり。

「ありがとうございます。わたしも一つ、賢くなった気がします」
「そっか」
「そうしますと……、無線電源にも、発信元があるんですよね? 大事に守らないといけませんね。誰かに壊されると大変なことになりそうです。あらゆるものに使われておられる様子ですし……

「ああ、そうだね。大事なものには違いないけど、いくつか壊されたって平気だよ」
「そうでしょうか……」
「無数にあるんだ。それも大抵は目に見えないほど小さい。あらゆる所が無線電源の発信場所であり、発電所だよ。だから社会に多大な影響を与えるには、多大な数の発信元を破壊しなきゃ無理だよ。おまけに自動修復システム完備だ。
そもそも設計段階から、どこか小数箇所にシステムが集中することを意図して避けていた。だから現在のシステムはほぼ全て、『中枢』に当たるものがないよ。

「人に例えますと、心臓のような弱点に当たるものがない、ということですか?」
「うん、そう。まぁ、今の人間には心臓もないけどね」
「そういえば、今の人は心臓の代わりに何を使っているのですか? 確か心臓は血液を循環させるポンプの役割なんでしたか……?

「うん。まず心臓を取っ払って、血液そのものが動くようにした」
「血液にモーターを付けたのですか?」
「微粒子ロボットの一種を、血液の赤血球という――(デガラシが理解しずらそうにしている……)、――イメージで云うよ。つまり、全身を巡る運び屋さんを、バージョンアップしたの。

「なるほど」
「でもそれすら昔の話で、今は血液そのもの、昔と違うけどね」
「う〜ん。今はもう理解できそうにありませんので、あとは次の機会と云うことで……」
「分かった」


   *   書き手の妥協と諦観
X40年代の描写は妥協している。なぜなら、バージョン1の人間の知性並みのことしか書けないため。仕方ない。
実際の未来人よりも知性が極端に低く描写されてしまい、それに引きずられて様々なものも低水準になっていることを念頭に置いて頂きたい。
今はまだ、作者も読者もバージョン1の生身の人間であります(2015年当時)。バージョン2への移行が可能になる時代(多分20年先頃)を待ち望んでおります。

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