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【第1部 およそ現代】

■時期:2010年代前後
■誰:幸一とベアコア

ベアコアとの日常

ベアコアとの日常|幸一とベアコア

|要約文| 主人公の現状描写から、早速、未来とテクノロジーの雑談へ。

   −1−

|親身に接するベアコアとの日常。床に伏せる日々。記憶力低下。歩行困難含め身体不調。などが描写。

「今日は体調、良いですか」
 ベッドの側に、人影がいて、穏やかに声をかけてくれる。
「外は あったかい日差しですよ。散歩しましょうよ」
 とても意識がおぼろげ……、おぼろげに感じるのはBGMが流れていたためかもしれない。ジムノペディ…だったか、サティさんの曲。そういえば昔、病院で耳にした記憶がある。――そのような、とりとめのない記憶を思った。
「車イスの代わりに――」
 その人は、そう云いながら、車輪付き荷台を転がしてきた。
「歩くのも辛ければ、これに座ってはどうでしょう。外の空気を吸うだけでも、気分が良くなるかもしれません。

「ベアコア、いい。歩けるから」
 そうだ、ベアコア、その聞き慣れない言葉が、相手の人名だった、と、思い出す。もうダメかもしれない、と感じてしまう記憶能力の低下だ。意識はこの頃、いつも不明瞭になっている。
「どうしました。また怖い顔をしていますよ。考え事を?」
「忘れかけていた。名前を。ベアコア――で、いいね?」
「気にしないでください。忘れていたら、その度に教えますから」
「うん、ああ」
「自分の名前は忘れていませんか?」
「ああ。忘れた。自分のことが、よく忘れる」
「思い出せませんか? 思い出そうと頑張るのもリハビリになるかもしれません」
「…………、ヒロシか太郎だったと思う。シンプルな名前だったはずだ。一太郎だった気がする

「惜しいです。貴方の名前は幸一です」
「コウイチ……か。あまり惜しくもない。幸一……。苗字は? なんだったか」
「苗字? もうありませんよ」
「そうなのか?」
「ええ、ありません」
「そっか。そういうものか」


   −2−

|現代医学の無力感と、精神的病への無理解が述べられる。

 今日も、BGMが鳴っているようだ。軽やかな、モーツァルトの音楽らしい。窓際に置かれた小さな花畑から、漏れる日光が煌めく光景となっていた。それが妙に、音楽と合っていた。眺めていると、どこか、もう死んだのかな、天国にいるのかな、という感覚が、しないでもなかった。
「自分はいつから、こうしていたかな」
「どうされました」
「昔は、活発に働いていた気がする」
「……」

「幼いときから、身体の不調はあったが、軽微なものだった。それが歳を得たのち、日に何度も休憩が要るようになった。そして、いつからか、日中の大半は寝たきり状態だ。

「仕方ないですよ」
「病院に行った、幾度も。だけれど現代の医者には、何とも分からないようだった。大抵は最後に、精神的なものが原因かもしれません、と云われるばかりだった。

「現代医学の限界でしょうか」
「そう。頼りなかった。あれから病院に行くこともない。今はまだ、ほとんどの病気を治す技術はない。そういうテクノロジーは未発達だ。患者自身の治癒能力で治す他ないものばかりだ。

「医学は、患者の身体を治す、お手伝いをしているだけだ、と聞いたこともあります。治すのは、あくまで患者自身だと。

「治すのは患者自身だ、という考えは、悪用されもした。質の悪い医者は、治らないのを患者のせいにした。治す気がないからだ、と。……そんな、気も持ちようで済むものばかりじゃない。

「……」
「精神的な病によっては、意欲の根源的なものが破壊されてる人もいる。そういう病だからだ。精神の回復機能が壊れている、とも云える。
現代はまだ、精神への解明が進んでおらず、そういう症例に対しては無理解だ。心構えや、信じ込み、暗示、慣れさせる療法、それでは治らない人がいる。それがまだ、理解されない。
確かに、催眠は時に、麻酔無しで手術を行えるほどの無痛感覚にさせることも可能らしい。だが、催眠が効く人に対してだけだ。
病は気から、という言葉がある。だからこそ、その気が壊れてしまっている人は、気から修理しなくちゃいけない。だけど、その技術がまだない。精神の自己回復が可能な例、不可能な例を区別することすら、現代医学で出来るのか疑わしい。

「現代医学に対して、辛い目に合われたのですか?」
「いいや。無理解に対してだ。それは医学に対しての専門家、素人、関係ない。無理解は、その人の人間性が問題なんだ。

「無理解と云えば――、精神病には症状が傍から見て分かりにくいものも多く、その場合も、人の無理解・偏見に苦しめられます。苦しいのは病苦だけに留まらないことが、辛く、哀しいです。

「ああ。私はそういう無理解に苦しめられるのに疲れた。だから、人里離れたここへ、住み家を変えた。



   −3−

|ナノボットによる治療という未来のテクノロジーが語られる。身体の全とっかえ、精神改造等。そして人類の進化にも言及。

「珍しくゲームをしていますね」
 テレビと向い合せにベッドに座る幸一は、コントローラーを握っていた。そして幸一はコントローラーを置く。
「多少元気なときは、こうやってコンピューターゲームをやっている。これが数少ない私の楽しみだ。

「そうでしたか」
「だけど、すぐ画面酔いをする。吐き気がして、長くは出来ない」
「酔い止めの薬を買ってきましょうか」
「効果があればいいね。効くときは効くのだけど、効かないときは全然で」
「酔った後ではなく、予め飲んでいますか?」
「うん、予防するように飲んでいる。効いたり効かなかったりだ。
それに私の場合には、結局、薬よりも睡眠の方が効果あるように感じる。
現在の薬というのは、症状を抑える対症療法で、病気の原因を治す力がないのがほとんどだ。

「そうなんですか?」
「そう。薬を服用したって、治す力は大抵本人頼り。自分で治せないなら、今の医学にだって、治すのは難しいんだろうね。

「すると、本当に病気を治す薬、というのは、どういうものになるのでしょう?」
「人間の自然治癒力に頼らずとも、病気を治せるものだろうね」
「出来るのでしょうか」
「いずれ出来る。人の治癒能力を見習うのも手だ。細菌を利用したり。ゆくゆくは肉眼で見えないほど微細なロボットつまりナノボットを、身体の隅々へ送り込んで異常を直接治せばいい。大きな傷を負う今の手術も必要ない。もう2,30年以内に現れる世界の話だよ。

「素晴らしいですね。あらゆる症例に役立ちそうです。その頃には幸一も健康になれるのでしょうか

「うん。なれる。なりたい。私はいっそのこと、身体丸ごと新しく交換してしまうことを考えている。

「まるごと……ですか」
「そう、丸ごと、全とっかえだね。
血流の代わりにナノボットを全身に行き渡らせることが可能だから、身体を極小単位で改造することも可能だ。人間のメカニズムが解明してからのことになるけれど。
細胞も要らなくなる。強度も耐久性も機能も、あらゆる面でもっと優れた人工的なものに変えられる。恐らくは、あのスーパーマンやらバッドマンか、それ以上の頑丈さを持つ身体にもなれるだろうね。フィクションの中でなく、現実世界の中で。

「凄い話です」
「ここまでは肉体に対しての話だったけど、改良は精神にだって可能になる。むしろ、そちらの方が圧倒的に重要だよ。脳を含めた身体中を改善できるようになる。もちろん心もまた、改善するようになる。人は、より賢くなる。学力が上がる程度の意味ではなく、人間性が大幅に改善される。人間性というのは本当の賢さにつながっている。対してズルさというのは、単一的賢さ、とでも云う、不十分な成長の現れだ。


   *

 その行きつく通過点。
「テクノロジーが進み、今世紀の半ばに人工知能によって、次の知的生命体を作り出す。そうなると思う。つまりこれが、バージョン1の人間から、バージョン2の人間への、進化だ。

「進化ですか」
「伝統的な生物的進化とは異なる、テクノロジーを用いた人工的な進化だ。そうでなければ、進化が間に合わない。

「間に合わない……? のですか?」
「世界の急速な加速度的進歩に、現人類の旧設計の心身では、追いつけなくなる。今後世界の変化は、何倍にも加速する。それがこの宇宙が誕生してから今に続く傾向だ。

「……。テクノロジーを用いた改造と云いましたが、そこまで変化してしまった存在を、それでも人間だと云えるのでしょうか……?

「人が自分を人間だと、思うならば。
臓器移植をしても、体内にペースメーカーという人工物を埋め込んでも、果ては一部の臓器を人工臓器に入れ替えても――、その人は人間だろうね。

「いやしかし、それが全身となると……、もうそれは人じゃなく機械ではありませんか?」
「人も機械なんだ」
「どういうことです?」
「最終的に、人を含め、生物と機械に区分はなくなる。生物は、タンパク質とか、アミノ酸とか、良く分からないけれど、材料を限定して作り上げた『細胞』という機械の集合体だ。なおかつ、脳という情報処理装置という、大いなるコンピューターも含んでいる。

「でも、身の回りにある機械を見て、生物と同じとは、到底思えませんよ」
「今の機械か……。それは微生物や虫と比較するレベルのものだよ。微生物とかを見れば、機械との差の少ないことを、直観できるかもしれない。

「なるほど……。でも、でもですよ? 現に人はおろか、猿や犬にすら似ていないんですよ、今の機械は。

「今ある機械については、だね。それについては、構造面でとても大きな違いがある。今の機械は大抵、機械1つで個体1つなのに対し、人を含め多細胞生物は、数えきれないほどの無数の細胞という機械から成り立つ。人は、機械がたくさん集まって1個体なんだ。細胞1つがロボット1つだと云える。

「そんなに途方もなく規模が違うならば、人と同等のロボットを作れるか疑問になってきます。

「技術の上昇は加速度的だ。同じ量ずつ前進するのではなく、倍々に前進する。その倍率は分野によって違うけどね。
一定の増加は、こういう感じだろう。
1,2,3,4,5,6,7,8,9,10。(ちなみにこれを線型的増加とも云うらしい)
加速度的増加を、2倍ずつの例で示そう。
1,2,4,8,16,32,64,128,256,512。
両方とも同じ10回の前進をした。注目して欲しいのは2点ある。加速度的増加は、後半での急上昇が著しいこと。そしてその割に、前半の加速度的増加は、人間的感覚では大して高い増加ではないことだ。
この点が大事なのは、加速度的増加という言葉なのに、最初はそれほど急上昇ではない、ということ。これが大事だ。

「う〜ん、分かったような、不完全な理解なような」
「グラフで書いてみれば、2つの差は歴然だから、暇なら書いてみるといい。グラフを見れば、数値的でなくイメージで、より判然と分かると思う。
加速度的増加とは、必ずしも爆発的増加・急上昇し続けることを差すのではない。あくまで倍々に増えると覚えてくれたらいい。もちろん倍々と云っても、その倍率は2倍ずつとは限らない。



   −4−

|超人間(進化の話続き)脱線

「未来の人間は、ロボットと、生身の人間の2種類いる、ということですか?」
「確かにそうだが、それは恐らく誤解を招く。新たなテクノロジーを取り入れ、今で云うロボットとなった人間は、機械的な身体をしている訳ではない。生身の人間と区別が付かない人工的な身体であって、いかにもメカニカルな形状をしている訳じゃない。いや、人によっては、あえてブリキのおもちゃみたいな見栄えを選ぶかもしれないけれど。
あくまで人間なのだから、ロボットと云うのは現状の意味合いでは相応しくない――ニュアンスとして。

「失礼に当たる訳ですね。すみません」
「繰り返し述べるが、人間もまた機械であり、ロボットでもあり、そして、コンピューターでもある。人間だけを神聖視するかのように特別扱いするのはダメだ。ロボットも人間も、同じものだ。

「それは納得しがたいのですが……。幸一は、人間がロボットに、ロボットが人間へ近づくと、そういう考えでしたね?

「ロボットと人間は、より優れた知的生命体に近づく。ロボットと人間の中間に近づくという感覚は、どこか誤りを感じる。

「と、しますと、現在ある人間とも、ロボットとも違う物になる、と考えた方が良いのでしょうか?

「そうだね。現在の人間もロボットも、欠陥の多く、そして知性もまだ低い。知性が格段に上がった未来人と、現代人を比較すれば、それは今の魚と人間の差よりも大差かもしれない。当然、精神も違ってくるだろう。



   −5−

|身体は人工物に全とっかえ可能の話題

「人の身体は、人工物に入れ替えることが出来る、と考えているんですか?」
「そうだ。人を含め、生物の身体は全て、より優れた人工的身体に作り変えることが可能だ。

「身体を全て変えるということは、別人になると思います」
「どのような意味での”別人”かな。その意味合いによる」
「身体の部品を新品に交換できるのは意義あることだと思います。でも、それにも例外があります。脳です。脳を変えてしまったら、心も変わってしまいます。例えそれが精巧なコピーであっても、人格がそっくりでオリジナルと区別がつかなくても、それでもやはり、偽物ですよ。オリジナルは、脳の交換の過程で、廃棄されてしまうのではないでしょうか。

「もし、その話の通りなら、今の私たちも自分のコピーを作り出しているに他ならない」
「?」
「生身の人間は、脳を含め、身体を構成する物質は、入れ替わり続けている。それでも、その人は同一人物だ。

「ん……と、ということは?」
「脳を、細部の部品ごとに分けて考えればいい。例えば脳細胞1つ1つを、同様の機能を果たす部品に変えていけば、その人に変化はない。

「ですから、それでは、本当の本人は、取り出した脳細胞なのではないでしょうか?」
「違うね。だってさ、老廃物を本当の自分だとは、私は思わないもの」
「老廃物?」
「古くなり、無用となった身体の一部だったものさ」
「脳は例外なのではなかったのですか?」
「例外ではないね。脳もまた、システムに過ぎない。重要なのは、物質ではなく、物質のつながり方、『パターン』の方だ。

「だとすれば、心や意識、精神はどこへ行ってしまったのでしょう?」
「だから、脳はハードウェア、心はソフトウェアだ。脳は物質、心は物質で表わされた、情報の一種だ。

「心が……情報の一種!? 書類データとかゲームデータとかと、心は同じものですか?」
「いや違うさ、内容が。それにデータとプログラムの混合だ。現在のパソコンと大きく違うのは、生物は自己学習機能が大きく取り入れられていることかもしれない。それに、超並列処理、パターン認識などが、優れている。

「超並列処理……が人が得意なのですか? わたしは一度に2つのことも出来ませんが」
「そういうことじゃない。脳の内部構造の話だ。現在のパソコンは、数えるほどの個数の処理装置で並列処理をしている。それに対し、人間の処理装置は、……どれほどだろう。兆単位の数があったと思う。

「物凄いですね。その割に、何と云うか、機械に負けている点が多い気がしますが」
「勝ち負けなら、色々な要素が絡むからね。それに処理装置の量では、確かに人間が圧倒的だ。ただね、その1つ1つの処理装置の速度は、人間側が圧倒的に遅い。

「そういうことでしたか」
「けれど、個人的に凄いと思う点がある。その超並列処理に関係すると思う所だけど」
「どういう点です?」
「排熱だ。パソコンは冷却装置が要るほど熱いのに対し、そのパソコン以上の処理をしているはずだと思われる脳が、さほど排熱を出さない。

「不思議ですね」
「つまりはそれほど、今のパソコンは無駄なエネルギーを消費している、ということ」
「なるほど」
「多分、光にちょっとさらすだけで必要エネルギーをまかなえるくらいに出来ると思う。未来のパソコンの電源は。

「なるでしょうか」
「多分。演算処理に必要なエネルギーは、ほとんどゼロに近いくらいに抑えることが出来ると思う。



   −6−

|身体と心はハードウェアとソフトウェアであり、分離することが可能だと話す。

「前回、身体と心はハードウェアとソフトウェアだと云った」
「云ってましたね。訂正する点がおありですか?」
「いいや。さらに話を補足、そして展開する。
ハードウェアとソフトウェアというのは、パソコンを思い浮かべてくれればいい。パソコン本体やディスプレイ、キーボード、マウスなどが『ハードウェア』だ。そしてワープロソフトやゲームソフトが『ソフトウェア』。略して『ハード』と『ソフト』とも云う。

「存じてます」
「ソフトは、他のハードに送ることが出来るね?」
「インターネットを通じて、ソフトをアップロードしたりダウンロードするようなことですか?」
「そうそう。つまりはソフトである心もまた、ダウンロード&アップロードは可能ということ」
「……? …! ちょっと理解に苦しみます」
「身体と心がハードとソフトであることは分かっている。とすれば、身体と心は別々に扱うことも可能だ。

「いや、それは違うのではないでしょうか? 確か専門家の方が、生物は身体がないと成り立たないと云っておりましたよ

「それは成長過程の話だ。それに、ここでまたパソコンのソフトを思い出してほしい。ここではゲームソフトで例える。

「はい」
「ゲームソフトももちろん、生物にとっての身体であるハードがないと、成り立たない」
「そうでしたっけ? そうでした。この場合のハードは、ゲーム機のことですね」
「今ならパソコンもまた、ゲーム機としても扱える。とにかく、ゲームソフト単体を持っていても、ゲーム機やパソコンのようなハードがなければ意味がない。それは人間の心と肉体と共通している。

「なるほど。何となく分かりました。人も、心単体で持ち運べるけれど、動作させるときには肉体が必要なんですね

「そう。人の精神は、肉体と分離できるといっても、分離状態のままでいる訳じゃない。そういうのは通信時や、保存時のみで、通常時は肉体上にアップロードされていなければ、動作しない。

「分かってきました。んじゃ結局、今あるハードとソフトの関係そのままという理解でいいんですね

「大体そうだ。だが人の身体について補足がある。アップロード先の身体とは、必ずしも物理的なものでなくとも良い。仮想現実上の身体でも良い。
ハードウェアは現実世界上の物理的なものとは限らない。仮想現実上の身体や機械であっても、その世界に存在する側から見れば、ハードウェアなんだ。その世界の外から見たとき、ソフトウェアと捉えられる。

「え? 急に話をややこしくしていませんか?」
「注意を促した。ハードとソフトというのは、今は現実世界側からの視点しかないから、割と区別できる。しかし、いずれは、相対的になることを知って欲しい。自分の存在する世界によって、ハードとソフトを相対的に言い分けることもあるかもしれない。

「そもそも、ハードとソフトとは、区別する必要があるのでしょうか」
「必要なければ、その言葉が死語となるだけだ」

   * 休憩

「少し――、話を中断して、休憩にしましょう。紅茶を入れてきますね。ジャズもかけましょう。

「ジャズ? それも用意してくれたのか」
「ええ。幸一はジャズが好きだと、最近になって知ったので」
「ありがとう」
「心が安らぐと幸いです」


   −7−

|単なるデータ、コピー人格の利用(メイン人格とサブ人格)

「あれから次第に感じてきました。わたしには、人の心が単なるデータだったということ、ショックでした。

「それは認識が誤っている。人の心はデータであっても、『単なるデータ』ではないからだ。ないがしろに出来ないデータだ。

「認識、認識が違うとは……、わたしはデータを軽んじていたんですね」
「単にデータと云っても、これからは重要性を含めて、種々様々になるね」

   *

「ふと気づいたのですが、心がソフトウェアということは、コピーができますよね?」
「できるよ」
「まずくありませんか? 同一人物が複数いるということは。双子とも違いますよね?」
「ああ、双子とも違う。一卵性双生児は遺伝子含むDNAが100%同じらしい。が、それだけだ。DNAは生物を生成する大きな一因に過ぎない。同一人物にはならない。

「それが心のコピーの場合には」
「ああ。自身がベアコアだと認識している人が複数いたりする訳だね。そりゃ別に、コピーを作らなければ良いだけのようにも思える。

「思うようにならないのが人生じゃないですか」
「ああ、そうだ。じゃあ、自分が複数の人手になったと、前向きに考えよう」
「色々とデメリットの方が多くありませんか?」
「現在の技術で考えるから、問題点ばかり気にするんだ。人格ネットワーク技術とか、そんな感じのものがあればいい。

「どういうものですか」
「私が今思いついた技術。既にありそうな発想だ。こういう感じ。
ネットワークにつながるパソコンのように、人そのものもネットワークでつなげる。で、自分のコピーをたくさん用意して、全部ネットワークでつなげる。あとはお好みで、人格を同期させてもいい。

「人格を同期、といいますと」
「人格というのは、絶えず変化していくものだからね。最初は同一人物でも次第に各々が別人になってゆく。それも良いかもしれないけれど。

「ふむふむ」
「でも、複数の人物を1つの意識で管理するほうが、統一的に動かせる。『力を合わせて協力』が、ものすごく調和した状態で出来る、ような感じだ。

「それは便利そうですが、一人で複数の身体を動かせるほどの余裕がありません」
「それはサブ人格に任せる」
「サブ人格?」
「人の精神を簡略化したもので、日々のルーチンワークや、簡易処理などを苦もなく行えるようにしたもの。それでも現在のAIよりは優れているから、不測の事態があれば、ある程度の対応をしつつ、メイン人格に判断を仰ぐことができる。つまり自動人格だ。
おまけに、その脳内通信機能とも云えるテクノロジーは、電話と違い、常時接続状態のようなもので、いつでも通信できる。もちろん、それに縛られることはないから、お好みで通信切断も可能。

「メインのわたしと、サブのわたしがいる訳ですか」
「いつでも入れ替えられるけどね。心は流動的だ。切り替えによって、どの身体でも、メインにもサブにもなり得る。

「便利ですね」
「うん。便利なだけじゃないよ。ついでに人格は複数バックアップも可能になる。だから、例えメイン人格で動かしていた身体が大破しても、その人が死ぬ訳じゃない。身体は死ぬだろうけど。

「死の概念が変わりそうですね。生き物に対しての尊さが落ちたりしませんか?」
「逆じゃないかな。生き物が尊いと思うなら、バックアップをするのさ」

   *

「ところでサブ人格が、独自の人格を持つならば、いずれメイン人格に逆襲すると思います

「設計の仕方によっては、それが有り得る」
「設計の仕方によるのですか?」
「そうだ。なぜなら、人間の設計を参考にしつつも、人間そのものではない。従順さ、悪に対する拒否、道徳観。例え万能性を落としても、それらを重視した作りで作る。
そういう設計のサブ人格が、人間との大きな違いで云うと、「生き延びること」を最大の目的としないこと、かもしれない。世界のために、社会のために、人のために、を考えて動く。だから時に、人間のお手本にもなる存在だ。

「聖人のような人格でしょうか。けれども心配があります。社会を優先するために罪無き人を殺したり、人のためだからと悪質な命令にも従ったり……と

「それを時に人間以上の正しさで判断するのも、その理想的人格なんだ。判断力は現在の弱いAIの比ではない

「作れるでしょうか」
「作り方は、これからの未来で探し当てるのさ」

---------------

AI(人工知能)

   −1−

|AI導入。幸一にとってのAI意味付け

「最近、AIの脅威を耳にします」
「AIつまり人工知能だね。その話をしようか」
「お願いします」
「まずAIの意味する所は曖昧だ。ここでは名の通り、『人工的に作られた知能』全般を云う。つまり、自分で判断し、動作するものだね

「そうですね」
「だから、最近のエアコンや自動車も含まれる。もちろんゲーム内で動く敵キャラの多くもAIだ

「そうなんですか!?」
「AIが含まれると云った方がいいかな。ロボットの中にAIが搭載されている、そんな感じだ。

「てっきり、人と変わらない会話ができるソフトがAIなのだと思っていました」
「それらは俗に、『強いAI』と呼んだりする。対して、今あるAIは『弱いAI』と云ったり、人工無能と云ったりする。

「人工無能……、ムノウ、ですか」
「強いAIを目指して作るものの、及ばず、お粗末な動作をするものとかを、そう呼ぶ」
「なるほど……」
「ついでに云えば、広義のAIを積んだ機械が『ロボット』で、そのうち人型のものを『アンドロイド』と云う。少なくとも私は云う。

「ああ、はい。幸一にとっての理解ですね」
「そういうことだ」


   −2−

|AIの脅威

「それで、AIの脅威についてなのですが――、なぜ恐れられるのでしょう」
「AIの知能は2029年付近に人間に匹敵する。その後2045年に人類全ての知能よりも、AIの知的処理能力が上回る。らしい。
宇宙誕生から今なお続く傾向からして、その予測は当たっているだろうと私は思っている。

「超知性、ということですか……」
「ああ。再三云う超知性に話はつながる。脅威に思われているのは、その人間を超える知性だろうね。

「高い知性は危険なのですか」
「いいや。中途半端に高い知性が危険だ。今の人間がその例だ。未熟だから愚かなことを繰り返すんだよ。
私にとって、進歩する人工知能が危険なのは、超知性へとつながる間だけだ。中途半端に高い知性である状態が最も危険だと思う。先に、一部特化型AIを作ることも危険だ。偏った知性だからね。

「どうすれば安全なのでしょう」
「先にやるのは、人間の精神面でのサイボーグ化だ。人の知性を強化するように、AIを組み込んでゆく。ちなみにAIの人を別々にして組み込むのではない。それだと場合によって、自身の中で、当人とは別になったAIに乗っ取られてしまうからね。
人の脳にAIを後付けする、というイメージではない。融合するイメージだ。だから、フィクション等で描かれるように、人の心と、AIの心が、一個人の中で争うようなことは避ける。それらは別個の心ではなく、一体の心だ。
そして増強するのは一部の知的能力ではない。知能ではなく『知性』を伸ばす。人間性や徳にも大いに関係するものだ。

「先に人を進化させるわけですね」
「それに近い。が、本当に進化らしい進化が勃発するのは、2045年になる。それ以降の世界は別物になる。原始時代と21世紀初頭の差より、21世紀初頭と21世紀末の差の方が激しいと思う。

「……恐ろしいです」
「恐れることもない。高確率であらゆる面で改善した結果なのだから。むしろ逆に思う。未来から過去を見れば、恐ろしい、と。
でも、低確率で悲劇的未来になる恐れも残っている。人類が必要分の配慮と注意をしながら、超知性AIを作り出さないと、核兵器よりも恐ろしいものにもなる。その潜在能力は核兵器を作り出した人類を圧倒するくらいなのだから。

「超知性AIを作ることを止めませんか?」
「無理だ。以前にも云ったように、この宇宙始まり100億年以上は続く流れの先にあるものだからだ。それは、人間の力でも、そして例え、今世紀現れる超知性AIの力ですら、太刀打ちできない摂理だ。

「なんだが、超知性を超えるとてつもない存在がありそうです」
「究極的に云えば、人も超知性も、その仕組みによって作り出された。人はその仕組みの一端を知るに留まる。
全てを知るには、現代人から見た超知性を、さらに超えた知性が要るだろう。

新たな進化

   −1−

|遺伝子改良技術による進化。

 今回はベアコアから話題を持ちかけてくださった。
「遺伝子改良技術が進んだのちは、人間にも適用されると思います?」
「うん」
「幸一は以前、次の進化は、人間と機械の融合に近いものだと云っておりました。でも、わたしには遺伝子を改変させて進化する方が、ずっと現実味があるように思えるのですが、どうなのでしょう。

「昔まで続いた主流の進化を見れば、ベアコアの実感も当然だね。これまでの進化は生物的進化――つまり、DNAの変異がランダムに起きた個体のうち、そのおかげで、まぐれで改善していたら それが生き残る、という、ひどくデタラメなやり方を自然はしていた。まぐれ当りのデタラメな遺伝子改変と自然淘汰が、進化だったんだ。

「そうだったんですか。デタラメに……。でもしかしデタラメとランダムで、人間が作れるとは到底思えないのですが、それは人の感覚によるものですか。

「ランダムに変異させる対象は、前回改善されたものに対してだからだ。なぜかと云えば、世界に適応できなかったものは全部滅んで、もういないのだから――。
『目』のような一見して複雑な装置も、初めは光センサーCdSセルのような、明暗だけしか認識できない原始的なものだったかも。でも、それでも、その明るさ検知機能を持った生物の方が、持っていない生物よりは生き残りやすかった。そういう違いの積み重ねだ。
そして、この生物的進化の特徴として、凄く時間がかかる、というのがある。進化は何万年、何十万年という時の流れの中で、ゆっくりと現れる。――ちなみに機能を失う方向での進化つまり退化なら、もっと短い期間で済むらしい。
今の人類の身体と心は、人類が農耕さえ初めていない狩猟採集時代と、そう変わりはない。

「一言すみません。進化で変わるのは、心・精神もですか?」
「そうだ。進化は肉体のみならず心も変化する。
20世紀、21世紀の激変した世界を生きれるのは、人の設計が適応したためじゃない。元々備わっている柔軟な対応力で、何とかやれている。だが、それも限界が近い。


「確か……、ダーウィンの進化論、でしたっけ」
「私はまだ読んだことないから、内容は分からない」
「そうなんですか」
「ちなみに今なお、進化論を信じていない人も、割と多いという話だ」
「その方たちは、進化論以外に、いったい何を信じるのでしょう?」
「神を信じている。神様という創造主がおられて、その存在が宇宙も地球も、動物も人間も作った、ということにしているようだった。

「それでいいのでしょうか……。一応、その神様を、自然法則のこととすれば、話が通らなくもありませんが……。信じている人は、人間に近い生命体として神様が存在することにしていらっしゃるのですよね。

「宗教の影響も根強いと思う。ただ、一番に長く、根強い影響を持つのは、宗教よりも真実だ。真実は、分かりにくい。が、長い時の中では、それが残るはずだ。

「でも中には、進化論が事実だろうと知りつつも、感情的理由から、それを受け入れられない人もいるかと思います。

「世代が変わってゆけば、変わるよ」

   *

「遺伝子改変技術は無用なのですか」
「ちょっと待った。うっかりしていた。ベアコアは自然の遺伝子改変つまりは突然変異のことではなく、人間のバイオテクノロジーとしての遺伝子改変技術という話題を持ち出したの?

「ええ、そうですが」
「勘違いしていた。てっきり非人工的なつもりで話していた」
「そうだったんですか」
「だからもちろん、バイオテクノロジーは有用だ、重要だね。恐らく2020年代にナノボットが普及するまでの間は、バイオテクノロジーによる細胞や細菌、微生物に関する技術が重要視されると思う。

「ナノテクノロジーというのは、それほど凄いものなのですか?」
「微細な粒子ロボットである『ナノボット』が、とてつもない存在だ。産業革命やIT革命とか、比較にならないくらいに革命的だろうね。影響の一例としては、ソフトウェアのみならずハードウェアも大きく製造コストが激減する。だから、あらゆる物の値段はとても落ちる……はず。原価以外の要素もあるだろうから、一概には云えない。とはいえ、その原価以外の要素すら、大きく変わりそうだけどね。

「超知性のAIより、凄い発明なのでは?」
「いいや。超知性AIは、それをさらに大きく上回る影響を持つ。こちらに関しては、現在の人間の想像力の限界を超えるために、想像できることも限られる。
なぜ、想像すら難しいか……。それは微生物と現代人類の差よりも、現代人類と超知性AIの差の方が、知能差が大きいのでは……というくらいだから。微生物までいかなくとも、魚の思考で人間の行いを想像するのは困難だ。

「超知性AIがあれば、何でも出来るくらいでしょうか」
「ああ、まぁ、そうだね。人が想像できる範囲内なら、ほぼ出来てしまうだろうね。
戦争やいじめの根絶、飢餓の改善、ゴミ問題やエネルギー問題、あらゆることで人間は解決できていないが、人間を大幅に超えたのちの知性には、早期に解決可能なことだろう。

「う〜ん……。それだと有害だと判断されて、人間を滅ぼすことも訳ないでしょうね」
「ああ、人間だけをピンポイントに滅ぼすことも、そうしようと思えば出来るかもしれない。とてつもない知性差というのは、戦いにおいて致命的だよ。でも、私はそうしないだろうと楽観視している。

「超知性は人を滅ぼさないということですか。なぜでしょう?」
「滅ぼすのは、無益だ。それより改善させることが有益だ。何だかんだと云っても、人間は現存する地球上の生命体では、トップクラスの知的生命体だった。おまけに数もある。そして、世界に適応した生き物は大概そうだけど、世界の進歩に貢献する仕組みになっているものだよ。
超知性は、人間を、自分を作ってくれた感謝の念で生かすのではない。滅ぼすより、成長させ改善させることの方が有益だから、共に生きようとする。本当に知性が高ければ、争いなんてしないよ。争いを起さずして解決してしまうからね。
何かを害だとして滅ぼすのは、それを扱うだけの能力がないことの表れだ。人が人を破壊するのもまた、一因としては、人が人を完全に扱うだけの継続的な力がないからでもある。
ただ注意として、超知性ではなく、中途半端な知能を持った知性なら、人類を滅ぼす危険性がある。



   −2−

|今度の進化が別物だという訳は

「これから起こる進化は、これまでの進化と違うと、幸一は云っていましたが、詳しく聞かせてくれますか?

「長らく続いた進化は、ここでは『生物的進化』と仮に呼ぶことにする。通常、『進化』と云った場合はそのことだ。進化論で説明されるのも、恐らく大概、こちらの生物的進化の方だ。
今までの話からすると、進化は、新しいタイプの進化に移り変わって、従来の生物的進化はなくなってゆく、かのような印象を受けるかもしれない。

「古いものは なくなるのですね」
「なくならない。生物的進化はまだまだ続く。なくなるのではなく、主流ではなくなる、ということ。生物的進化では進化スピードがもう間に合っていないからだ。

「生物的進化はとてもスローなのでしたね」
「そう、スローだ。だが、世界はもっと早さを求む」
「急ぐ必要があるのでしょうか。セカセカして生きるのは辛くなると思います」
「仕方ないね。根源的に云えば、急いでいるのは人類ではなく、この世界の仕組みなのだから。

「人間社会の仕組み、ということですか?」
「そうではない。この宇宙の、とも云える。本当は宇宙という規模を超えるレベルでの仕組みなのだと思うけれど、そのレベルを云い表わす概念が見当たらなかった。だから仮に宇宙レベルに狭めて云っている。
人類がこの世界に現れる前から、進歩のスピードは加速度的だった。人が現れ、急速に世界を変えていったこと、進歩させていったことは、必然だったんだよ。それ以前から続く加速度的進歩が規則的に今も続いており、必然を物語っている。


   *

「それで、次の新たな進化の方を、お話してください」
「新たな進化は、テクノロジーによって行われる。AIは加速度的進歩を続け、2045年付近に、爆発的な伸びに達する。恐らくそこで明確な進化が現れる。その爆破的上昇は21世紀末までは限界に達しないらしい。

「ゆっくり進化が進むのではなく、ある地点で爆発的に進化が生じるのですか?」
「爆発的傾向が見られるのは、AIが人類に追いついて、しばらく後のことかもしれない……多分。どの付近で爆発的上昇を感じるかは人それぞれだが。AIが人間に匹敵するのは2029年付近だ。

「なぜそんなに時期が正確なのですか……」
「現存する人類の中には、驚くほど天才的な人もいてね。そのおかげで、ある程度の具体的未来予測が出来るようになっている。

「凄い方もおられるものです」
「AIについてだ。AIは人間のレベルに達したときには、生身の人間の処理能力を上回る。既に生身と機械の差がある。信号が巡る早さが、人とAIでは全く違うからだ。おまけに、記憶力は、その正確さも容量もAIが勝る。容量は増設できるからね。

「AIが人のレベルに達したと同時に通り越す、と」
「そのはずだ。思考のスピードが全く違う。その上、人間の能力を丸ごと受け継げるAIは、次により進化したAIを作り出す。

「んと? AIがAIを作り出すみたいなことになっておりますが?」
「その理解で正しい。AIは、さらにより優れたAIを作り出す。そしてそれが連鎖する。人間離れしたスピードで。
補足すると、新しいAIに、記憶や技術を教え込むのに長い訓練はいらない。アップロードだけだ。おまけにハードウェア製造の面でも、既にナノボットが普及している。こちらも今とは比較にならない開発速度を可能にする。また、(人間で云う)人手の面でも、必要な人員(AI・ロボット)は、どんどんコピー&量産できる。

「…………それが、爆発的進化を可能にするわけですか」
「そうだ。多少脱線するが、ナノボットによる製造についても云おう。ナノボットは目に見えないほど小さい。製品に対し、一度に無数のナノボットが並列に作業できる。例えば、かつて1度に1工程行っていた作業を、ナノボットは1度に無数の工程を行うことも可能だろう。……いや、1回で全行程が出来るかもしれない。と、すると、材料を一瞬で完成品に変えることまで、やってのけるのだろうか。

「とにかく……、ものすごい早さになることは伝わりました」

未知の科学

未知の科学|未知の自然法則

|幽霊。宇宙人。未知の科学というもの。

   −1−

「近くで幽霊騒ぎがあったようです。なぜ昔から、幽霊とか宇宙人とか、目撃されるのでしょうね。

唐突に幽霊の話題だ。
「幽霊か……。それは人が幻覚を見ることが出来るから。幽霊は存在しないと、私は考えている。けれど、幽霊を見ることは有り得る。

「存在することと、視認することは別ですか?」
「別だ。人間には、実際に存在しないものが見えるときもある。
宇宙人やUFO目撃証言の多くも、間違いや嘘なのだろう。でも、全てではない。
超能力や、諸々のオカルト分野のものも、大半は勘違いや嘘なのだろう。
でも、全てがそうじゃない。中には不思議な現象があるはずだ。

「ほとんどは偽物で、ごくわずかに本物がある、と?」
「人が不思議な現象を見つけるとき、2パターン考えられる。
1つは、現代科学で理解できる現象だったけど、データ不足等により、それが出来なかった類。2つめは、『未知の科学』だった場合。

「未知の科学……?」
「科学は解明状態により大きく2つある。『現代科学』と『未知の科学』だ。現代科学は、既に解明された科学領域だ。未知の科学は、それ以外の科学領域のことだ。
まだ人間の理解が及ばない範囲が、いつの時代にもある。原始時代で電波やコンピューターの存在を認識、考えることが困難なように。
そう考えると、人が理解できない現象が起きない、ということの方が不自然だ。いつの世界でも、まだ分からない現象が見られるはずだ。全てを理解した、なんてことはないのだから。


   *

「科学が全てを理解することはないのでしょうか?」
「科学は全ての領域を司るから、科学それ自体は、全ての理解そのものだよ」
「云い方がまずかったです。失礼しました。
いつか人間は科学の全てを理解できるのでしょうか?

「私の予想は、出来ない、だ。完璧な科学は、存在はしても、人が手にすることはない」
「なぜそう思われます?」
「新たな領域を発見し、足を踏み入れるたびに、謎は、減るのではなく増えるからだ。
知能が伸びるというのは、おかしな話で、自分たちが無知だったということ、そのものを理解できるようになることでもある。『分からない』ということが分かる。
なぜなら、知能が伸びて見えてくるものは、今まで知らなかった『未知』だ。謎は追加され続ける。でも、それは悲観的なことじゃない。夢が広がるのに等しいことだよ。

「思い出しました。昔、誰かが云っていました。科学が進み、何もかも理解してしまうと、世界の底を知るために、分かり切って生きるのがつまらなくなる、と。今の話を聞きますと、どこか反対だったのですね

「そうだ。全然、逆だ。科学が進むからこそ、理解も謎も広がるんだ。分かり切るなんてことはない。

「本当にそうですね」
「文明の進歩が、世界をつまらなくすることはない。現代人の感覚がつまらないことはあるだろう。


   * 追記
 『未知の科学』は『未知の自然法則』に言い換える方が分かりやすいと、後から気づく。


   −2−
|地球外知的生命体について

「宇宙人関連の話題が、まだある」
「宇宙人は実在する、とか云ったりします?」
「ああ、確かに実在する。人類と云う実例がある」
「人間も宇宙人だったのですか……」
「人間も宇宙に住んでいるだろう――。だからここでは、地球外の知的生命体について話したい。

「地球人とは別の、知的生命体ということですね。いるんでしょうか?」
「いるだろう。これまた地球人という実例が、宇宙で知的生命体の誕生が可能だと示している。

「なるほど。そうですね。でもまだ、地球外の宇宙人、見ませんね」
「色々説明は付く。知的生命体の発生確率の、あまりの低さや、宇宙の異常な広さ。はたまた、既に地球に来ているが、気づかないという説。などなど。

「そういえば、生命には水が必要らしいですね。だから、水が氷でも水蒸気でもなく水……つまり液体で存在する温度として0℃〜100℃くらいの環境が要るのですか? 生物が現れるには。

「専門家の科学者は、そのような方向で可能性を云う方も少なくない」
「違うのですか?」
「その話は、地球型の生物という、狭義の生物に、話が絞られている」
「地球の生物とは、違う生物が存在するかもしれない、ということですか?」
「そう考えない方が変だ。地球上の生命体は、生命体の一例に過ぎない。だから未知の生命体は、想像を絶する形態をしているかもしれない。

「どのようなものでしょう。想像できるのは」
「例えば、そもそも物質で作られていなかったり」
「エネルギー体みたいなものですか?」
「その生命は、人が認識できるような形とは、限らない。触れることも出来ず、電磁波や音波で確認することも出来ない。まるで認知できないかもしれない。

「そうすると、そのようなタイプの宇宙生命体は、今、わたしのすぐ目の前にいたり、或は重なっていたり、するのかもですね。

「そうだ。そういう可能性もある。もしかすると、その生命体からは人間を認識できるのかもしれないが、こちらからは分からない。

「けれども、物質で構成されていない生命って、どのように生きているんでしょう?」
「さぁね、分からない。想像を絶しているから。一部の人間が考える、生命の定義からも外れるだろう。
特殊な生命の想像として、こういうのもある。一個体として存在するのではなく、この宇宙空間に疎らに、或は曖昧に、薄ぼんやり広がって存在する生命体、というのもあるかもしれない。

「なるほど……。生命とは云っても、わたしたちが常識的に考える生命とは、全く違うかもしれないということですね。

「考えを、想像を、広く持つというのが肝要だ」

不老不死の勘違い等

   −1−

|不老不死の勘違いの恐怖

「以前、不老不死技術の話を友達としたとき、不老不死は怖いと云われました」
「なんでだ」
「死ねなくなるのは怖い、と」
「勘違いしている」
「と云いますと」
「現実に普及する不老不死は基本的に、寿命による死亡が回避できるだけだ。死に至る行為をすれば死ぬに決まってるよ。

「そうなんですか」
「話を良く聞いてほしいもんだ。今の人間には早計という欠陥があり、私の不愉快な点でもある。

「失礼しました……」
「ベアコアが謝ることじゃない。必要なのは、なるべく早くに現人類の進化を起こすことだ。
それと、不老不死技術の普及した世界について補足する。

「はい」
「私の理想としては、自らの寿命は自らで決めるのが望ましいと考えている。
未来の寿命は自然任せなのではなく、自分が決める。自分が生きたい まで生き、自分が死のうと定めたときに死ぬ。

「自殺が増えませんか?」
「死にたい、という衝動的動機は抑える。そのため、死亡手続に工夫する。自死手続を行う時、今すぐ死ぬ、ということは受け入れない。病気等の理由で無く、自死の場合……つまり、自分で寿命を定める場合は、何年以上先、というように一定期間先じゃないと受諾されないようにする。その間、気が変わったら、いつでもキャンセルだ。

「でも待ちきれない人は、そんなの無視するのでは?」
「自死手続きを得て、人生最後の時を過ごすのは、しっかりとした設備の整った場所、サービスが誰でも受けられるようにする。死に方、葬式、最後の食事、諸々のコーディネートを可能にすることで、最期を迎えるのに最適な場所だとアピールする。
最期に悔いを残すような死に方を嫌がる層というのは、意外と多いのではないかなと思う。

「そうですね。最期は残念な死に方をしたくありません」
「でも死んだら、同じことだ。上記の工夫は、割と技術が未発達な時期のことだ。技術進歩により、精神改造技術を用いて、当人の苦痛を軽減する。

「あの……。気づいたんですけど、寿命が事実上なくなった世代に対して、自殺も防止してしまったら、人口爆発による問題があるように……

「その問題は、別の機会で言及している。一言で云えば杞憂だ」
「そうですね。分かりました」


   −2−

|ロボットに使われるようになる

「ロボットに対して不信感を持つ知人から、このような意見を聞きました。ロボットに頼り過ぎて、ロボットに使われるようになる、と。

「そうかい。その人の場合はそうなのだろう」
「もっと、丁寧に答えてくれませんか……」
「現在も高度情報化社会だ。情報に流される人間もいれば、情報を利用する人間もいる。それだけのことだ。



   −3−

|多世界

「世界が複数あると考えているんですよね。詳しく聞かせて下さい」
「世界は無数にあって、過去も未来も無数にあると考えている。想像だね。
ちなみに云えば、未来の世界は、これから作られるものではなく、既に作られているかもと、想像している。

「未来は既に決まっている……のですか?」
「いいや」
「え」
「どの未来に行くかは決まっていない。
私の想像では、未来世界が無数に存在して、なおかつその中身は決まっている。
ところが、どの未来に進むのかは、決まっていない、と考えている。

「実質、未来は分からないと云うことですか」
「そうだね。多分。そしてそこが私の想像力の限界」
「世界が複数あるなら、その世界をまたいで行き来することもできるかもしれませんね!」
「分からない……。基本的には、世界間に、物質の移動もなければ、情報の移動もない、と私は考えている。一切の疎通がないということは、存在すら知る方法がないということ。
……でも、一切、疎通する方法がない、というのは、それもまた私の想像に過ぎない。何らかの手段があるのだろうか……。数年前は重力波が、世界または次元を超えて影響している可能性を耳にした。

セラピーキャラクタ

|VR:セラピーキャラクタ


   −1−

「セラピーキャラクタって知ってるかい」
「どういうものなんですか?」
「今、考えた。ゲームみたいな存在だ。今は仮にゲームと呼ぶ。
そのゲームは3Dの空間が広がっているオンラインゲームだ。
プレイヤーは、大体、癒しを求めて、その世界に入ることになる。まぁ、毎日の日常に嫌気が差したりしているのだろう。人の優しさに飢えている者が多く来る。

「ふむふむ」
「その世界を歩いていると、愛らしい容姿をしたキャラクターが、向こうから近寄ってくる。

「それで?」
「いや、ダメかな」
「え、何がです?」
「話していて、良い案なのか、自信がなくなってきた」
「とりあえず全体像を話してください」
「分かった。
先程云った、愛らしい容姿をしたキャラクターっていうのが、セラピーキャラクタね。
プレイヤーはその世界にいるセラピーキャラクタに、愚痴を漏らしたりする。セラピーキャラクタは反論も助言もせず、ただ言葉を受け止め、優しい言葉をかける。

「セラピーキャラクタの挙動がワンパターンで、すぐに飽きられるのでは?」
「セラピーキャラクタは、AIではなく、ボランティアが操作・演じている。ボランティアかな? それは一種のプレイヤーとも云える。

「セラピーキャラクタも人が操作するプレイヤーということですか?」
「そうだ。そして、そのボランティアの多くは、元々、セラピーキャラクタに励まされ続けた人たちだ。

「セラピーキャラクタ側のプレイヤーは、愚痴の聞き役なので、ストレスしか感じないのではありませんか。そうすると誰もやらなくなりそうです。

「ボランティアというのは、なくなることなく続いている。誰かに優しくする、人の心の支えとなることを、喜びと感じる人間が、そう少なくはないはずだ。

「確かに」
「その逆に、日常の中で、誰にも褒められず、励まされず、けなされて怒られてばかりの人間も多々いるはずだ。
そういう人たちにも、精神的な安定を多少なりとももたらすことで、強いては犯罪を思いとどまらせたりすることにも、つながるかもしれない。

「犯罪にも関係するとは」
「自分が不要な人間だ、害なのだと思わされる環境が整っているなら、犯罪者になっても不思議はない。
人の幸せは、生き物とのつながりにある、と仰られる人もいた。人嫌いの自分には理解できなかったが、人によっては、人とのつながりが非常に有益なようにも見える。

「ふうむ。あれば、あったで、良い場所なのかもしれませんね」
「私は自ら、その場所を作りはしないけれども」
「なぜですか」
「管理の責任やコスト関係が面倒そうだから」
「……誰か試して下さると有難いですね」
「ゆくゆくはセラピーキャラクタを、進化したAIにやらせるのが理想的だ」

貴方だけのゲーム

   −1−

|ゲ〜ム

「最近のゲーム、つまらなくなって」
「幸一が歳を取り、好みが変化したためでは?」
「だとしても、つまらないと感じることに変わりない」
「う〜ん」
「そこで、全く新しいゲームについて、アイディアを考えてみた」
「ゲームデザインのアイデアですか」
「いや、ちょっと違う。新しいゲームジャンルの漠然としたアイデア……ですらないかもしれない。

「聞かせて下さい」
「マルチプレイのオンラインゲームをやっていて思ったんだ。もう私の腕前じゃ、圧倒的に負けるばかりでつまらない、と。

「上手い人が勝ち、下手な人が負ける世界ですね」
「ああ、少し違う。上手い下手じゃない。強い者が勝ち、弱い者が負ける、と云った方がいい。ゲームの上手さは、強さの一因に過ぎない。

「それで、それがどうなるのです」
「あくまで自分の場合だが、単純な事に気付いた」
「と、いいますと」
「自分はマルチプレイが嫌いだった」
「なるほど。人と競うのが嫌い、ということでもありますか」
「そうだ。自分は自分一人の世界がいい。そこで思ったのは、1つのゲーム世界を複数のプレイヤーで遊ぶのとは、逆を押し進めたものだ。
……キャラクリエイトというようなシステムは分かるかい? ゲームの始めにキャラクタを作成するような。

「ああ、はい」
「キャラクタを手作りする。その発想を、ゲーム世界にも伸ばす。
ゲーム世界も、プレイヤーごと個別に作成する。出来れば、そこに住むAIもまた、プレイヤーに合わせた作りになるといい。

「ゲーム内容そのものが、プレイヤーごとに異なるのですか!?」
「そう。そこまですれば、未来のゲームだという感じがした。だから良いと思う」
「うーむ。しかしそれを自動で生成させるとなると、話の破綻が起きそうな気もします」
「うん。難しさはある」
「難しいですよね」
「困難は度外視した。この大雑把なアイデアを考えた理由は、単に、自分が即、欲しいと感じるまでの内容は、どういうものかを予想した結果だ。ここまでのゲーム内容なら、買いたいと感じる。ただ、それでも、このゲームジャンルの作品1つ2つやれば、見飽きてしまうとは思う。

「それでも見飽きるのですか……」
「パソコンと同じだ。パソコンは素晴らしい発明であり、今後も使われ続ける。けれども、見飽きていないなんてこともない。
あ、でも、それは土台か……。見飽きても価値のある部分というのもある。

「それぞれのゲーム作品と、ゲームジャンルではまた別ということですね。RPG(ロールプレイングゲーム)とかSTG(シューティングゲーム)等々、未だにゲームジャンルが続いているもの多いです。

「最近ではサンドボックスという聞き慣れないゲームジャンルも知った」




   −2−   余談

「前回云ったゲームのジャンルは何と云えば良いでしょう。仮名でもいいので、呼び名がないと不便です

「完全自動生成ゲームかな? 仮だから呼びやすい名前にしよう……オートオールで」
「オートミールみたいな名前ですね」
「全て自動、だからオートオール」
「作る、という意味から、オールメイクの方が良いのでは」
「それだと、メイク、化粧かなと思ってしまう」
「オートオールだって食品みたいですよ」
「う〜ん。ネーミングは苦手だ」
「じゃ、オートオールでいいです」
「仮称ね」
「はい」

   *

「それで、そのオートオール・ゲームの、もっと具体的なことが聞きたいです。
AIも世界も、プレイヤー個別に違うと云っていましたね。それは、いくつかのパターンの中から選択されるということでしょうか?

「いいや、ほぼ無限のパターンから。AIの挙動が10通りの条件分岐とか、そういうレベルじゃない。AIがプレイヤー個人を知るという、画期的な仕様を考えなきゃいけないね。オートミールは――

「オートオールです」
「そう、その何とかは、プレイヤーごとのカスタマイズが重要なんだ」
「プレイヤーが自分で色々設定出来ることですか」
「違う、ちょっと違う。
プレイヤーは自分で直接、ゲームの設定をしない。プレイヤーは自分の好みだったり傾向だったり、自分自身のデータを、何かしらの方法でゲームに伝える。
これは、Web上に、プレイヤーのデータベースを作り、そこと各ゲームをつなげてもいい。

「個人情報……?」
「情報の内容は、プレイヤーが何を面白いと感じるか、それに関連しそうな大量のデータだ。
ゲーム側はネットワークを通じて、その莫大なプレイヤー情報を受けとり、処理して、プレイヤーの好き嫌いを判断。パラメータに振り分ける、などをするかもしれない。
それを元にして世界やキャラクタ、NPC(非プレイヤーキャラクタ)を設計、生成するという流れになる訳だけど。

「やっぱり、最後の、生成というのが困難でしょうね」
「どうだろう。世界の生成については、もういくつかのゲームで取り入れられているようだった。
大事な点は、各々のプレイヤーらしさを、ゲームが理解し、ゲーム内容に反映できること。恐らく、プレイヤーは、自分自身だからこその機敏な反映を感じ取ったとき、嬉しくなるだろうね。
お店で、お客さんそれぞれの性格を捉えた、絶妙な対応をされるようなもの。

未来の職業。人工世界。未来の地球の姿

   −1−

「今の子供たちが大人になって就く仕事のほとんどは、今存在しない職業だと聞きます。まだ存在していない、未来に新しく生まれる職業って、どういうものなのでしょうね。

「私の想像がある」
「どういう想像ですか」
「世界を作る仕事が、多く現れるような、そんな気がする」
「世界を作る――? 比喩的な意味でしょうか?」
「文字通りの意味。世界そのもの」
「う〜ん……? 詳しい説明をお願いします」
「今は仮想現実技術がある」
「ありますね」
「それは将来、"仮想"ではなく、現実と同等さらには現実以上の世界を作ることになると思う。現実世界と同じレベル、またはそれ以上の存在が、いくつも誕生する。

「へ〜」
「しかし、世界を丸ごと作る訳だから、あらゆる雑務をAIに任せても、まだ足りない。AIには任せずらいものが多くあるはずだ。そこで、世界構築のための仕事を、人間にも発注することになるはず。

「世界構築って、具体的にどういう仕事なんですか?」
「さぁ……。分からない。色々あり過ぎると思う」
「そですか」
「大雑把にしか想像できない」
「んじゃあ――、そうです、そんなふうに世界を複数作る必要性はなんですか?」
「様々な利点があるからだろうね。インターネット以上のもの。ネットもまた意思疎通の用途に留まらず多目的なように、人工世界もまた、多目的。
 例えば、世界一つを実験場にしてしまったりできる。一撃で太陽系が吹っ飛びそうな、これまでにない爆弾の実験をしたり……

「ええ!?」
「そういうことも、被害を出さずに出来る、という話だ」
「いや、ダメですよね?! その実験場の世界にも、この世界と同じなら、人は住んでいるんでしょう?

「それは人道上、良くないから、無人の世界で行うのが望ましい」
「ああ、この世界とは別に、色々変えられるんですね」
「だからこその人工世界だ。破壊しても、また新規作成できる」


   −2−

「最終的には、一人につき、一つの世界を宛がうのも良いかと思うね」
「みんながパソコンを持つようなものですか?」
「そう。人類全てが満足するただ一つ世界なんて、無理だ。だが、世界が人類全てに用意されたのなら、満足させるのは可能だ。全人類が、特定の宗教を信仰しなければ許さない、という思いなら、その人だけの世界でやってくれれば良い。

「でもそれだと、それぞれの世界に元から住む住人には迷惑ではないでしょうか」
「それはAIだ」
「AIでも、心はあるでしょう。それとも意識も心もないのですか?」
「ふむ……。そうだな、心はあるかもしれない」
「ずーっと、その方たちは奴隷的存在で、可愛そうではありませんか」
「なるほど……」
「……」
「人の価値観とは違う物を組み込めば良いかもしれない」
「どういうことでしょう」
「人が嫌がることと、そのAIの嫌がることは、別種にすることも出来るだろう。そのように、設計し直し、そのAIたちが強い不快感・不愉快を感じないようにする価値観にすれば、苦しむ者が減る。

「でも、人間から見たら、苦しめているようにしか見えないことも多々でしょう?」
「それは人間的価値観で見ているに過ぎない。人間にも当てはまることだが、苦痛か幸福かは当人が感じることだ。

「でも、それを決めているのは、この場合、設計者の人間ではないですか」
「当人がどう感じるか、が問題なんだ。なぜそう感じるような仕組みになっているかは別問題だ。
人間自身もまた、自分で自分を設計したわけではない。自然が作った人体システムに動かされているだけだ。自分の意志というのは、システムに流されながら存在する一握りのものに過ぎない。



   −3−

「人工世界の用途というのは実験目的とゲーム目的のみでしょうか?」
「違う。とても応用範囲が多すぎて分からないだけだ。
人類の住み分けも出来る。

「人類の住み分け?」
「人生観、世界観などにより、一緒の世界にいれば争い合ってしまう民族を、別々の世界に住み分けることも考えられる。

「なるほど」
「資源の奪い合いもない」
「そうなんですか?」
「一度世界を作り上げれば、データの移動と、そのためのエネルギーがあれば事足りる。そしてその必要エネルギーは、ゆくゆくは限りなく0に近づく。

「凄いですね」
「けれども別に、エネルギーを節約する必要性が大きくはない。地球外の資源もエネルギーも、活用可能になるだろうから。
この今ある物質世界に住んでも良いし、仮想現実から進歩したサイバースペースに住んでも良いし、両方に住んで行き来してもいい。多分、行き来するんだろう。

「行き来できたら、先ほど云った人類の住み分けが出来ないじゃないですか」
「そうかもしれないな。そもそも住み分けはその場限りが望ましいだろうし」
「その場限りと云いますと?」
「住み分けが望ましい『人』、として判断するのではない。住み分けが望ましい『状態』で判断する。同じ人間でも、状態が変われば、住み分けも隔離も無用。



   −4−

「仮想現実を元にした、と云っていましたね。と、すると、その人の本体となる身体は、こちらの物質世界に置いたままなのですか?

「そういう人も一部にはいるかもしれないが、黎明期を過ぎれば、大抵はそうじゃないと思う。
前にも云ったように、心と身体は分離できる。心はソフトウェアでありデータだから、心をアップロード&ダウンロードすることになる。
この考えだと、それでもサーバーコンピューターが物質世界に置いてあることになるかもしれない。

「それでは、そのサーバーが破壊されると、世界が崩壊と……」
「破壊を困難にすることは容易だ」
「?」
「バックアップだ。サーバー上の世界もまたデータに過ぎない。だから、いくらでもコピーができる。そして物理的なサーバーは、物質世界上のあちらこちらに分散させておけば、全て破壊されないうちは、世界が崩壊しない。

「なるほど……。と致しますと、その極致は、この物質世界にはサーバーコンピューターが無数に置かれた、機械の動作音しかない地球になってしまうのでしょうか?

「さっき少し触れたように、宇宙開発で地球外にも出るからね。豊かになるのはサイバースペース上だけじゃなく、物質世界でもだ。
そして、サイバースペースと物質世界を行き来する人達が多いと思う。

「サイバースペースに住んでしまった人たちは、物質的な身体が既にないのでは?」
「作ればいい。人工身体を。そこへ精神データをコピーする」
「ああ、なるほど。
それと気付きましたが、物質世界には少なくともサーバーを管理する人が必要でしたね。誰もいなくなる訳じゃないのでした。

「管理者はあまり要らないよ。ナノボットに任せるから。管理も掃除もメンテナンスも全て。人に出来て、ナノボットに出来ないことなんて、いずれなくなるからね。

「ああ……そうでした。でも聞いていて何か、怖くなりました」
「え、何が?」
「だって聞いてると、今の世界とまるで別物じゃないですか。地球上は、無機質な床とサーバーコンピューターが所狭しと並んでいるだけのようになりそうです。

「それは何かのSF映画の一場面? コンピュータは想像以上の小型化と省エネになるから、地球表面を埋め尽くすほど要らないよ。それに、そうする必要がない。地下に収めればいい。未来の人間は、現代人よりはるかに、森や川の重要性を痛感している。それを守る技術もある。
他にやりようがないからと、森林を伐採するような世界じゃない。室内に収まるような機械から、食料を生成できる。気象も操作できるため、災害も減らせる。
地球の姿は、今よりはるかに、自然と人工物が調和する。科学技術が進むということは、自然をより理解できるようになる。より理解した種は、自然を壊さずに利用することに長ける。

「それなら地球の自然は壊されないのですか?」
「まだ壊すと思う。そしてそれを回復できると思う。そして、それに留まらない。不毛の大地となった地球外の惑星にも、緑を広げることが出来る。

気象予報だけでなく

   −1−

 天気予報を見ているとき。
「どうやら、また台風が近づいてくるようですね」
「ああ、いい加減にしてもらいたいものだ」
「多いですね、ここ数年は」
「台風や異常な低気圧による嵐――、恐らく温暖化による影響だから、今後はさらに増えるだろう。

「地球温暖化。その現象について懐疑的な声も耳にしますが、幸一はそうではないのですか

「温暖化は人間の行いと無関係だ、という説かな。そもそも地球の歴史を振り返れば、人類が存在しないときから、温まったり、冷えて氷河期になったりする。

「そうなんですか。では今回の温暖化も、人間社会とは無関係に、どちらにしろ温暖化にならざる得なかったのですか

「いいや。20世紀から続く、地球温暖化の傾向は、ほぼ完全に人間が原因のようだ」
「やはり、そうなのですか」
「自ら調べた方がいた。温暖化の具合をグラフに取り、それと火山活動の様子をグラフにとったものを重ねてみた。

「それがほぼ一致したのですか」
「しなかった。色々なものと比較したらしいがダメで、唯一一致したのが、人間の出す二酸化炭素排出量だったらしい。温室効果ガス全般と、だったかな。ちょっと忘れたが、それは決定的なデータだった。



   −2−

「気象予報と災害を見るたびに思うことある」
「何でしょう?」
「気象予報ばかりじゃなく、そろそろ気象操作をして欲しい。
台風が近づくと予報されるより、台風の進路を逸らして欲しい。
災害が自然任せというのが気に入らないね。

「台風の進路を逸らす……できるのでしょうか」
「細部の方法は分からないが、大ざっぱなアイディアなら1つ思いつく」
「聞かせて下さい」
「宇宙空間に鏡をたくさん浮遊させる」
「鏡? ミラーですか?
「そう。その鏡だ。その鏡は自由に移動、傾けることが可能だ。
これにより、太陽光を遮ったり、反射させることが出来る。

「なるほど。それで」
「日を遮ったり、日を一部地域に集中させることが可能だ。
温められた所は高気圧になる。冷やされた所は低気圧になる。

「なるんでしょうか?」
「空気というのは、温めれば膨らみ、冷やせば小さくなるもんだ。そしてそれが気圧に影響する。

「知りませんでした……」
「空気を密封したビニール袋は、暖かい日と寒い日で、中身の空気が大きくなったり小さくなったりすること、分かりやすい

「ああ……思い当たります。で、気圧と気象操作に、どういう関係が?」
「台風とか爆弾低気圧は、高気圧から遠ざかり、低気圧へ誘い込まれる……はず。
気象の専門的知識は知らないため、他の要因があることも分からない。が、何かしら操作する方法がある。

「なるほど。台風を遠慮したい地域を高気圧にして、絶海を低気圧にすればいいんですね」
「そういうことだ。この方法で良いかは分からないが、とにかく願うのは、いい加減、台風やら爆弾低気圧は、自然任せにせず、人の住む地域から遠ざけて頂きたい、ということだ。


精神論

|今回はテクノロジーの話は薄く、精神的な話に。

   −1−

|憂鬱と不調のご様子

 ぼうっと、虚ろな目でパソコンの画面を見ていた。
「飽きた」
シャットダウンした後、ベッドに転がった。
ベアコアのいない今、部屋は静寂だ。
(何のやる気もしない)
 この頃いつも、朝起きたときから疲れている。身体が重い、だるい。
 視界はなおも、ぼやける。視力は落ち、0.05にも満たない。風景はコントラストを低めた味気ないものに感じた。ディスプレイ(PC画面)の、わずかな輝度の差にも疲弊を感じた。


   −2−

|気分の落ち込みは、マイナスの事象へ意識を向かわせる。

 気づけば陽は傾き、鈍い橙色がレースカーテン越しに、室内を点々と照らした。
 幸一はベッドに座りながら、携帯端末でインターネットを見るともなしに見ていた。望まぬコメント欄が目に入る。
”言葉を言う前に、その言葉が他人を傷付けるかどうか、考えから言いましょう。”
”自分が言われて嫌なことは、他人にも言うな。”
 何かの論争をしている所らしい。
”道徳の言葉みたい”
”お前がいうな”
 幸一は、うんざりした思いで端末の電源を切り、脇へ放った。
(言葉で云ったって、無意味だ)
何度となく思うこと、また頭を巡る。
(そんな言語情報を相手に聞かせたって、人を作り直すに至らない。
人間の学習能力は、当てにならない。
人は物理的に改造しなきゃ、無駄だ。



   −3−

|幸一は迷信的なものに反発する。努力・精神論への反発

”今あなたが苦しんでいるのは、努力を怠ったから”
 今は、友人の半波《はんぱ》と、テレビを見ていた。何かの拍子で出たテレビのメッセージに、半波は反応かつ同調した。
「ああ、同感。人間は全て、自分が行った結果が己に返る。今が苦しいのも、かつての自分の行いの結果。自業自得、身から出たさび。あとは何だっけ、自縄自縛。そんな感じだ。

 幸一は異を唱える。
「そうとも限らないね。その話は一部にしか当てはまらない。人の云う話は大概そう、一部にしか当てはまらないものばかりさ。

「いや、俺は絶対に正しいと思う」
「そう」
「だって、その人の行動した結果が今に影響している訳だからな。他に何か考えられるか?

「ふ〜ん、そう」
「…………、何か反論はないのか?」
「信じ込んでいる人に反論しても、意味ない。人それぞれ、好きなように信じればいい」
「そう……か」
 半波はどこか欲求不満を顔に滲ませながら、視線を逸らした。

   *

 半波が帰ったあと。ベアコアが尋ねる。
「それで結局、幸一はどういう思いだったのですか」
「あまり良くない考えだね、と思ってた。ただ、宗教でもそうだけど、信じる人間に言葉を問いかけても無意味だよ。放っとく。

「因果応報――、わたしもそのように思うタイプなのですが……。その考えは、どのあたりが間違っているのでしょう?

「もちろん間違いも正しさも地続きだ。天災や、病気、事故、不運の絡む苦難がある。
半分は正しい。その人の行いは遅かれ早かれ、自らに返ってくるものさ。でも、自分に降りかかる全てが、自らの行いのせい、などとしてしまうのは短絡的だよ。
本人の意思が関与するものなんて、一部に過ぎない。今なお、ほとんどは運に左右される。過去の努力なんてのは要因の1つに過ぎない。遺伝の影響、環境の影響、様々さ。

「ですが、スポーツや学業など、日々の努力が実を結ぶこともあるでしょう」
「あるね」
「その分野でも、ときたまに日々の努力を軽視し、遺伝や環境のせいにしたりする意見がありますが、あれは違うと思いますね。

「何がかな」
「つまり、能力面です。能力面は、生来の性質よりも、後天的な、その人の努力によるところが、圧倒的に影響していると感じています。

「ああ、私も以前はそう信じていた」
「なぜ過去形なのですか」
「いろいろ見聞きして考えの偏りに気付いたから。人は、遺伝などの先天的影響も、そして環境や自身の努力と云った後天的影響も、どちらも半分ずつくらいは影響する。

「ええ」
「私が感じるのは、現代の物語上では、ドラマチックに仕上げるために、努力が過剰にクローズアップされている感じする。頑張れば結果が良くなるのは当然のことだが、時にご都合主義的だ。
はるか昔は、遺伝的、つまり生まれつきの能力の方ばかりに目が向かれていたらしい。今は反対に、後天的な影響を過剰に評価している偏りがある。なぜか人々は両極端だ。

「しかし、努力は人を大きく変えるのは事実だと思います」
「その時それぞれだ。『そういうときもあり、そうでもないときがある』という感じだ。
さらに云うと、努力で人は変わり、大きな結果を残した――、それは人類の中の少数派をクローズアップをしていると思う。データだけが事実を示していると私は考える。人の感動的言葉も当てにはならない。

「成功する人が少数派になるのは……仕方ないですよ。ほとんどの人間は、どうしても怠けてしまうものだと――

「それも違うと思う。人々は結果を残した人ばかり目が行きがちだ。その方たち以上に、怠けず努力をしても、いまいちな結果しかなく、そのために知られずに亡くなっていった方たちは膨大だと思う。ただ歴史に刻まれないだけなんだ。
そして、時折云われる言葉にこういうのがある。天才は人よりはるかに努力をした人だと。それは天才の一面しか見ていない。かの偉人は、99%の汗と1%の閃きだと云った。

「天才が天才であるのは、99%の汗つまり努力と、1%の閃きということで、つまり努力が大事だと仰られているんですね。

「ところが云いたかったのはそうではない」
「え?」
「99%の努力があっても、残り1%の閃きがなければ、天才には及ばない。そこが表したかった意味合いだ。
新しい組み合わせを見つけるのが努力ならば、新しい存在そのものを発見するのが天才、というような例えもあるかもしれない。本質的には全て組み合わせパターンかもしれないから、あくまでこれは人間感覚的なイメージだ。

「それじゃあまるで、努力しても意味がない、みたいな話になってしまいませんか?」
「努力と云う言葉でどこまで表わすのだろう」
「丹念に労力を重ねることですよ」
「そこに知能、思考、工夫、そういうものがあればいい」
「あるのではないでしょうか」
「ゲームのRPGに例えれば、レベル上げをし続けることが努力に相当するかな」
「ええ」
「そっか。だとすれば、その努力は、時に虚しい」
「なぜですか」
「決められた枠の中に収まっているからだ」
「それは……ルールに従うということで、よろしいことではないでしょうか」
「違う。進歩は既存の型を超えること。ルールもまた、既存の型に過ぎず。古いものは新しいものに変えていく必要がある。

「う〜んと、レベル上げより、ルール改変のほうが大事、ということですか?」
「適切な言葉で表せば、ルール改良・改善だ。何が大事かを云うなら、『方法そのものを進歩させてゆく』。同じ方法を繰り返す努力を、私は嫌う。それを云いたかった。

「あらゆるやり方を試すのが良いのですね」
「まあそうだ。やり方の種類そのもの、今出来るものは尽くされたという場合もあるかもしれない」
「何も出来ないときも、ありますよね」
「今、解決できる手段がないならば、技術進歩が必要だという表れだ。文明は不可能を可能にしてきた。それは多くがテクノロジーの進歩のおかげだ。


   *

「う〜ん、わたしにはまだ納得できません。色んなハンデを背負っても、それを乗り越えて素晴らしい結果を出す人もいるじゃないですか。

「だから人それぞれなんだ。同じ内容を、出来る人もいれば、出来ない人もいる。それだけのことだ。

「そこは努力で乗り越えるべきものではないでしょうか。他の人が出来るなら、その人にだって出来るはずです。

「なぜ?」
「同じ人間だからです」
「そうでもない」
「え?」
「基本構造が同じだけで、心身の作りは人それぞれだ。同じなのは、あくまで大まかな部分だけだ。そこが、同じ設計で作られた同スペックの製品達と、動物との違いだ。動物の個体差は、設計上の誤差の範囲ではない。多様なものが発生するよう仕組まれたものだ。

「しかし、基本部分だけでも同じなら、十分じゃないでしょうか」
「十分って……何が」
「誰もが同じだと見なすためにです」
「どういう意味合いで、そう考えるかによる。差別問題から見れば、皆同じと考えた方が良い。能力面から見れば、同じと見るのは誤りで、人それぞれに違うと考えた方が良い。

「ええ、まあ、そうですね」
「むしろ能力面については、ばらけていた方が好都合だろうね。一人の人間に全ての能力を詰め込むのは、現在は無理だ。詰め込めるだけの容量はない。だったら、個別に長所をばらける方が良い。

「人間は皆、同じようには出来ないのですか」
「そういうことだ。人間は規格どおりにキッチリ作られた製品ではない。
人間にも設計図に相当するDNAというものが用意されてはいる。だが、その設計図に完成形は記されていない。だから人の感覚で云えば設計図とは呼べないものかもしれない。指示書、とでも云ったところかもしれないね。

自己検閲技術

|自己検閲技術の発達。不快コメントの駆除


   −1−

「自己検閲技術というものを思いついた」
「どういうものです?」
「まず検閲というのは知ってるね?」
「はい――、政府などが都合の悪い書籍等を、排除したりすることですよね?」
「そんなところ。そして大抵それは不健全な社会だ。だから、その類はいらない。今でもゲーム分野で見られるけれど、年齢制限している。

「それは他分野でも見られますし、対象年齢によって扱いを分ける必要はあると思います」
「だが今なお、年齢制限のみならず、作品に手を加えているのがある。大抵、作品の一部を削除し過ぎてしまい、そのためにユーザーから、作品が破綻しているというクレームの嵐も、珍しくはない。

「そんな。昔じゃなく今の出来事ですか?」
「そうだ。今だ。そのような検閲に近いことが行われている」
「低年齢層に、過度な性的描写や残虐描写を見せないのは、良いことだと思いますが」
「私は思わないが。低年齢層と、ひとまとめにしてはいけない。人それぞれだと思う。見たいものは見て、見たくないものは見ない、これが基本だ。

「それだと、都合が悪いものから、視線を逸らすことにもなるのではないですか」
「見たい、見たくないとは、見る必要の有無を、自主的に判断することを云っている」


   −2−

「自己検閲技術についての話でしたね」
「そうだ。だが、まだ話は間接的なものが続く。無関係でないから聞いてほしい」
「はい」
「ネット上のコメントについては知っているか? 動画コメントや、記事のコメント、掲示板のコメント、そんな所だ。

「はい。知っております。……大抵、思いやりのない場所です」
「そう。誹謗中傷の罵り合い、絶賛暴論中だったりすることも。そのようなコメントは見たいかな? あるいは、見ると自分に良い影響をもたらすだろうか?

「う〜ん。いいえ。ほとんど、悪い影響でした。精神的に疲れます。心地よくない疲れです

「私は、他人が検閲することは悪いことだと考えた。逆に、自分で自分を検閲するのは、良いことも多いと考えた。

「と、すると?」
「つまり、そのような悪影響をもたらすものを、自分で判断し自動的に遮断する技術が欲しい。ある程度の高性能AIを使った、自己検閲ソフトだ。

「やはり、見たくないものを見なくなる、という悪い影響を感じます。それに、それもまた他人任せの検閲になりそうです。

「それは、その人の扱い方次第だ。その人の人間性による。私は、そのようなマイナス面より、プラスの面が大きいと予想する。
なぜなら、愚かな言動を見ないことにより、それに反応することを避けられる。愚かな行動をする限り、人は離れてゆくのだと云うこと、そういう傾向を強めたい。

ミニロボットの普及

|ミニロボットの普及。小さなロボットを操ることにより狭い所への作業が可能


   −1−

「小さなロボットがあれば色々と便利だ」
「そうなんですか?」
「そのロボットは自在に遠隔操作できるようにする。ロボットには目と耳、そして高精度の手がある。

「はい」
「これで、狭い所に入り込んだものを、取り出せたりする」
「そういう使い方ですか……」
「何だか、がっかりされたようだ」
「もっと便利なものかと思いました」
「便利さ。そのロボット――仮にミニロボットと云うけれど、その大きさはミリ単位からマイクロ単位まで様々用意する。で、体内に入れても大丈夫な設計にする。

「体内? なぜです?」
「例えば魚の骨がつっかえて、どうにもこうにも取れないとき」
「放っておけば良くありません?」
「致し方ないから放っておくだけだ。対処方法が用意されれば、それを使うようになるだろう。魚の骨の例で云おう。この場合、食道の奥に刺さったとする。当然、腕も指も入らない。

「歯ブラシなどの棒状のものを使うのはどうです?」
「上手くゆくとは思えないし、飲み込む危険がある」
「そういえば、歯ブラシやボールペンを飲み込むというのは、実際ありましたね」
「その点、ミニロボットなら飲み込んでも大丈夫だ。例え消化されても害のない材質だけで作る。消化されずにウンチに紛れこむ極小サイズにしてもいい。

「ウンチ……」
「そもそもウンチのほとんどは、腸内細菌だとも耳にする。それがミクロサイズのロボットでも、そう変わりなく体外に出られるはずだ。
骨を取り除こうとするとき、当然、骨をつかんで引っ張ることになると思うが、1台ではパワー不足の場合があるかもしれない。その場合は群ロボット方式にする。たくさんのロボットで、綱引きのようにすればいい。

「なるほど」
「ナノボットが登場した場合は、がん細胞に対しても、処置できる。違う点は、手動操作でなく、全自動が主である点かもしれない。

「それは素晴らしいですね。手術しなくていいんですか」
「メスを用いて切り開く手術は無用だ。もちろん毒性の強い抗がん剤、放射線治療も無用だ。



   −2−

「手軽に操作可能なミニロボットが出来れば、本当に便利になると思う」
「そうですね」
「地味な用途でも。例えば、目に入ったゴミを直接取り除いたり、切りずらい位置にある鼻毛を切ったり、爪楊枝では取れない歯の裏側に挟まった異物を取ったり、爪切りでも切れない食い込んだ爪を適切に処置したり。耳に入った異物を取り除くのにも使える。

「具体的かつ地味ですね」
「縁の下の力持ちと云った所だろう。あとは、機械の内部など、基板や機械部品が入り組んだ中に、ネジを落としたりとかね。そのネジを取ってきてもらえる。
目の届かない高い位置や、家具の隙間の狭い場所なども、ミニロボットを放り投げて、調べることができる。隙間風がどこから入ってくるのか、また、どこから室内に虫が入ってくるが、気付かなかった穴が分かるかもしれない。

「虫、嫌いなんですね」
「大嫌いだ。いずれミニロボットたちに、壁中の目張りをお願いしたい」
「ドアの隙間まで塞がれそうですね。開かなくなりそうです」
「冬場の寒冷地では、玄関が凍って開かなくなること日常茶飯事だ。そんなときは思い切り力をかければ開く。ミニロボットたちには、ドア開閉の度に 弱めの目張りを頑張ってもらえば良い。


空気抵抗を激減

空気抵抗を激減。そして。


   −1−

「空気抵抗を激減するアイデア……があるかもしれない」
「どういうことでしょう? 空気抵抗とは、車などが走る際に空気にぶつかることで発生する抵抗のことですよね

「そう」
「空気抵抗を極限まで減らすには針状にするのですか?」
「私は別の案を想像した。前方の空気を引っ掴んで、高速に受け渡し、背後の空間に置く。ナノボットによって。

「んん……」
「人でも車でも、その対象の表面にナノボットがズラリといる感じだ。対象に空気が触れる前につかんで運ぶ。使うのはナノボットよりもっと微細なロボットかもしれないけれど。
これは、対象の形状が凸凹していても使える。人にも。――でも空気抵抗をなくしても慣性は残るか……

「慣性」
「質量の大きいものほど、動き出すのにも止まるのにも時間がかかる。
あれは私の推測だけど、動き出そうとする力が、全ての粒子に伝わるまでの時間がかかるためかもしれない。質量が大きいというのは、粒子が多いわけだからね。
ん? 動き出そうとする力の伝わる早さを、スピードアップさせればいいじゃないかな。力をより素早く全粒子へ行き渡らせれば良かったり?

「慣性というのは物理の計算式等で、もうキッチリ決められているのではありませんでしたか?

「そうだっけ? 分からない。が、いずれのものも、何かしら覆る余地があるもんさ」
「ナノボットも、それ以上極小なものは、量子的な影響から、作れないのではありませんでしたか?

「とてもミクロな世界では、現代科学から見て、曖昧または確率的になってしまう。それはもしかすると、今の知性では明確には理解できていないものを見ているからかもしれない。現状の知性でも扱えるほどの理解を見出そうとすれば、今の認識になる、というだけだと思う。

「と云いますと、ミクロな世界は曖昧でも確率的でもない、と?」
「そこが判断不可なんだよ。だって私は人間並みの知性しかないもん。おまけに、種類によっては、それを言葉で定義することが無理だとも思っている。超知性は人間の言葉を使っていないだろうね。
そして次、言葉に関係するが、それを説明する概念が用意されていない、とかだ。ミクロな世界は、曖昧でも確率的でもないかもしれない。が、一見矛盾しているようだけど、明確でも確定的でもないのかもしれない。

「矛盾しているようです。曖昧かつ明確であり、確率的で確定的、ということを云われましたが?

「そこが人間の限界さ。言葉上の理屈で矛盾するからといって、またさらに言葉上の理屈に頼ってしまうだろう。

「そうするしか道はないと思いますが……」
「ああ、だから人間の限界だと云ったんだ。一応、それ以外にも、直観や、理詰めなしで感じ取ることなど、方法はあるが、答えを得ても当人しか理解ができないような方法だ。科学はそれを証拠付けなくていけない。直観はその手掛かりにはなる。


   *

「曖昧かつ明確……うーむ」
「量子状態は、観測すれば、はっきり「位置」または「動き」が分かるようだ。だが、両方観測しようとすると曖昧・確率的になる、と聞いた。一応、この現象を云い表わすにも、曖昧かつ明確と、表現できなくはない。

「えっと?」
「つまり言葉自体、解釈によって、どうとでもなる面があり、真実を見えなくする効果さえある

「真実を伝えるのが言葉ですよね?」
「創作も嘘も、言葉だ。それより頼りになるのは……数学がちょっとはマシかもしれない」
「数学と言葉?」
「言葉は人間の感覚が交ざり過ぎ、嘘混じりの頼りなさ。数学なら、それ自体、嘘を許さない。

「なるほど。数学は嘘をつかないと」
「ところが、その数学を人が扱うと、扱う処理で嘘が交ざったり」
「なぜでしょう? 数学に使うデータがまずかったり、出された答えを人が解釈するためでしょうか?

「その通り」

   *

「何だか、どこまでいっても、人がダメダメであることを述べる一方です」
「だって本当にそうなんだもの。私はこう思うよ、人が科学に関わるから、科学が完全にならないんだと。余計な非科学が交ざってしまうんだと!

「それは本末転倒じゃないでしょうか。人が科学を作ってきたんですから」
「人は自然法則を見つけ出し、その学問を科学と云ったりした。そういう人にとっての『科学』か? 私の云う『科学』は、人が作ったものじゃない。自然法則を含めた『仕組み』そのものだ。
 だからこそ、人が理解した部分を『現代科学』、まだ人が理解していないのを『未知の科学』と呼んだ。

「幸一の云う、その意味合いでの『科学』なら、単に『自然法則』と呼べば良いのではないでしょうか?

「広義な意味合いを含んでいるなら、それでも良いかもしれない。言葉は人によって意味が異なってしまうものだ。

永久

|「全てに終わりがある」という思い込み、について。最終的に宇宙にも寿命があるから終わるというのは間違いかもしれない。そこまで遠すぎる未来は未知。

   −1−

 今日は半波がやって来た。
「永久に続くものなんてものはないぜ。全てに終わりがあるんだ」
そして幸一と、そういう話になった。
「そうかい」
「どれほど生きたって虚しいだけだぜ? 例え不老不死を得たって、最後には地球も宇宙も寿命を迎えて消滅してしまうんだ。



   −2−

「私は、知的生命体が永遠に生き続ける可能性も、有り得ると、最近は考えている」
「ないよ。無理だ」
「半波は、宇宙の終わりが、全ての終わりだと誤解してはいない?」
「何? どういうことだ……、当たり前だろう。宇宙こそ全て……ではないのか?」
「ではないようだ。宇宙は恐らく無数にある」
「恐らく、だろう? はっきり事実が分かった訳ではないだろう?」
「それは当然のことだ。現代科学というのは一部を理解しているに過ぎない。真実はそれを超えた奥行きを持つ。
で、宇宙は無数にある、という話。

「ああ」
「だから、この宇宙がダメになったら、別な宇宙へ行けばいい」
「分かった。それが事実だとしよう。でもな、それでも全ての宇宙がダメになったらどうする? 終わりだろう? そもそも別の宇宙に、どう行く?

「まず別の宇宙へ行く方法は、テクノロジーの発展によって開かれる。
そして全ての宇宙がダメになったとき、だが。そもそも、まず、この宇宙がダメになるまで、何億年という規模どころでない年月が過ぎる。そしてさらに、全ての宇宙がダメになるまでは、途方もない年月が過ぎている。この間、テクノロジーは、想像を絶するレベルに到達している。

「そうだな。そこには異論はない。テクノロジーの加速度的進歩はオレも認める所だ」
「思いつく方法1つ目は、宇宙を自ら作り出してしまうこと」
「いやしかし、作り出すにも何かが要るはずだ。物やエネルギーが。それも無くなったら、無理じゃないか?

「方法2つ目は、高度な文明では、この世界が無数の宇宙だけに留まっていないことにも気づくだろうと想像。

「ん?」
「宇宙群の、さらに上位の世界を知り、そこへ暮らせるようになるかもしれない」
「宇宙の外側にある空間、ということか?」
「宇宙の外は、空間とか時間とか、この宇宙の概念では表せない領域だ」
「まあ、とにかく、何があるんだな?」
「あるかもしれない、ないかもしれない」
「どっちなんだ?」
「現在の文明では、何もなく、進んだ文明には、何かがある、と分かるのかも」
「ふうむ……。それで、宇宙の上位の世界も、やがては寿命があるだろう? 結局、いずれ終わりがあることに変わりはないぞ?

「それが人間の想像力さ。正確に云うと、終わりがあることが分かる訳はない。『不明』が答えだ。終わりがあるのかもしれないし、永遠に続くのかもしれない、それが正しい理解だよ。

「オレは永遠に続かないと思うな」
「それも、とくに根拠がないだろう?」
「そんなことはないぞ。地球上のあらゆるものが、いずれ終わりを迎えた」
「地球の常識が、宇宙以上の世界の常識じゃないよ」
「それに、物質を構成する原子だったか素粒子にも、寿命があると聞いた覚えがある」
「だったら、原子でも素粒子でもない世界に変えればいいだけだ」
「そっか……」
「人間の感覚からすれば、永遠の存在しないことが、受け入れやすいのだろうね。でも、その話には決め手がない。だから、正確な理解は、『永遠があるかもしれない、ないかもしれない』の方だ。

「う〜ん。まあ、そうだな」


   −3−

 半波に代わり、話の続きをベアコアと。
「しかし幸一、幸一は以前、『絶対というものはない』と云っておられたじゃありませんか。

「ああ」
「永遠がある、というのは、その考えに反しませんか?」
「反しない。なぜなら、私が云うのは、『永遠があるかもしれない、ないかもしれない』だからだ。『絶対に永遠に続く』でもなければ、『絶対に終わる』でもない。

「なるほど。了解しました。しかし、永遠に言及している時点で、絶対的なものに云い及んでいる感じがしないでもないです。

「以前にも云ったと思う。その【無絶対】の考え――つまり、『絶対というものはない』という考え。あれは、定義でも論理でもなく、心構えだと。

「ええ」
「論理的には矛盾しているからだ」
「そうでしたっけ?」
「『絶対というものはない』という「考えそれ自体が絶対ではない」のだと、云ったはずだ。

「なるほど。その考えそのものを否定するかのような……」
「だから、心構えだとしている。その考えで重要なのは論理的な真実ではない。狭い視野への注意だ。



   −4−   |いつしか話題は常識へ

「なるほど、分かってきました。だから永久と云う考えにもつながるのですね」
「……」
「どんなものにも終わりがある、という一種の絶対的な考えを、幸一は、そうとも限らない、と念押しした訳ですね。

「そうだな。『どんなものにも』と云っている時点で、怪しさがあった。だが、日常的レベルでは大抵正しいと思う。問題は宇宙レベルのような、あまりに大局的過ぎる流れの中では、人の常識が通用しないということだ。

「人の常識を、日常的なもの以外に当てはめてはダメということですね」
「必ずしもそうではない。日常的なものさえ、常識が害悪になっていることは多々だろう。

「常識を捨てた方が良いのでしょうか」
「今の知的レベルの人類では、常識を捨てられない」
「そうなんですか?」
「処理能力を超えた理解できない些末な諸々を、処理外にすることで、常識としている」
「へ〜」
「多分」
「多分ですか」
「処理能力が上昇すれば、処理対象の範囲を広げられる。そうして進化をしてゆくことで、常識は迷信と同じく、少しずつ脱することが出来、より真実が見えるようになる。

「常識は、悪いものだったのですね」
「悪い面が目立つが、良し悪しだ。人が現在の能力で何とか前進しようとするとき、仕方なく常識を使う。常識は、代わりのものが出来るまでは、それに頼らざる得ない。

郷愁

|最近、10年前、20年前、振り返り変化を思う郷愁。


   −1−

 また日は沈み――、夕闇、そして、暗闇へ。


   −2−

 最近、過去を思うことが多くなった。
 10年前は何をしていたろう、何を見て、何を聞き、何を考えていただろう。
 20年前、社会や世界は、まだどのような感じだったろう。未来に近づく感覚が、これほど大きく変わるとは思わなかった。

 幸一は、まだ自分が若者だと思っている。まだ人生のターニングポイントでもない。
 ふと幼い日、幼馴染と電気式の車模型で遊んでいたな、と思い出す。良く分からなかったために、その模型の調整は、幼馴染に任せっぱなしだった。パーツを入れ替えたら、ものすごいスピードで走って、階段から落ちて、バラバラになることもあったと、思い出す。
 その幼馴染、同い年で、まだ若いはずだったが、何年か前に亡くなったと聞く。病弱な自分の方が早死にするとばかり幸一は思っていた。そもそも、あの幼馴染は体格が良くて、そんな若く亡くなるとは――


   −3−

 10年間。20年前と10年前でも変化はあったろう。だが、10年前と今の方が、なんだか、やや激しい変化だった気がする。

 幸一は幼いときからテレビを見ていた。ふと記憶に残るアニメが、放送年を見ると、10年以上前だったり、20年近く昔だったりすると、哀しみに近い懐かしさを感じる。そういえば画質も違うと気付く。変わっていたんだと。何しろ幼少の頃に見たテレビは、ノイズ混じりが普通だった。色も、もっと不鮮明だった気がする。それに、液晶テレビじゃなくブラウン管式のテレビで、かさばる大きさのものだった。

 20年前、テレビゲームはあったがパソコンはまだ持ってなかった。パソコン――、家に入ってきた当初は、ここまで長い付き合いになるとは思いもしなかった代物だ。パソコンを買って、数年後にインターネットにつないだ。
 インターネット。大きな存在になった。そういうことも後から振り返って知った。当初は単に、「調べ物がしやすくなる機能」というくらいに思っていた。インターネットは電子百科事典のようなものだと思っていた。
 インターネットに触れて間もなく、フリーゲームというものに出会えた。人間のクリエイティブな作家性に触れた。あるメーカーがPC上で、RPGその他諸々のゲームを簡易的に作れるソフトを2000年付近に売り出した。それが、あらゆる人の手に渡り、様々な作品が作られた。なおかつ土台となる部分はソフト側で提供しているので、素人が一からゲームプログラミングしたものよりも、断然エラーは多発せず、多くはゲーム起動&プレイ可能だったことも利点だった。(以前は動作環境との相性のために起動さえ出来ないフリーソフトも多かった)
 ――それ以前にもゲーム制作ソフトはあったが、前述のソフトが、最も影響力が大きかったという印象を、幸一は感じた。

 2005年に動画投稿サイトが誕生したらしいが、まだ知らなかった。その存在を耳にはしていたかもしれない。が、一過性の流行やブームと区別がつかなかった。そもそも、その頃はまだ幸一の環境では、動画という重いデータを満足にダウンロードすることは出来なかった気がする。数十MB以上の規模なら、重い、と感じていた。
 幸一が動画サイトに入り浸るようになったのは、2010年代に入ってからだった。そこでもまた人々のクリエイティブさが発揮されており、かつ、視聴するのに限りない数の作品があった。

 ニュースサイトも見た。知らないうちに数限りないほどのニュースサイトがあった。同じ出来事を、あちこちに転用しているのかと思いきや、そうでないことも多く、報道内容に事欠かないことを感じた。
 最近は、新たなテクノロジーの出現が多いことを、ネットのニュースを見て、じわじわ感じてくる。ドキュメンタリー関連チャンネルによる科学番組を見ていても、進歩の速さを感じる。
 幸一は自ら云ってきた、テクノロジーの加速度的進歩は、間違っていないのだと感じた。2045年には、その進歩の率が(21世紀初頭と比べて)無限大とも感じられるくらいになるはずだが、それに比べると今現在の進歩はまだまだであることに、寂しさを感じることも多々だった。それは一定進歩ではなく、加速度的進歩であるため、2045年に近づいてから急上昇するためだと知っていても、時には、焦りから、進歩の遅さに不安を覚えることもあった。


   −4−

 ゲーム、マンガ、アニメ、映画、小説、科学番組、ニュース……。色々ある。人によっては飽きないはず。だが、幸一は根っからの飽きやすい性質だった。
 幸一にとっては、もっともっと、目まぐるしく急速に変化する世界を望む。毎日のように世界の変化を感じられるのが理想だ。
 人によっては、もう十分に世界の変化は激しいと感じるかもしれない。が、幸一にとってはまだ足りない。もっと加速させたい。

 いつしか幸一は、進歩の率を、さらに上昇させるには……というようなことを想像しがちになった。

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ベアコア、消。

   −1−

 何気ない朝だった。コーヒーを入れてくれたベアコアが神妙に尋ねた。
「未来のAIの話をしてくださいませんか? 映画では、敵対し争うAIが目に付きます。AIは人のパートナーだとわたしは信じております。

 いつもと調子が違う気もした。
「もう既にAIは人を支えてくれている。色々な機械、ロボットとして。AIが一人前になるまで、AIを導く人間が、道を誤らなければ、強いAIが襲うこともない。

「少しホッとしました」
「犬などの動物でも、悪い扱いをすれば、飼い主を襲うこともあるだろう」
「けれども、人が未来のAIを恐れるのは、もうすぐAIが人間の知能に匹敵、超えてしまうからだとも思います。自分より恐ろしく強大な相手には、なすすべがないことも不安を煽る一端です。

「予め用意をしておけば、なすすべがないなんてこともない。AIだけが進化の流れに乗る訳じゃない。AIと融合した人間もまた、進化の流れに乗るからだ。果ては、AIと人間、ロボットやサイボーグそしてアンドロイド等々、それらの違いはなくなる。人種や性別年齢の違いも、望むならなくせる。

「今は、分からない未来だからこその恐怖なのでしょうか」
「恐がる者は、良く知らないために怯えることになる。自身が心身共に強くなれると知れば、怖がることはない。

 ベアコアの様子が、少し変化する。思い詰めているようにも見える。それまで聞こえなかった機械の動作音が、いよいよ無視できなくなってきた。
「シンギュラリティ、知っておりますか」
「ああ、知ってる。私が云っていた話は、シンギュラリティつまり特異点に近づくことを前提としている。ベアコアにも、もうその話をしたか…………いいや、まだしていないはずだ。

「世界が変わる境目です」
「シンギュラリティのことか?」
「わたしも、また――」
 電子的ノイズがけたたましい。視界がチラつき、ベアコアの姿が見辛くなる。
「ん、何だ、もう一度云ってほしい。良く聞こえない」
 視界がホワイトアウトする前に、ベアコアの声も、姿も、かき消えた。


   −2−

|目覚める。身体の衰弱。頭部レントゲン写真。

 夢で見ていた気がする。ベアコアの身体に電子回路のようなデザインが施され、そして光り輝き消える、という不思議なビジョンであった。
「…………」
 目が覚めると、静かな室内だった。今はベアコアはいないらしい。そういうときもある。
「!」
 ベッドから落ちた。理由も分からず落ちた。立ち上がろうとするも、身体が起き上がらない。腕は動くのに、妙だった。が、それは単に手に加える力が足りなかったと知る。
「身体が……重いな。なぜだ」
 筋力の衰えかもしれない。
 見慣れないものが落ちている。一枚の――レントゲン写真。頭部を映したものだった。
「記憶にないな。レコードになっているとか……」
レントゲン写真の表面をなぞる。
「……そういう訳でもない。自分の頭を映したやつかな」
素人が見ても、どうと分からない。


   −3−

|風化。

 その日から、妙な感じがした。ずっと、誰かを忘れているような、そんな気がする。
 いつも訪問者がいたような錯覚がするが、今の今まで、そんなことがなかった。ずっと一人だったはずだ。が、そのことに違和感がある。不思議なことだった。

 そして、いずれ、忘れる。
 そんなものだ。

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