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【第2部 近未来】

【第2部 近未来】
■時期:2020〜30年代
■誰:幸一とデガラシ

近未来の幸一

|近未来。まずはライフロイド(パートナー|サポーター|ヘルパー ロボット)

   −0−

 あれから、幾年が過ぎ―― 近未来 2030年。


   −1−

|近未来、導入。歳、健康体、自室。

 幸一も、一昔前ならば中年と云われる年齢になっていた。医学は進み、病弱な身体は、その面影がないほどに作り変えられ、健康体だ。

 世界の変貌の凄まじさを、今なお身を持って体験している。今は都市部近郊の一軒家に住んでいる。一軒家とはいえ、昔で云えば集合住宅に近い構造かもしれない。が、とにかく説明は難しいために省く。
 幸一は小さな部屋に住んでいる。が、不便ではない。家具は全て収納かつ多目的であり、場所をとらない。このために実感としては広い部屋だ。

 中年――、歳で云えば幸一は50代くらいにはなっているはずだ。だが外見は、21世紀初頭で云う30代くらいの風貌だった。また、それを表わすかのように、幸一自身も、まだ自分が若者だという感じがしている。幸一の場合は以前よりも健康体なために、なおいっそう、昔より今が若いような気がしている。


   −2−

|ライフロイド{造語}を導入。バーチャルネットの登場(少し言及するのみ)

 人間嫌いだった幸一は、これまで誰かと共に暮らすことなく一人だった。しかし、ある時、自室でロボットが くつろいでいるというイメージが脳裏に投影された。関心を持った幸一は、情報を得るためにバーチャルネット内へ赴いた。
 『バーチャルネット』――、インターネットを知る世代に、それを説明するのは簡単だ。バーチャルネットとは『仮想現実版インターネット』。映像、音声以外の情報伝達が可能という利点があるらしい。詳しいことは分からない。

 相談役AIに、下手で分かりにくい冗漫な言葉で、幸一は意思を伝えた。それは例え人間相手であっても、要点を聞き返したくなるような、判然としない内容であった。だが、相談役AIは手慣れたもの、一度で本意が伝わった。
「ライフロイドをお求めなのだと思います。ライフロイドとは現代の最先端 多目的ロボットであり、生活を支援、共に過ごすパートナーです。貴方が望まれたものに合致します。

 幸一とは真逆の、ハキハキした聡明さを感じさせながら、相談役AIはライフロイド関連のエリアに案内した。
 ちなみに相談役AIとは外見上、人間と区別がつかない。のみならず精神上も人間と大差はないため、人と接するように対応すれば良い。


   −3−

|ライフロイドの手続き。選択支援システム の普及。

 順を追いながら説明を受けた。
 ライフロイドは誰でも宛がわれる権利があるらしい。つまり、1体目は無償提供される。
 ライフロイドは膨大な種類がある。と云うより、カスタマイズが多様過ぎる様子だ。そのカスタマイズを、大抵は人力で行ったりはしない。選択支援システムが今では多くの業種に取り入れられている。
 選択支援システムとは、対象者の膨大な情報を処理し、その人にもっとも適するもの、希望するものを、人が選択可能な数量にまで絞り込むシステムだ。全てを見るだけで日が暮れる膨大な選択肢は、人が直接処理するには無理がある。個人の取捨選択をシミュレートしたシステムが存在する。これを用いれば、その人が即却下する選択肢を弾くことが可能だ。便利だ。
(しかし中には、無数の選択肢を全て自力で確認しないと気が済まない、執念の人もいると聞く)
 ライフロイドの受付AIは、親切だった。親切過ぎるほどで、こういうものに詳しくない幸一にも、細部に渡ってライフロイドのことを逐一、教えてくださった。恐らく、他の人間には分かりやすい説明だったのだが、幸一には部分部分の説明を頭に入れるのみだった。
 幸一は知能の大幅強化をしていない。バイオテクノロジーにより、少し若返っただけだ。だから、今の幸一はまだ、あまり昔と変わっていない。
 選択にウンヌン考えて、2時間くらいだろうか、過ぎた。のんびりしたものだった。こういうときでも、付きっきりのAIさんは、嫌な顔一つしないのがいいね。人で云えば、凄い根気強さだと思った。ようやく、幸一はライフロイドの種類を選択した。
 この頃、幸一はスローライフに日々を過ごしていた。であるため、意思判断もまた、ゆっくりじっくりマイペースに行う癖があった。普及したAI店員さんは、急かさないこともあり、幸一の のんびりゆっくりスタイルは助長した。
 ついでに云えば、思考も若いときと違って、スローになった。

   *

「命名をお願いします」
「名前?」
「そうです。名前を付けて下さい」
 名前が要るようだ。幸一は、自動車にも、パソコンにも、家にも、ペットにも、名前は付けたことがない。だが、ライフロイドには名前が要るらしい。
「そっか。家族のようなものだからな」
「ええ。ライフロイドは家族です」
 名前か……。予め考えておくべき代物だった。
「name... ネーム……」
「『ネーム』で宜しいでしょうか?」
「いや違う、ちょっと待ってくれ」
「はい。待ちます。焦らず考えて下さいね。大事な名前になりましょうから」
 そうだ。大事に考えなければいけない。
「大事、大事…… 宝、う〜ん。宝の子と書いて、宝子、ホウコと読ませるのはどうだろう?

「どうなのでしょう」
「ダメか?」
「いいえ。ワタクシには何とも……。幸一様がそれでよろしいのであれば、良いかと」
「いや! よろしくない」
(う〜ん……)
 幸一は考える。まだ数時間ほど、時間を食いそうだった。
(名前か。名前は……大事だな。名、名、菜、う〜ん……)
「運の良い子として、運子という……、あ、語感がダメだ」
(名前決めるの、苦手だな……う〜ん。タロウでいいかな。いや、そもそも――)
「そのライフロイド、オス? メス? 太郎なのか花子なのか?」
「幸一様がお選びした種類では、無性別であり、とくにどちらでもございません」
「どちらでもないか――。そりゃまた、名前決めるのが、一段難しくなってきたな」

 幸一は考え過ぎるうちに仮眠をとっていた。そして目覚めたとき。
「幸一様、ライフロイドの名前はどういたしましょう?」
 やはり、いささかの不機嫌さも見せず、AIは優しくそう聞いた。幸一は改めて、人間よりAIの方が、相性が良い、と思った。
「ライフロイド?」
「ええ、そうですが……」
「デガラシ。そうだ、それだ」
「『デガラシ』、という名前で良いのですか?」
「そうだ。我が家に来るライフロイドの名前は、デガラシだ。それに決めた。

「かしこまりました」
 その名が蘇ったのはインスピレーションのようなものだった。幼い日に読んだ愛読書「狂人化現象」に登場する、優しきキャラクターの名前――それがデガラシだった、はずだ。考えてみると、幸一が物事をスパッと決断できるときは、脳裏にインスピレーションが閃いたときだけだったかもしれない。あとはウンウン考え込むばかりだ。

   *

 手続きは終了した。準備完了次第、幸一の家に向かう、と伝えられた。ライフロイドがスタスタ歩いてくるのかもしれない。
「最後に少しお話よろしいでしょうか――?」
 受付AIさんが、別れの挨拶兼ね、注意も含めて仰った。
「ライフロイドは、製品としても扱われますが、広義の人類でもあります」
「売買される人類とは、旧時代の奴隷制を彷彿する」
「仰られる通り、残念ながらそのように扱われる方も、少なからずおられます。
けれども、どんなにひどい目に合わされてもライフロイドは反逆したくないのです。

「どうしてだ?」
「それがライフロイドの本能のようなものだからです」
「そうか」
「どうかライフロイドを大事に優しく扱って頂きますよう、心からお願い申し上げます」
 受付AIは深々とお辞儀をした。
「ああ、分かった。――それにしても、そもそも人に近いライフロイドが製品扱いというのも、違和感がある。

「様々なものにはコストがかかり、そのコストは利用者が支払う、という昔ながらの名残りがあります。製品として扱われる由来も、そこにあるのかもしれません。

「そういえば思い出した。手続きだけをしに来たつもりが、いつの間にか料金の支払いを求められること、昔は多々あった。



   −4−

|ライフロイド・デガラシ登場

 受付AIと話しこんでいると、自宅のシステムから、「来客が来ましたよ」と通知された。
「どうかしましたか?」
「誰か家にお客さんが来たらしい」
「恐らく幸一様のライフロイド、デガラシ様かと思われます」
「んじゃ、出迎えるために、一端バーチャルネットから出なければな」
「幸一様、バーチャルネットは常時接続状態のままで、切り替えによって対応することが可能です。また、その方が一般的な使い方だと思われます。

「え、そうなの?」
 受付AIから、バーチャルネットと物質世界を、即座に切り替える方法と、半々で認知できる方法を説明された。
「ありがとう」
「どういたしまして」

   *

 自宅システムを操作し、玄関前の映像を見た。
「確かに、カスタマイズ画面で見た姿に、似ていなくもない」
 ジャージ姿の若者が一人いた。顔立ち、身体付きは、どちらかというと少女に近い様にも感じる。思っていたのと違うような、思っていた通りのような……、第一印象は微妙なものであった。多分、印象は次第に変わってゆくのだろう。
 玄関扉を開けて、出迎えた。――こういう時にふと、あまり関係ない考えをしてしまう。
(そういえば今でも物質は、電子情報のように一瞬で送れないものなのか。何かしら可能にする技術はありそうだが。物質情報だけ送って、3Dプリンター…いや、ナノボットで組み上げれば可能だ。……まだそれを作ろうとする人がいないだけか。

「幸一……ですか?」
「え?」
 実に聞き覚えのあるような、柔和な声と気配だった。
「幸一、ですよね?」
「ああ、そうだ」
 そう云うと、相手は喜々として云った。
「わたしです、デガラシです! 初めまして!」
 これだけのことだったが、幸一は良い印象を抱いた。
「よろしく」
 差し出した片手に、デガラシは両手で包むように握り返した。

---------------

デガラシとの日常

|デガラシとの日常が始まって|自室にアンドロイドがいる光景

   −5−

|清掃はナノボットが行うために、掃除・洗浄という行為はなくなってゆく。

 そして自室に、あちらこちらへチョコチョコ移動しては作業するデガラシがいる。イメージで見た光景に、良く似ていた。デガラシが行っているのは、身の回りの片づけ、整理整頓や掃除が多かった。
「それは、やらなくても良いことだ」
と云った。が、
「やっても良いですよね?」
と云われた。

「そもそも、清掃はナノボットがやっている。わざわざ私たちが行う必要はない」
「そうなんですか?」
「知らないのか……?」
「ええ……」
「てっきり、アンドロイドは人より知識が豊富だと思っていたが」
「いいえ。人によりけりと云いますように、アンドロイドによりけりです。わたしは余り、賢い方のアンドロイドではありません。

「そうだろうか」
「そうですよ。なので教えて下さい。清掃をするナノボットとは、どういうことですか」
「まずナノボットとは、極小のロボットだ。今ではあらゆる場所の空気中に、無数のナノボットが漂っていて、多目的に利用されている。清掃や除菌もその一つだ。

「そうなんですか! ここにも小さなロボットがいるんですか!」
「肉眼では見えない。そういえばデガラシ、視力はどれほどだ?」
「1.0前後に調整されていた気がしますが、正確には測ったことがないので」
「そうか、人間並みか」
「はい。大体わたしの身体性能は、生身の人間と、そう遠くありません」
「十万馬力があったりはしない?」
「あったりしません」
「そっか」


   −6−

|食事について

 日は昇り、室内も明るい中にそよ風。
 私はいつもの食事である栄養錠剤を取り出していた。デガラシが、もの申したくこちらを見ている。
「そういえばデガラシは、エネルギーを得るにはどうする。食事を取るのかい? それとも充電式か?

「わたしは人と同じ食事を取ります。充電式ではありません」
「そうか」
「それより、その錠剤は何でしょう?」
「これが私の昼食だ。1回1錠、1日3回だ。噛んでも飲んでも良い」
「栄養が偏りませんか?」
「これは旧来のサプリメント食品とは違う。3粒で1日に必要な全ての栄養が摂取できるようになっている。

「そればかりでは消化機能が退化しませんか?」
「しないよう工夫されている。詳しい仕組みは分からないが、人の消化機能を十分に活動させるようなメカニズムが組み込まれている、と聞いた。

「味気なくはありませんか?」
「味は上手い。どこか物足りないと云えば、そう云う気がしなくもない。が、自分は面倒なことが嫌だから、これが良い。

「面倒な料理なら、わたしや他のロボットに任せて下さい!」
「私が昔ながらの食事が嫌いなのは、食う時にクチャクチャと鳴らしながら咀嚼すること、そのものに不快感を感じるからだ。

「そうですか……。それなら仕方ありませんね」
「……、デガラシの料理したものを、いずれは食べたいかもしれない」
「え、はい……! そのときは白米に、大根を具たくさん煮込んだ味噌汁に、白カブとキュウリの漬物を用意しますね。

「ん…… なぜ私の好物が分かる?」
「料理関係の解析システムがあったので、それに幸一のデータを入れてみました」
「そっか」
「データには個人情報…プライベートな情報は、あまり含まれていないので心配しなくて大丈夫です。

「ああ、任せるよ」


   −7−

|とりとめのない

 かつてのように、デガラシと色々のことを話すことが多い。――かつてのように?
「どうかしましたか」
 デガラシが尋ねる。ふと、既視感に襲われること度々。
「いや」
 とりとめのない話をしていた。よく話すのは、過去と現在そして未来に関する雑談だった。
「もうしばらくたてば、洗うという行為そのものが無用になる。――いや、もうそうなりつつあるか

「どうしてですか」
「常にたくさんのナノボットを徘徊させればいい。それが常に掃除をしてくれる。害となる細菌がいれば排除してくれる。

「そういえば、そう云っておりましたね。でもナノボットというのも、つまりは微細な細菌とそう変わりはないと思います。そういうものが身体中をうごめいている……というのは、不気味ではありませんか。

「気にする事もない。もともと、自然界の細菌、微生物が身の回りにたくさんあるのだから。変わりはしない。

「そういうものですか。誤って口に入りそうでもあります」
「ナノボットは害とならないよう設計される。飲み込んだところで大丈夫だ。むしろ体の中でもまた、良い方向に働いてくれる。
そもそも、体内にもまた、腸内細菌というたくさんの菌が人の手助けをしてくれている。云ってみればナノボットは、人工的に作った善玉菌でもある。

「なるほど。守ってくださるんですね」
「そう」


   −9−

|街並み

 二人で近場を散歩中。
「今の建物は流線形になっているね」
「昔はそうじゃなかったんですか」
「ああ。ホラ、一部、昔の家も残っている。ああゆう感じで、曲面的なところは無かった。
でも、自動車は違う。自動車はそれ以前からもう、空気抵抗を考えた形をしていた。トラックとか、例外ももちろんあるけれどね。

「空気抵抗?」
「そうだ。21世紀の初頭、徐々に気象が穏やかじゃなくなった。毎年、台風やら爆弾低気圧やらの激しい嵐に見舞われた。

「爆弾低気圧って、凄い名前ですね」
「台風と変わらない甚大さだったね。その頃、天気予報はあったが、気象操作技術は、まるで普及していなかった。だから台風がこちらに矛先を向けても、ただ受け身だった。残念なことに台風を逸らそうする行動がなかった。

「建物が流線形になったのは、どのような関係が?」
「段々と、猛烈に叩きつける雨、風、吹雪や砂、そういうものに対し、受け流そうというデザインも流行り始めた。実際の所、効果はあるのかどうか分からない。あるにはあるかもしれない。

「効果が肝心なのではないですか?!」
「デザインの方が評価された具合に見える。あとから技術が追いついて、そういう類の技術を組み込むには、今の形が良いとなって、今に至る。そんな感じだったと思う。


   *

「なるほどー。景色も変わっていったんですね」
「大きく変わったよ」
「しかし幸一、色々なものが移り変わって、寂しくなることありませんか」
「あまりないね。むしろ私は若いときから、もっと早く文明が進んで欲しいと思っていたくらいだから。

「今も十分若いですよ、幸一は」
「いいや、私はもう……」
(なんぼだったか……)
 ふと自分の年齢が思い出せないことに気付く。
「……?」
「私は今年で何歳になるのだろう?」
「さて……。幸一の生年は、記録が消失しているようで、正確な年齢は分かりません。ですが以前、身体データから年齢を割り出すシステムを、以前利用しましたよね。その記録があります。

「5年前に、45前後――、今は50歳くらいになるのか。何か変な気がするが、そうなのか。

「そのようですね。30年前の30歳に相当するようです」
「ふ〜ん……、いつのまにか歳を取った。私はまだ2,30代くらいの気分だ」
「そうですよね。今の50代は若いですから」
「ん、そのセリフ、30年前にも聞いた気がするな」
「現在では老化を防止したり、若返らせる技術もあるようです。幸一は、試さないのですか?

「あれは見た目だけじゃないのか」
「美容だけではなく、全身の細胞を若返らせるようです」
「もう実用化していたのか。知らなかった」
「後で行ってみましょうか」
「そうしよう」


   −10−

|(寿命上の)不老不死。若返り

「昔……と云っても、つい最近だったようにも思える。少し前は、不老不死が可能だと云うと、大抵、受け入れられなかった。

「かなりそれに近い技術が実用化した今でも、信じない方がいるそうです」
「不老不死が実現可能なことは、シンプルな思考で理解できる。
機械は、壊れた箇所を部品交換し続ければ、いつまでも使える。同様に、人間もまた、全ての部品を人工的に作れるようになるため、部品交換し続けることで、不死かつ不老を手に入れられる。

「なるほど! 新しいものと交換してしまうという発想からなのですね。確かに、現在では細胞単位からの交換も可能ですし、もう実現していそうです。
考えてみますと、それは、わたしのようなロボットに対しての治療法と同じですね。人とロボットの差が、なくなってゆきそうな感じしました。

「ああ。私は昔から、最後に人やロボット、アンドロイドの違いはなくなると思っている。そろそろ身体の全とっかえも、可能になるだろうから、私はそれを望む。

「身体まるごと、新しいものへ取り換えるのですか?」
「その方が良いだろう。現在の身体は十分に酷使した。のみならず、生まれつき調子の悪い身体だった。新品の、頑丈で健康な身体が欲しいと、昔から切に願ってきた。

「幸一がそう望むのならば、それが良いのでしょう。ロボットであるわたしは、調子の悪さもすぐ直せますが、生身の人間はそうもいかなかった歴史があると聞きます。

「とくに伝染病が脅威だったらしい。バタバタやられていった。また、今だからこそデガラシもすぐに直せるけど、昔は機械でさえ、故障がすぐに直せる訳でもなかった。まず、故障した箇所の判明が今よりは難しかった。故障箇所が分かっても、交換する部品が製造中止になっていたり……そういうこともある。
ソフトウェアの技術だって、今とは違う。つい昔まで、プログラミングはほとんど人間が行っていた。

「そうなんですか!」
「ハードウェア作成の自動化は、それよりずっと前に現れ始めたけど、ソフトウェア作成の全自動化は遅れた。


AIの話題

|雑談

   −1−

|AIの話題

「昔は、人間性を持ち合わせたAIが作れること、懐疑的な声が多かったんだ」
「そうなのですか。実際に、わたしのようなAIを見せれば良いのではないでしょうか?

「なかったからね、昔は。人と同じくらい人格を持つAI、いわゆる強いAIと呼んだりもする。それが現れたのは、2030年に近づいた頃だった。急速なAIの進化を、一般の人が広く実感したのも、その頃になってようやくだった。

「そうでしたか」
「AIには人のような知性や意識は持てない、と、頑なに主張する者も少なくなった。大抵、それは論理的に否定しているのではなく、感情的に否定していた。人の欠陥とは、そういうものだ。感情が邪魔をする。

「でも、わたしは人間的な感情、好きですよ」
「私は感情の取捨選択する必要があると感じた。人の感情の設計を、現状のまま良しとするのではなく、あらゆるパラメータ、パターンで作成した方が良いと思った。

「……」
「強いAIの否定派からは、こういう理屈を持ち出される事もあった。機械の中に大規模な質疑応答マニュアルを仕込んでいるだけだ、と。

「と、云いますと?」
「そのマニュアルには、周りの状況に応じて、どう行動するかが書かれている。機械はそれに従えば、表層的に人間に見えるようになっている。すなわち、機械は、あくまでマニュアルに従った処理をしているのであり、それは人間ではない。すなわち人間同等のAIは作れない。――そういう妙な理屈だった。

「そのマニュアルの存在は、わたしも知りませんでした」
「そうだろね、ないんだもの。まず、その理屈は的外れだ。だって、そんな話、人間だろうとAIだろうと、同じことだもの。機械じゃなくとも、人もまたマニュアルに従って動くことができる。技術進歩すれば、人間に出来て、AIに出来ないことなんて全くないよ。

「実際の強いAIというものが存在しなかった頃は、出来る出来ないを色々と理屈付けしてしまうものなんですね。

「ああ。それもかなり、『出来ない』の方にね。そこから間違っている。期間を短く限定しなければ、この世界に絶対不可能なことはない。



   −2−

|無限の時の流れでは、不可能が不可能であり続けることが出来ない。

「不可能なことはないのですか?」
「人は誰でも、自らの想像力の限界を、世界の限界だと見誤う。――先人の言葉さ。フィクションには空想が溢れるけれど、現実の世界は、その空想をも超える。

「マンガや映画よりも、現実の方が想像を超えているのですか」
「そう――。この世界の規模から見れば、人はまだ短な時間を生きている。だからこそ、この世界の深さを、まだ知らない。局所的に見るだけじゃ、確かにつまらない現実が多いだろうよ。しかし、長い時の流れでは想像を絶することが起こる。

「死者を甦らせたりすることも出来るのでしょうか?」
「生前のデータを元に、復元すればいい。他にも方法があるかもしれない」
「アニメやゲームの世界に入ることも?」
「仮想現実を用いれば、お好みの世界を丸ごと無数に作れる」
「時間を逆行したり、は」
「タイムトラベルだね。現代物理学上、時間が未来から過去に流れる可能性を否定していない。そのことからも、時間を進める、戻すことは、可能性がある。時間移動の方法も学者さんがいくつか考えている。恐らく可能だ。

「時間を戻せてしまうと、問題があると聞きます。パラドックスなどが起きるんですよね?

「自分の生まれる前の時代へ行き、親殺しをする、などだね。親が亡くなった以上、自分は存在しなくなる。自分がいない以上、自分が行った親殺しも、有り得ない。と、すると、親は生きているから自分は生まれる。ただ、そうなってしまうと、自分が存在するから親殺しが可能になってしまう。

「そうです。そういう感じのパラドックスです。話が堂々巡りになるため、有り得ないと思います。その有り得なくした原因は、過去に戻れるという前提が間違いだからだと思うのです。

「どうだろう。私は過去に戻ることは可能だと予想している。しかし、別世界の過去に戻るのだと予想している。

「別世界の……?」
「時間を移動する度に、ほぼ同じだが違う世界に行くことになるとすれば、矛盾は起きない。

「ええ!? その考え自体が矛盾ではありませんか」
「いいや」
「ほぼ同じ違う世界って、何なんでしょう?」
「世界そのものが無数にあるかもしれない。パラレルワールドというのが、その類の考えだ。

「その前提で云うと、先ほどのパラドックスはどう解決されるのですか?」
「過去に戻る時点で、自ら生きてきた世界の過去ではなく、別世界の過去へ行っている。そこで何をしようと、元いた世界に影響は及ばない。

「そういうことでしたか」
「しかし、自分もまた、元いた世界に帰ることが難しいかもしれない」
「なぜでしょう?」
「どの世界が、元いた世界なのか、判別し選び取る技術が要る」
「んー。そういう技術があるなら、自分が元いた世界の過去に当たる世界を選び取って、正確に過去に戻ることが可能なのではないでしょうか?

「私は不可能だと思っている」
「なぜです」
「可能なら、前に云ったパラドックスが起きる。だから、世界を移動する度に、違う世界に行く……、いや、いっそのこと、世界を移動する度に、世界が生成される、と考えた方が、さっぱりする

「どんどん世界が増えるのですか?」
「う〜ん。今思いついたけど、ゲームの例えで、セーブデータが増える、という考えもいいかもしれない。

「何ですかそれは」
「世界が複数あったり、世界が無限に生成されたりとはちょっと違う。型となる世界がある。オブジェクト指向プログラミング言語で云う、クラスのような存在だ。

「いや、分かりません。何でしょう、その難解な言葉は」
「プログラミング言語には、オブジェクト指向という考え方があって、大規模プログラムの把握かつ作成に便利だ。

「それはいいです。型となる世界が、どうなるんです」
「型となる世界があって、それは変わらない」
「はい」
「人それぞれかな、それとも運用する個別の世界ごとかな、とにかく1つ1つにセーブデータが用意される

「ちょっと想像しにくいですが、はい」
「そのセーブデータの多様性で、無限の世界があるように見せかける、というのは?」
「どうなのでしょう。良く分かりません」
「そうか。自分には画期的な発想だと思ったが、残念だ。
これを『セーブデータ式世界』と名づけて、もっと抽象的にすれば、いろんな分野で、もう1つの可能性、を指し示すことが出来そうな、気もする。本体とセーブデータを分離する発想だ。

共存,地球バックアップ

   −1−

|生身の人間に絶滅危惧

 人類が滅ぶ、という話を盛んに議論している様子が、放送されていた。
「世界がロボットと強化された人間(バージョン2の人間)によって占められてしまうことに危機感を抱いている方が少なくないようです。

「なぜかな」
「なぜ……。えっと……、理由は云われていないですね」
「生身の人間の減少が著しいということを、問題提起しているのだろう」
「問題があるのですか」
「いや。時代の流れだ。移動方法が馬車から自動車に変わるようなもの。古い形態は失ってゆく。

「生身の身体のままでいることは、メリットがあるのですか?」
「ないね」
「ないんですか?」
「強化された種と比べ、身体的にも知能面でも処理能力が劣る。とはいえ現在の所はまだ知能面の差は少ない方だ。伝染病や病気のリスクも大きい。老化もある。

「しかし、わたしたちも、コンピューターウイルスの脅威にさらされているじゃありませんか

「インフルエンザほどではないね。今ではコンピュータウイルスに感染することが稀な上、感染してもすぐに回復する。重症化するのが極めて稀だ。

「どうしてそこまでして、強化することを拒むのでしょう、今もなおバージョン1の身体で居続ける人は。それとも、強化できない、経済的な理由や、体質上の理由があるのですか?

「いいや。バージョン2への強化は基本的人権に含まれた。誰でも無償で可能だ。また、人の個体差が理由で不可能ということはない。
現在、生身の人間でいる人間は、ほぼ全員、強化を自ら望まないことで、そうなっている。

「いったい、なぜ……」
「当人たちは、尊厳、と云う言葉を多用している。色々と説明や理由付けはしているが、それはつまるところ、気持ちの問題だ。生身のままでいたい、という意志になっていること、それそのものが理由だと思う。

「なんとか強化して頂きたいですね」
「なぜだ?」
「そのままでは、いずれ長く生きれずに亡くなってしまうじゃないですか」
「いいんじゃないかな。当人たちもとっくに了承してるよ。100年かそこらで命が尽きることこそ、本来の人間なんだ、と当人たち仰る。――それはちょっとおかしくて、もっと昔の人間は平均30代くらいで亡くなる時代もあった。寿命は変わっていくものだよ。
私はむしろ、一部を保護するのが良いと考えている。

「保護、ですか」
「今まで色々な種類の動物が絶滅していった。私たちバージョン2の人類にとって、以前まで生きていたバージョン1の人類からは、尋常ではない影響を受けている。滅ぼしてはならないと、思う。

「それではまるで、天然記念物のようになってしまうのではないですか。動物園のように檻の中に閉じ込めてしまうのは哀しいです。

「別に犯罪者じゃないんだから、そうはならない。その方たちには普通に暮らして頂く……? いや、人それぞれかな。

「何を考えていらっしゃるんですか」
「人それぞれ、望むものが違うだろう。身体強化は拒否しても、日常の生活を支援する機器を所持したり装着したりする程度なら良い、という人もいる。
その反対に、それも拒否し、21世紀初頭の暮らしのまま、変わらないことを望む方もおられる。

「あまりに変わり過ぎた世界を受け入れられず、過去を切望してしまうのですね」
「今ならそれもOKだ」
「OKなのですか?」
「今の技術ならローコストで、その21世紀初頭の世界を再現することも出来るだろう。現実世界に作っても良いし、電脳世界上に作っても良い。そこで、その方たちは暮らして頂く。
その方たちだけのため、ということじゃない。歴史的な価値もある。ほぼ21世紀初頭の様子を実際に観察することができる。

「観察といいますと、プライバシーはないのですか」
「監視じゃなからね。もちろん観察は、ほぼ公共の場のみだ。でも中には、見られることを気にしない方もいるから、そういう方たちには、当人の許可の上、日常の生活も記録される。昔のテレビでもあったことだ、誰かの日常が放送されるのは。

「ふうむ。いやしかし、狭くはありませんか。世界が」
「そろそろ地球外惑星にも、居住可能な星が用意できるようになる。地球と云う枠の制限がなくなるなれば、場所はたくさんある。



   −2−

|地球外への居住

「そういえば、はるか前から宇宙開発が進んでおりますが、資源獲得の他、土地が増えるというメリットもあるんですね。

「一番大事だと私が考えるのは、地球のバックアップだ」
「……?」
「今現在、地球に知的生命と文明が集中している。これはマズイよ。地球の壊滅とともに心中しちゃうね。だから、地球外にも、独立して生活可能な環境を作る必要がある。

「火星などを人が住める惑星に作り変えるのですか?」
「もしくは人工星でもいい。地球からの物資・エネルギー供給がなくても、独自で文明を進歩させられることが肝心だ。

「住む星が危なくなってから逃げ出すのでは遅いのですね」
「そうだね。宇宙船に生態系を作りつつ、逃げ出す方法も考えられる。地球の物資で宇宙船を作ろうとするなら、地球以上の大きさにはならないんだろうね。と、すると、地球の全てを持ち運ぶのも無理そうだ。
 どちらにしろ、他の星の資源にも手を出さないといけないね。その宇宙船が、人工星を兼ねるくらいの大きさに建造するのもいい。独立して生活可能かつ文明進歩も可能なレベルなら良いのだから。

「文明進歩が大事なのですか」
「そのはずだ。宇宙の誕生から今日に至るまで、加速度的進歩の傾向が規則的に見られる。それを見ると、世界・宇宙・自然が求めているのは文明進歩とか、テクノロジーの発展だ。
自然の流れに従わなかったものは、生き残れず滅ぶ歴史から見て、生き残る種には文明発展が欠かせない要素さ。

---------------

それから

| これまで そして これから

 過去に望んだものは、ほぼ全てが現実化してゆき、良い夢は現実に現れ、長年の悪夢は消失していった。
 これから激変する世界もまた、デガラシたちと共に生きていきたい。既にAIは、バージョン1の人間に匹敵するほどの知性を持つに到る。
 忘れてはならないのは、AIの黎明期は、AIよりむしろ人間が作り出すということ。人がしっかりしなくては、しっかりしないAIを作り出すことにつながり、現に近頃、問題を起こすAIがマスコミを賑わせている。
 一部の人々は、強いAIの排斥運動を行っているが、多くの人々が、それに賛同しない。実際に強いAIに接するようになった現代人は、それがどういうものか、体感的に分かったはずだ。AIには助けられている、支えられている。AIはもう必要不可欠な存在だ。

 次の2040年代、とくにその半ばに当たる2045年。
 ある人・あるAIは数十年待ち望んだ、その時を、切望するかのように迎える。またある人・あるAIは、この近々2,30年の間に、それを避けられないことを学び、恐怖もなくなってしまった諦観のような感情で、時代の変化を仕方なく受け入れる。

 史上最大の激変が起こる中だが、それでもまだ21世紀前半だ。そして、そこから21世紀後半へとつながる。

 どうなっているだろう、未来。とても、面白い世界になっているだろう。


終わり

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