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補章 「刃沼、遠き日々」



■「幼少期」
 或る田舎にて。
 当時そこは戦闘地域だった。兵士とテロリスト達の銃撃戦。殺し合いの、まっただ中。血で染まる身体があちこちに散乱していた。

◆或る兵士側の視点より。
 もはや、こちらの優勢は明らかだった。ちらり、と、奥の小屋に子供を確認した。だから叫んだ。
「こっちだ! まだいるぞ! 多分子供だ!」
 私は進む。みんなもその小屋へ向かう。誰かのつぶやき。「相手が女子供でも容赦するな、ってのは分かるよ。でも、人間だもの。ときどき、情けが起きもするよね」。小屋に向かって大声で呼びかけた、「こちらが撃ち殺す前に、小屋の外へ出てこい!」。さらに他の者が釘を刺す、「生け捕りが無理そうなら、すぐ殺すからな。用心しろ」。続けて、ふと思い出したように、私は付け加えた。「大丈夫だ。見たところ、5歳にも満たない幼子たちだった」。「他に隠れていなければ、な」
 小屋を開け放つ。小さな空間に、幼児5人のみがいることを確認。5人はきょとんとしたり、震え恐がったり、泣きじゃくったりしていた。(戦意は……なさそうだ。当たり前か)。この小屋は武器庫? でもあるのだろうか。元は結構な数の武器・弾薬があったと思わせた。現在では残り少ない武器や弾丸が床に散らばるのみだった。
 私達は、何とはなしに和んだために、互いにクスリと笑みがこぼれた。銃を下して、子ども達に近づいた。だが、さらに怖がられてしまう。幼児の一人は、ほとんど無表情でこちらを見ていた。その子だけ、どこか異質だった。保護するために、その子供たちを抱き上げようと――したときだった。
 幼児たちは突如として、背中に隠していた小形の機関銃を取り出し、私たち目がけ、発砲した。その場にいた仲間は倒れていった。兵の一人は瞬時にナイフを取り出したものの、幼児の首か胸あたりを刺しながら死でいった。私はすかさず、拳銃を取り出し、一人の幼児に向けて発砲しようとしたが……、こんな状態になってまで、躊躇《ちゅうちょ》の方が勝ってしまった。私は拳銃を構えながら、至近距離の弾に撃たれて絶命した。

◆同じ場所。時は少し前。
 刃沼と云う名の幼子《おさなご》がいた。親はない。森の中や岩肌を駆けた記憶がぼんやり残るだけだった。少し前に飢えて倒れたところを、この地域の人に助けられた。その後、人使いの荒い大人にこき使われている。でも、雨風を少し凌《しの》げるバラック小屋とエサを与えてくれるため、現在に至るまでここで生活していた。

――ここから刃沼視点。
 その日、私(刃沼)は初めて銃をあてがわれた。前日からやけに他人は焦っていた。私の含め、村の子供たちが集められた。銃の扱いを大雑把に教えられた。その後、小屋に押し込められた。そのまま夜になった。様子がおかしく、外を覗いた。濛々《もうもう》とした土煙の中、ぼんやりとであったが、村人たちの死体と、撃ち殺される姿を見た。他の子にも見えたらしい、泣きじゃくったり、騒いだり、震えたり、吐いたりする様子が激しくなった。何度か、小屋の外へ飛び出す子もいた。私は小屋の隅っこで、引き金に指を置いたまま、じっと待っていた。
 夜が少しずつ明ける。銃撃の音も止んできた頃、私は銃を後ろへ隠した。それを見た他の子も真似をした。小屋の扉が開き、敵が入ってきた。互いに攻撃しない少しの間があった。そののち、誰かが発砲し、すぐ殺し合いになった。パニックになった仲間の子が、こちらに向かって発砲してきた。だから私は、とにかく動くもの全てを敵味方関係なく、撃った。小屋にいるものが全部、動かなくなったあとは、窓から見える動くものを、撃ち続けた。そのときの自分にあるのは、殺される恐怖だけだった。そして持っていた銃の弾がなくなった。弾切れだ。終わりだ。
 敵が目の前に現れ、何発かの弾を撃たれた。床の上に倒れて動けなくなった。目の先には、死体と血だけだった。「待て!!」という声が聞こえたところで、意識が飛んだ。

◆兵士の指揮官、キープアウトさん。
 ついに最後の一人を仕留めるときに、指揮官は「待て!!」と云った。続けて指示を出した。
「その子は生かして捕えろ。治療する。担架!」
兵A「はい。(……なんのために?)」 刃沼を担架に乗せる。
兵B「(小声で)仲間を殺した奴を……。幼いからって、生かしておいていい理由にはならない……!」
兵A「(ささやき声で)指揮官殿には、何か考えがあるのだ」
 車両は担架を乗せ、走っていく。
兵C「おそらくは自分の兵士に仕立てようってことなんじゃないか? 子供相手に、けっこうな数がやられたろ? あれはほとんど、あの子一人で仕留めていたな」
兵B「俺らが!? 幼児一人に!? ご冗談でしょう」
兵A「なるほどなぁ……」
兵B「お前まで信じるってが?」
A「あの年齢にしては、強かったな」
B「ばかやろう。幼児と比べられてたまるか。大人にはかなわねぇ」
C「あの歳で、あそこまでやられたんじゃ、強すぎるってくらいに将来は有望さ。あの調子で、大人になるまで鍛え上げられりゃ、どうなるやら……」
B「……」
A「…………」
 走る車両の中で。
指揮官(腕の良い少年兵だったな。掘り出し物だ。殺すなんてとんでもない。俺が鍛え上げれば、多くの凡庸な兵士より戦力になる、優れた人材だ)。「俺の、一世一代の殺人マシンにしてやる」
 元の場所。
C「あの指揮官は、兵士の心なんて見ちゃいない。ただ戦力なんだ、あの人にとっては」

■密閉したような、窓の無い白い部屋。――刃沼視点。
 目が覚める。目の前に一人の男。キープアウトさん。
「今日からお前はここで暮らす。お前は強いマシンになるのだ」
 また別の世界に来たような気がした。訳も分からず、相手の言葉もあまり理解できず、ただ肯《うなず》いていた。

   *  時間経過
 それから年月がたつ。いつしか、ヘレネーという同年代の子を、ちょくちょく見かけるようになった。銃の保守係らしい。それ以外は知らない。
ヘレネー「キープアウトは、ただ刃沼を利用しているだけだぜ?」
刃沼「分かってる」
「それでいいのかよぉ……このままで」
「人間は利用し、利用されあうもんだって聞いた」
「それもまぁ、人の一面ではあるけどよぉ……。んじゃあよ、オレと刃沼も互いに何か、利用し利用されあってるのか?」
「するかもしれないし、しないかもしれない。誰でも同じ。同じ人間。変わりはしない」

■「血の林」
 或る森林地帯へ、刃沼は派遣に出された。そこへ駐留している軍の一時戦力となれ、と云う指示だった。そこに仮設された兵舎にしばらく滞在することになった。軍の人からは傭兵(雇われ兵)として見られた。
 そののち、その軍と敵対する勢力を壊滅状態にまで追い込めた。そろそろ刃沼は用済みになろうとしていた。他の人達ともそれなりに仲が良くなり、帰るのがさみしいなぁと思っていた……頃の出来事だった。
 そのとき刃沼は、兵の一人と共に、荷物を送り届ける任務を受けていた。林の中、木々の間を徒歩で移動した。相手の兵士は寡黙であり、互いにほとんど一言も話さず、黙々と歩いた。敵戦力は、ほとんど壊滅状態の上、現在歩いている方向とは別の方だった。そのため、さほど警戒もせず、気楽にしていた。
 夜。直感的に何かがおかしいと感じ、目が覚める。仲間の兵士がいない。のみならず、不審な箱状の物が置かれていた。本能が危険を強く訴えていた。すかさず、銃を手に取り、避難した。まもなく先ほどいた場所が爆発した。とたんに銃撃の音が鳴り響いた。刃沼は逃げる途中で足を滑らし、かなりの距離を転がり落ちた。一瞬、遠くにいる兵士の顔を見た。良く知っている人だ。ずっと一緒に戦った、信頼する戦友……のはずだった。真っ暗闇の中、刃沼は身を潜めながら静かに動き、相手の様子を探る。
兵A「まだ刃沼の死体は見当たらないか?」
B「死体も何も、まだ生きている確率が高いと……」
C「イライラするな……。早く死ねばいいのに」
刃沼(!?) 耳を疑うとはこのことだった。
A「そう急ぐな。刃沼が出てくるまで静かにじっと待つ。出てきたところを一斉射撃、だ」
D「眠てぇ」
刃沼(……………………) 目の辺りから、数滴の水、垂れて落ちた。

 しばらくの時間のち。睡魔も強く、うとうとし始めるA。
A「……はっ。えっ?」
 意識が戻る。辺りを見ると、仲間の兵士が死体となっていた。
刃沼「動くな。叫ぶな」 Aの後頭部に突く銃口。
A「は…、刃沼か……」
刃沼「みんな襲ってきた。なぜ、私を殺そうと……?」
A「い、いや、いいや! それは勘違いだ……! 今回のターゲットはあんたじゃなくて……」
刃沼「話はさっきから聞いていた。言い逃れは、無理。……素直に理由を云って」
A「本当のことを云うから……! 銃を。とりあえず、銃を下してくれ……!!」
刃沼「駄目。でも、正直に喋っている間は、撃たないと約束する。でも、もし少しでも嘘が混じっていたら………………」
A「分かった! 分かった……! 神に誓って真実を語ろう」

A「まず、さっき、ターゲットと云ったが――、あれも嘘だ。今回のは上の指示じゃない。兵士の中には、あんたが気にくわない連中がいた」
刃沼「そんな……様子、なかった。みんな優しくしてくれた!」
A「表面的には、な。だが本音は、優秀過ぎるあんたが気に食わなかったらしいぜ」
刃沼「いつも不自然なほど、笑顔だった……」
A「不自然にもなるさ。心の中では憎んでいたんだからな」
刃沼「なんで、……だからって、殺す、という発想に?」
A「ここでは誰もが競争相手さ。そしてみんながいなくなればいいと思うのは、自分より優れた奴さ。あんたは、ずば抜けて優れていたために、全員の恨みを買ったっ……!」
刃沼「…………」
A「だからって、相手があんただと、半端ないじめを仕掛けることもためらった。どんな反撃を受けるか分からりゃしないからな」
刃沼「あんたも――」
A「…………」
刃沼「あんたも、他の人たちと同じ? 私を憎んで、今回のことに手を出したの……?」
A「い、いや……。俺はただ、拒否するのが怖かっただけで……」
刃沼「…………嘘は駄目」
A「嘘じゃない! 本当だ! 俺はあんたに恨みなんて。……おい?」
 刃沼は涙を流していた。
A「おいッ!!?」 Aは、刃沼の胸ぐらを掴《つか》み、地面に倒して、そのまま力任せに押さえつけた。
刃沼「誰も……信用できない……っ」 刃沼は、Aの眉間へ発砲した。
 もうすぐ日が昇る。
刃沼「ただ殺し合うだけ、苦しめるだけの人間。敵味方……。味方というものは存在しない! 敵も味方も無い。そのとき味方でも、いずれ全部、敵になる。意味の無い人間」
 朝日の差す中、刃沼が一人、泣きながら歩く。辺りは血の光景。一人だけが生きていた。

■もといた施設に帰ってきた。
 受話器を片手にキープアウトが尋ねる。
キープアウト「全部、破壊したのか? 連絡が取れないんだが」
刃沼「…………」
 刃沼は気だるい顔に涙を滲ませ、疲れ切った様子だった。
キープアウト「……まあいい。次の戦いに備えて、ゆっくり休め」
 刃沼はすこし呻《うめ》いたのち、走り去った。部屋に入る前に、ヘレネーとすれ違った。ヘレネーは一目見て、刃沼の異変に気づく。
ヘレネー「刃沼、何があった……?」
 部屋に入る。扉が閉まる。鍵もかけられた。
ヘレネー「刃沼……」
 とてもぼんやりとした気分だった。部屋を見渡す。いろいろ散らかっている。雑誌、マンガ、積み木、ゲーム機、パズル、ノートパソコン、拳銃……。拳銃を手に取った。頭部に銃口を当てた。引き金が重いな、と思っていたとき、扉の向こうから声がした。
ヘレネー「刃沼よォ……。オレは生きていて欲しいもんだなァ」
 どういう意味だろうと思ったときに、銃口がこちらを向いていることに気づき、慌てて銃を放り投げた。

キープアウト「何? 刃沼の仕事をやめさせてほしい?」
ヘレネー「ああ、頼むぜ。学生だって冬休みくれぇあるだろ?」
「ばかもん。利用価値があるから育てて面倒見てやってるのであって、仕事ができなきゃ、刃沼の存在価値など、ない」
ヘレネー「だっていつも危険ばっかりでよ……。いつ死んじゃうか心配だぜオレは……」
「当たり前だ! ばかたれ。戦闘が仕事だ。安全な戦闘など、ありえない!!」
ヘレネー「もう十分、利用したろ? 少しは本人の人生のことも考えてくれよ……。あいつにゃ、あいつなりの人生もあるだろ」
キープアウト「お前は冗談を云いに来たのか? 刃沼は俺の道具なのだ。本人にも、そのことは小さいときから、よーく云い聞かせ、了承も得ている。お前の口出しするものでは断じて無い」
ヘレネー「幼いときの約束なんて……意味がねえ! そんなん……!」
キープアウト「俺は、衣・食・住、もろもろを与え、刃沼を生かしてやっている。その報いとして、刃沼は俺に戦力を提供する。どうだ? 持ちつ持たれつというやつだ。何事もバランス良くなりたっている。お前は、それを、壊せと云うのか!? お前は報酬と引き換えに労力を提供してもらうと云う社会の仕組みを否定する気か!? 馬鹿も大概にしろッ!!」
ヘレネー「オレはな、刃沼によ、もっとマシな……、もっと普通な生き方だったらな、と……。殺し合いの世界じゃなくさ……、学校帰りに近所のガキと缶蹴りでもするような、さ……」
キープアウト「それは目先しか見ていない考えだ。俺は大局的に考えている。そして今の人生がある。問題は無い。これが最善だ」
ヘレネー「…………そうかよ」 ヘレネーは廊下に出、しばらくうなだれた。「あいつめ。刃沼を使い潰す気だ……。奴にとっちゃ殺人マシンに過ぎないんだからな。修理できなくなるまで酷使されて、それからポイッって捨てられる。そんなもんだ。何とかならねえか、刃沼よぅ……」

   *
 それからしばらく。ある日、刃沼が外出しようとした。
キープアウト「おい! 忘れもんだ!」 ライフルを差し出す。
刃沼「いらない」
キープアウト「防弾チョッキは?」
刃沼「着てる」
キープアウト「拳銃を持ってるのか?」
刃沼「何も……」
キープアウト「外に出るときは、武器を持つよう、いつも口を酸っぱく云っただろ!」
 キープアウトは叱りつけ、刃沼にライフルを投げつけた。そして拳銃を取り出しながら、刃沼に迫る。刃沼は怯えて、後ずさりした。
キープアウト「動くな!」 持っていた拳銃を、刃沼のポケットに突っ込んだ。その後、もといたソファへ戻っていった。
刃沼「いらないッ!」
 刃沼はポケットの拳銃をキープアウトの後頭部目がけて投げた。
「ぅぐえッ」
 キープアウトは頭をすーっと横にそらした。投げられた拳銃は、その後ろでテレビを見ていたヘレネーに激突した。刃沼は外へ走り去った。部屋の中ではヘレネーが頭をかかえ呻いている。
 無我夢中に街中を突っ切るように走った刃沼。気付くと、団地の見えるどこかの路地にいた。男とすれ違う……。
男「えッ!?」
刃沼「ん……?」
男「お前……。やっぱりお前だな……ッ!」
 いきなり、刃沼は殴り飛ばされた。頭をコンクリに激突させ、朦朧《もうろう》。動けなくなる。そのままずるずる引きずられ、人気の無い路地の隅に連れて行かれた。
「ようやく、仲間の仇がうてるというもんだ」
 男はサイレンサー付きの拳銃を取り出した。そして容赦なく撃つ。
刃沼「……」
 数発の弾丸、刃沼の身体を貫いた。刃沼の意識、さらに遠のく。身体は勝手に痙攣《けいれん》を起こす。自分の周囲が血で濡れる。
刃沼(これまで、かぁ…………。もういい。死にたい。生きたくは、ない。苦しいのは、これまでにしたい。楽にさせて、欲しい……。何もいらない。――自分も……誰も、みんなが死んだらいい)
 刃沼の意識が完全に消える前、先程までの男が、頭部だけ下に置いてあるのを見た。それを見てから、そういえばドサッとさっき落ちる音がしたなと、刃沼は思った。少し離れた位置にキープアウトいた。手にしたマシンガンから煙を燻《くゆ》らしながら。

■医療施設
 目を開ける。最初に見えたのは、ホッと安心した顔のヘレネーだった。ヘレネーが刃沼の手を握っていたので、刃沼も強く握り返した。
ヘレネー「痛い、痛い、痛い、痛えっ!!」
ドクター「何? もうそこまでの回復が?」
 ベッドの上で、上体を起こした。
ドクター「いかん、まだ。もう少し横になっていなさい」 戻された。
 そこへキープアウトもやってきた。ジロリとした目を刃沼に向けた。そして無言のまま、銃を構える。ドクターの表情が強張った。構えた銃を、刃沼のベッドの上に、放り投げた。
ヘレネー「バカか、あんたは!」
キープアウト「バカはお前の方だ。今回のことを見ても分かるだろう。刃沼は、いつ何時、敵に襲われてもおかしくない人間なのだ。ここ一帯に警備・護衛は敷いてあるが、当人にも武器を持たせた方が良いに決まっている。最後に頼れるのは自分自身だけだからな」
ヘレネー「刃沼が狙われるようになったのも、あんたのせいだろ! もう放っておいてくれねえか……。平和に生かしてやれよ」
キープアウト「応戦しなければ、ただ死ぬだけだ。平和は、もう手遅れだ。武器がいらないと云うことは、無抵抗で殺されることを望む、ということなのか?」
ヘレネー「……」
キープアウト「だいたいヘレネーも、なぜ、そこまで刃沼に関わろうとする? ただの他人だろ」
ヘレネー「あんたには分かんねえよ! 人を道具にしか思ってない奴にはな」
キープアウト「道具でなければ、なんだと云うのだ?」
ヘレネー「…………」
 刃沼は自分の上にあった、銃を払いのけた。
キープアウト「それがお前の答えか? これからは無抵抗で生きると、いうのか? そしてすぐに殺されても構わない、と?」
刃沼「いや……、ただ邪魔だっただけ」
キープアウト「そうか」
 落ちた銃を拾い上げ、そばにあったテーブルに置く。
刃沼「持って行って。今はそれを見るだけで、具合悪くなる」
キープアウト「…………」 キープアウトは渋々、銃を自分のポケットにしまった。「まぁ……、お前が殺されるのはもったいないが……。それだけだ。戦えなくなった者は、好きにしたらいい」

■それから
 それから刃沼は、ヘレネーの手を借りて、施設を逃げ出した。そしてどこか郊外に見つけた洞窟に住み着く。
「普通の奴はな、学校ってトコに、みんなでわんさかと集まるもんなんだってよ。入学する当てはあるんだ。オレたちも行ってみっか?」
「うん。行ってみたい」
 ということで学校に通うことになった。けれど、それはまた別の話。
――まだこの頃の刃沼にとって、学校というは、お話の中だけにあるファンタジーだった。想像上の世界だった。しかし……やはりそこも憎悪のからむ人間社会に他ならなかった。

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